たそがれ
我が家には、縁側なるものがある。陽の当たるそこに腰掛け庭を眺めるじいじの背中は少しだけ小さくなり、少しだけ丸まった。傍らには、こちらも丸まって寛ぐ猫のタマ。
「じいじ、なーにたそがれてんの」
「ん、いや、なに。何にもしとらんよ」
かつては威厳のあった声も少し細くなった。隣に腰掛け、同じように庭を眺める。以前はかなりの数を世話していた盆栽も今は一つだけ。その残された一つは、かつて弟がボールをぶつけ、枝が折られた曰くありのものだ。
何年前だったか、あの時もこの部屋だった。この部屋で弟はじいじとタマの連携によってこってりしぼられた。そんな弟もデカくなり青春を謳歌中である。
「じいじ、まだまだ長生きしてよ」
「何じゃい、藪から棒に。お前こそ、はよ、ひ孫の顔でも見せんかい」
「いやーそれは先の長い話だねぇ。俺、まず相手いないし」
まったく、奥手過ぎんか。儂の若い時分には…なんて話を聞きながら。ふと会話が途切れ、二人してただただ庭を眺める。
「うわ、なに二人でたそがれてんの」
遠慮のない声は弟のもの。図体はデカくなったが若干お調子者なところはそのままで。
じいじの横で微睡むタマにちょっかいをかけ、いつかのように手を引っ掻かれる。静かだった部屋が少しだけ賑やかになる。
10/1/2024, 12:09:59 PM