誇らしさ
「美夜〜すごいわね。テストでこんなにいい点数とるなんて〜。かっこいいね!」
お母さんが笑顔でそう言った。
私には妹がいる。
双子の妹だ。
妹は可愛いし、頭はいいし、運動神経は抜群だし、みんなに好かれる。
それに比べて私は地味だし、頭は普通で赤点ギリギリの時だってある、運動神経はすごく悪い。
なんの取り柄もない。
妹とは正反対だ。
でもだからと言って小説みたいに親から責められるわけでもないし、お母さんは「美海は美海のいいところがあるのよ。」っていつも言ってくれて全然優しい。
こんな私でも大切にしてくれる。
でも、どうしても比べる人はたくさんいてそのたびに苦しくなる。
なんで双子なんだろうって。
なんでこんなに違うんだろうって。
みんなみんな私より美夜だ。
好きな人も友達も全部全部美夜にいく。
私はこれ以上お母さんと美夜のところにいたくなくて、いれなくて、外に出る。
はぁー、私って存在しなくてもいいな。
消えたい。
少し歩いて公園のベンチに座った。
「はぁー」
ため息をついたその時だった。
「まーた。美海、ため息ついてる。
美海は美海じゃん。比べなくていいの!」
そう言って私の横に座ったのは幼なじみのこうただった。
「だって、美夜は頭もいいし、性格いいし、運動神経もいいし。それに比べて私はなんの取り柄もないんだよ?
誇れるものもないもない。
誰からも求められないし、必要ないもん。私。
もう消えても誰も悲しまないん「ふざけんなよ!」
私の声を遮ってこうたが言った。
こうたの顔を見てみると悲しんだような怒った顔をして私を見ていた。
「なぁ、消えてもいいなんていうなよ。美海。」
こうただっていつか私の前からいなくなって美夜がよくなるんだよね。きっと。
今はただ励ましてくれてるだけ。
「そうだよね。ごめんねこんなこと言っちゃって。
こうたもきっと美夜が良くなるよ。
こんなこと言って気分悪いよね。ごめんね。」
美夜ならきっとこんなこと言わないよね。
こうたは真剣な顔して言った。
「だからなんでだよ?
今までずっと幼なじみの線を越えられなくて言えなかったけど、俺は俺は!
美海が好きなんだ。
美夜でもない、美海が!
美海が俺を嫌いにならない限りは一緒にいるし、何よりお前が取り柄も誇れるものが何もないっていうなら
俺が誇れる理由になるから。
俺は美海が好きだ。
俺が美海のそばにいたい。
俺が美海にそばにいてほしい。
美海が美海自身が一番いいんだ。」
「こうた・・・・・・・」
そう思ってくれてたんだ。
本当に本当に私が好き?
私でいいの?
「ありがとう。私こうたが求めてくれるならこうたがいてくれるならもう消えたいなんて思わない。
ありがとう。」
そういうと君は眩しい笑顔で言った。
「これからもよろしく。美海。」
完
夜の海
息苦しい。
辛い。
苦しい。
日々の生活の中で限界になりそうだった。
いつも、疲れた日は夜の海にくる。
浜辺をゆっくりと歩く。
これが私には高校生になってからの唯一の楽しみだった。
「はぁー、どっか遠くに行きたい。
消えてしまいたい。」
誰か助けて
そう思った時私は意識が途切れた。
目覚めた私は海の中にいた。
やばいっ!溺れた!?早く早く助けを求めなきゃ。
でも・・・・・・・・・・・
もういいかな。
疲れたし。このまま沈んで死ねれば楽かもしれない。
いっか。
私は足掻くことをやめてそのまま海の流れに任せて目を閉じた。
けれど、いつまで経っても息苦しさがこない。
なんで、普通海に入ったら当然息は苦しくなる。
それなのに、なぜ?
異様な状況に慌てながらも周りを見てみる。
っ!?
私の体が!
テレビで見るようなにんぎょになってる。
私、にんぎょになっちゃったの?
どうしよう。これどうすればいい?
どこに行ったらいいんだろう。
「おい。どうした?」
声がした。
声の方に目を向けてみると男の人がいた。
どう言うことなのか聞けると思って近寄り、話しかける。
「あの、私なんかにんぎょになっちゃったみないなんですけど。」
そう言うと男の人は納得したように言った。
「そうか。お前もか。じゃあ、ついて来て。」
「はい。」
男の人に言われるままについていくと人がにんぎょが男の人がいた。
さっきから思ってたけど、男の人はなんでちゃんと人間の姿なの?
「よし。お前ら、新しい仲間だ。」
それは、学校で転校してくる子を先生がみんなに紹介するような感じを思い出した。
私はまだ状況が理解できていなくて、
「あの、ここはいったい?
どう言うことですか?
なんで私はこんな姿に?」
私がみんなに投げかけると私と同じようなにんぎょの姿をした女の人が言った。
「あぁ、それはね。
まいちゃんさ?海の前で考え事してなかった?
地上で苦しい思いをしてきたんじゃない?
ここはね、そういう地上で息苦しさを感じた人とか海で悲しいことを願った人達が来るんだよ。
だから私も今はもうここに馴染んだけど元々は人間で地上で過ごしてたよ?」
そうなんだ。
だから私も。
このにんぎょになったってことは簡単に信じられないけど、状況は理解できた。
するとまたさっき説明してくれた女の人が話し始めた。
「元々人間だった人には決まりがあるの。聞いてね?
あのね、私達は満月の夜には地上に戻らなくてはいけない。でも、地上に戻ってから次の日になるとまたここに来ていいってことになってる。
これは絶対ね?でも、地上に戻ってからまた来るかはあなた次第。好きなようにできる。
もしも、決まりの満月に地上に戻るって言う決まりを破ったらもう2度ここには来れなくなる。
これぐらいかな。説明することは。」
なるほどね。
ここには好きなだけいていていいのか。
それから何日か経って
そこは、海の中はすごく心地よかった。
気を遣わないでいいし、人の目も気にしなくていいし、同じ海にいる子達はいい子ばっかりだし。
もう最高だった。
ここが私の居場所だって。そう思えたんだ。
だからここにこれて良かった。
心からそう思えた。
完
こんな世界があったらいいですよね。
自分にとって心地の良い場所。
羨ましい!
自転車に乗って
毎日がつまらない日々だ。
自転車に乗って学校行って、つまらない学校で勉強して、また自転車に乗って帰ってくる。
実につまらない。
毎日同じことの繰り返しだ。
そんなふうに思いながらも今日も自転車に乗って学校に向かう。
寝起きの悪い頭に嫌気がさして今日は無性にイライラする。
何か楽しいことはないのだろうか。
「はぁー、つまんねぇーの」
口に出してそう呟いた瞬間大きな風が吹いた。
バランスを崩さないように必死に漕ぐがあまりにも強すぎる暴風に目を瞑った。
目を瞑っていると頭に鋭い痛みが走った。
痛みに頭の中は支配され、そこで意識を手放した。
ここはどこだ?
俺はどうなっているんだ?
起きたら全く知らない景色が広がっていて呆然とした。
俺は学校に行こうと自転車に乗っていた。
けど、強い風が吹いて頭が急に痛くなってそこで意識が途切れたんだ。
ここにくる前の状況を思い出してみるがやっぱりわからない。
「今度は君か。」
誰かの声が聞こえた。
声の方を向いてみるとそこには俺と同じくらいの少年がいた。
「おまえ、は?」
そう聞くと彼は笑って言った。
「ついてきてよ。僕の名前はソラ。僕はここがどこかは教えることはできないね。でも君に害のあることはしないから安心してよ。」
少年はソラと名乗った。
それから少し歩いた。
歩いているとトンネルが見えてきて俺達はそこをくぐった。
トンネルを抜けた先は不思議だらけの世界だった。
花はどれも綺麗に咲いていて色も不思議な色をしている。セミの鳴き声もなんだか聞いたことない音を出している。
「なぁ、ソラ。ここは?」
「うん。不思議な空間だよね。
ねぇ、空を見てみてよ。」
そう言われて空を見上げる。
空には青空が広がっていた。
こんなに空は綺麗なのか。
知らなかった。
少しみたら次はどんどん空の色が変わってきた。
どんどん青、黄色、水色、オレンジ、ピンクとグラデーションのようになっていく。
綺麗だ。
「ねえ。空は綺麗でしょ?
青空もこんなふうにグラデーションしている空もさ。
空はね。綺麗なんだよ。
広いんだよ。どこまでもどこまでも繋がっている。
だからさ、迷った時とかつまんない時とかさ、上を見てみなよ。空が当たり前のように綺麗にそこにあるんだからさ。」
ソラはそう言った。
「でも、俺がさっきいた世界にはこんな綺麗じゃない」
そういうとソラは笑う。
「君はちゃんと上を向いて空を見たことある?
今日が初めてだったんじゃない?」
「そんなこと、」
ない、なんて言えなかった。
「君がいた世界にも綺麗な空あるんだよ。
視野が狭くて見えてなかっただけ。
帰ってから確かめてみるといいね。」
そうだ。
つまらない。つまらないって言うだけで周りを見ていなかったのかもしれない。
こんなにも綺麗な空があるんだ。
自分があまりにも周りを見ていなかったことに気づかされた。
「気づいたみたいだね。
世界の見方が変われば自ずと過ごし方が変わってくるんだよ。見方次第で変えられるんだ。
でも、もうお別れの時間だ。
帰ってから君がどんなふうに過ごすのか楽しみだね。」
お別れ?
もう元の世界に戻ってしまうのか。
少しまだいたいと言う気持ちが残っていた。
まだいたかった。
そう思うと同時に来た時の同じように強い風が吹いて頭が痛くなる。
大切なことを教えてくれた不思議な少年の姿を見ながら俺はだんだん意識が朦朧としそうになりながらも
お礼を言う。
「ありがとう。」
少年は笑って頷いてくれた。
そこで意識が途切れた。
目を覚まして1番に見たのは真っ白な天井だった。
保健室のようだった。
隣を見てみると友人がいた。
「おい、おい!お前びっくりしたぞ?
お前、道で倒れてんだもん。
何回声かけても目を覚まさないし。これ以上覚まさなかったら病院に行こうって先生が言ってたくらいなんだからな。
ちょっと待ってろ?先生呼んでくる。」
友人が先生を呼びに行ってくれた。
1人になって考えた。
倒れていた?
じゃあ、夢なのか?
少年と会って綺麗な世界を見て、あの感動した瞬間は夢?幻?
確かに現実であんな不思議なこと起きるわけがない。
現実ではないことにがっかりする。
残念な気持ちでいるとカサッと音がした。
制服のポケットに紙が入っていた。
なんだろう?
入れたっけ?
見覚えのない紙を開くとそこには
''君が見た世界を経験を忘れないで。
上を向いて、楽しく生きるんだ。
下ばかり向いているとその先に待っているものはないから。
上を向いて。
ソラ''
その手紙が夢ではなく今起きたことだったと信じさせてくれた。
ソラという少年は間違いなくいて、あの感動は嘘じゃなかったと言うことを確信させてくれた。
あの不思議な出来事がなんだったのかはわからない。
あんな世界がこの世にあるのかもわからない。
謎だらけだ。
けど、俺にできることは前を上を見て生きることだ。
今度、あの少年に会った時には堂々と楽しくいられるように。
そう願い、空を見上げた。
完
「なぁー、ねーちゃん。
じいちゃんの家に行ったら、仏様に線香を立てて手を合わせるじゃん?
あの時何を思う?
なんか願う?」
弟から聞かれた。
何を願うか。
私は
「うーん、まず最初に家族の健康かな?
これからも心身ともに健康でありますように。ってね?
で、自分の願いはそうだな〜。
人の気持ちを分かりたい。かな?」
悩んだ末にそう言うと弟は笑った。
「なんだそれ。人の気持ちを分かりたい?
んな、大体は分かるだろ。
てか、そうだよなー、やっぱり家族が健康にだよなー。
俺いつも思ってた。
あんなに手を合わせて目をつぶってるとき何を考えればいいんだろって。
ぼけーっとしてるだけじゃなぁ。」
笑いながら弟は言う。
弟はバカにしてきたけど、人の心の声が聞けたらどんなに楽か。
この人はどう思ってるんだろーとか。
考えなくて済むし、女同士の面倒ごととか回避できそうだし。
あぁー、いいよね。弟は呑気な頭で。
あんまり悩みとかなさそうだし。
羨ましい気持ちになって少しムッとなる。
だから私は少し意地悪なことを言った。
「あんたは、家族の健康の次に自分の頭が良くなりますよーに。がいいんじゃないの?
まあ、努力でしかどうにかならないけど、勉強のやる気スイッチぐらいご先祖様にとしてもらえるようにねー
そしたらその馬鹿みたいにな頭少しは良くなるんじゃない?」
バカにすると弟は拗ねた顔をして言う。
「うっせっ!
そこまで言われるとムカついてきた!
俺は神頼みなんかじゃなく、1人で成績上げてやる〜
ねぇーちゃんにもうバカだなんて言わせねーから!」
おー、私が弟のやる気スイッチを押したみたいだ。
神様じゃないけどね。笑笑
早速、勉強机に向かう彼を見て笑うのだった。
あぁー、今日も平和だな。
ありがとうございます!神様、仏様!
完
君の奏でる音楽
「覚えるか?
学生の時さぁ、友希とよくピアノを弾いたよな?
俺たちピアノで出会ったようなもんだし。」
昔のことを思い出して言った。
「あぁ、覚えてる、覚えてる!
よく2人で放課後にピアノ弾いたよね!
楽しかったな。」
友希も覚えてるようだった。
友希と出会ったきっかけは音楽だった。
懐かしいな。
あれは高校2年
俺は帰宅部で今日の放課後も何もなく帰ろうとしている時だった。
ポロロン〜〜ポロポロ〜〜
ピアノの音が音楽室から聞こえて来た。
綺麗な音。
誰が弾いているのだろうか。
気になって、音に惹きつけられるように歩き音楽室にたどりついた。
誰が弾いているのか廊下から覗いてみるが見えない。
少しだけ。少しだけ見ていきたい。
こんなに綺麗で美しい音色を奏でる人はどんな人なのだろう。
中に入ってそっと近く。
ピアノを弾いている人を見ると女の子だった。
とても綺麗な顔立ちをしている。
2年生では見ない顔だ。
3年生だろうか。
それにしても本当にピアノが上手いんだな。
美しい音が聞こえるなか思わずぼっーと立って聞いていた。
「あの・・・・・・・・・・」
ピアノを弾いてる彼女がこっちを向いて不思議そうな顔をしていた。
しまった。
すぐ出て行くつもりだったのに。
ピアノの音に聞き入っていてすぐ出ようとしていたことを忘れていた。
「あぁ、ごめんなさい。あまりにも音色が綺麗だったから。」
そう言うと彼女は微笑んで言う。
「あぁ、ありがとう。
私ね、部活してなくて暇でこうやってたまにピアノを弾くの。」
整った顔で俺に微笑んでまたゆっくりと音楽を奏でる。
そして、同時に話しかけてきた。
「あなたは?なにしにきたの?
名前は?」
「俺は夏木 奏 です。2年です。」
自己紹介をすると彼女は微笑んで言う。
「奏くんね。
私は音羽 友希。3年生ね。」
やっぱり先輩だったのか。
あまり見ない顔だったからな。
頷いて彼女が奏でる音楽を聴く。
やっぱり綺麗で落ち着く音色をしている。
彼女が弾き終わるまで少しだけ待っていた。
ポロン
彼女は弾き終わってからこっちを向いた。
「おいでよ。奏くんも弾いてみない?」
少しだけ弾いてみようか。
久しぶりだし。上手く弾けるか分からないけど。
「はい。」
俺は小さい頃にピアノを習っていた。
小5ぐらいまで習っていたけど、やめた。
だからそれなりには弾けるかもしれない。
彼女には負けるけど。
ポロロン〜〜〜
それから少しだけ弾いた。
久しぶりのピアノに少し楽しくなりながらもゆっくりと音を奏でる。
弾き終わって手を止めた。
「奏くん、すご〜い。
ピアノ習ってたの?じゃないとこんなに弾けないよね!」
キラキラした目で褒められて照れ臭くなった。
「先輩には負けますよ。」
それから2人でピアノを弾きながらそして会話も交えながら時間を過ごした。
先輩と過ごした時間はあっと言う間に終わって少し名残惜しかったけれど、先輩は言った。
「ねぇ?奏くんも帰宅部なんでしょ?
これからお互い暇な時はここで一緒にピアノ弾いたり話したりしようよ。」
ドキッ
先輩の綺麗な顔で見つめられて、心臓が大きく高鳴る。
「は、はいっ。先輩がいいんだったら俺はいつでも暇ですから大丈夫です。」
そう言ったら彼女は微笑んで頷いた。
「よしっ!じゃあ、決まりね?」
それから俺たちは毎日のように音楽室に集まった。
俺たちは毎日集まって一緒に時間を過ごして行くうちにお互いを好きになって、付き合うことにした。
一緒に過ごして行く時間の中にはピアノを弾かすお互いのことを話すだけって言う日もあった。
放課後という短い時間の中で、お互いのことを知る。
かけがえのない大切な時間だった。
「あの時、楽しかったよねー。」
友希が妻になってから3年。
あの時、ピアノの音を聞いて音楽室に入って良かった。
「あの時、友希に出会えてよかった。
結婚してくれてありがとう。」
普段はあまり言えない言葉も、あの時のことを思い出している今はどんな感謝の言葉でも伝えられる気がした。
「出会えて良かった」
そう言ってあの頃と変わらずに綺麗に笑う彼女にそっとキスをしたーーー
完