のぞみ

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君の奏でる音楽

「覚えるか?
学生の時さぁ、友希とよくピアノを弾いたよな?
俺たちピアノで出会ったようなもんだし。」
昔のことを思い出して言った。
「あぁ、覚えてる、覚えてる!
よく2人で放課後にピアノ弾いたよね!
楽しかったな。」
友希も覚えてるようだった。
友希と出会ったきっかけは音楽だった。
懐かしいな。

あれは高校2年
俺は帰宅部で今日の放課後も何もなく帰ろうとしている時だった。
ポロロン〜〜ポロポロ〜〜
ピアノの音が音楽室から聞こえて来た。
綺麗な音。
誰が弾いているのだろうか。
気になって、音に惹きつけられるように歩き音楽室にたどりついた。
誰が弾いているのか廊下から覗いてみるが見えない。
少しだけ。少しだけ見ていきたい。
こんなに綺麗で美しい音色を奏でる人はどんな人なのだろう。
中に入ってそっと近く。
ピアノを弾いている人を見ると女の子だった。
とても綺麗な顔立ちをしている。
2年生では見ない顔だ。
3年生だろうか。
それにしても本当にピアノが上手いんだな。
美しい音が聞こえるなか思わずぼっーと立って聞いていた。
「あの・・・・・・・・・・」
ピアノを弾いてる彼女がこっちを向いて不思議そうな顔をしていた。
しまった。
すぐ出て行くつもりだったのに。
ピアノの音に聞き入っていてすぐ出ようとしていたことを忘れていた。
「あぁ、ごめんなさい。あまりにも音色が綺麗だったから。」
そう言うと彼女は微笑んで言う。
「あぁ、ありがとう。
私ね、部活してなくて暇でこうやってたまにピアノを弾くの。」
整った顔で俺に微笑んでまたゆっくりと音楽を奏でる。
そして、同時に話しかけてきた。
「あなたは?なにしにきたの?
名前は?」
「俺は夏木 奏 です。2年です。」
自己紹介をすると彼女は微笑んで言う。
「奏くんね。
私は音羽 友希。3年生ね。」
やっぱり先輩だったのか。
あまり見ない顔だったからな。
頷いて彼女が奏でる音楽を聴く。
やっぱり綺麗で落ち着く音色をしている。
彼女が弾き終わるまで少しだけ待っていた。
ポロン
彼女は弾き終わってからこっちを向いた。
「おいでよ。奏くんも弾いてみない?」
少しだけ弾いてみようか。
久しぶりだし。上手く弾けるか分からないけど。
「はい。」
俺は小さい頃にピアノを習っていた。
小5ぐらいまで習っていたけど、やめた。
だからそれなりには弾けるかもしれない。
彼女には負けるけど。
ポロロン〜〜〜
それから少しだけ弾いた。
久しぶりのピアノに少し楽しくなりながらもゆっくりと音を奏でる。
弾き終わって手を止めた。
「奏くん、すご〜い。
ピアノ習ってたの?じゃないとこんなに弾けないよね!」
キラキラした目で褒められて照れ臭くなった。
「先輩には負けますよ。」
それから2人でピアノを弾きながらそして会話も交えながら時間を過ごした。
先輩と過ごした時間はあっと言う間に終わって少し名残惜しかったけれど、先輩は言った。
「ねぇ?奏くんも帰宅部なんでしょ?
これからお互い暇な時はここで一緒にピアノ弾いたり話したりしようよ。」
ドキッ
先輩の綺麗な顔で見つめられて、心臓が大きく高鳴る。
「は、はいっ。先輩がいいんだったら俺はいつでも暇ですから大丈夫です。」
そう言ったら彼女は微笑んで頷いた。
「よしっ!じゃあ、決まりね?」
それから俺たちは毎日のように音楽室に集まった。
俺たちは毎日集まって一緒に時間を過ごして行くうちにお互いを好きになって、付き合うことにした。
一緒に過ごして行く時間の中にはピアノを弾かすお互いのことを話すだけって言う日もあった。
放課後という短い時間の中で、お互いのことを知る。
かけがえのない大切な時間だった。


「あの時、楽しかったよねー。」
友希が妻になってから3年。
あの時、ピアノの音を聞いて音楽室に入って良かった。
「あの時、友希に出会えてよかった。
結婚してくれてありがとう。」
普段はあまり言えない言葉も、あの時のことを思い出している今はどんな感謝の言葉でも伝えられる気がした。
「出会えて良かった」
そう言ってあの頃と変わらずに綺麗に笑う彼女にそっとキスをしたーーー


                      完

8/12/2023, 11:57:21 AM