自転車に乗って
毎日がつまらない日々だ。
自転車に乗って学校行って、つまらない学校で勉強して、また自転車に乗って帰ってくる。
実につまらない。
毎日同じことの繰り返しだ。
そんなふうに思いながらも今日も自転車に乗って学校に向かう。
寝起きの悪い頭に嫌気がさして今日は無性にイライラする。
何か楽しいことはないのだろうか。
「はぁー、つまんねぇーの」
口に出してそう呟いた瞬間大きな風が吹いた。
バランスを崩さないように必死に漕ぐがあまりにも強すぎる暴風に目を瞑った。
目を瞑っていると頭に鋭い痛みが走った。
痛みに頭の中は支配され、そこで意識を手放した。
ここはどこだ?
俺はどうなっているんだ?
起きたら全く知らない景色が広がっていて呆然とした。
俺は学校に行こうと自転車に乗っていた。
けど、強い風が吹いて頭が急に痛くなってそこで意識が途切れたんだ。
ここにくる前の状況を思い出してみるがやっぱりわからない。
「今度は君か。」
誰かの声が聞こえた。
声の方を向いてみるとそこには俺と同じくらいの少年がいた。
「おまえ、は?」
そう聞くと彼は笑って言った。
「ついてきてよ。僕の名前はソラ。僕はここがどこかは教えることはできないね。でも君に害のあることはしないから安心してよ。」
少年はソラと名乗った。
それから少し歩いた。
歩いているとトンネルが見えてきて俺達はそこをくぐった。
トンネルを抜けた先は不思議だらけの世界だった。
花はどれも綺麗に咲いていて色も不思議な色をしている。セミの鳴き声もなんだか聞いたことない音を出している。
「なぁ、ソラ。ここは?」
「うん。不思議な空間だよね。
ねぇ、空を見てみてよ。」
そう言われて空を見上げる。
空には青空が広がっていた。
こんなに空は綺麗なのか。
知らなかった。
少しみたら次はどんどん空の色が変わってきた。
どんどん青、黄色、水色、オレンジ、ピンクとグラデーションのようになっていく。
綺麗だ。
「ねえ。空は綺麗でしょ?
青空もこんなふうにグラデーションしている空もさ。
空はね。綺麗なんだよ。
広いんだよ。どこまでもどこまでも繋がっている。
だからさ、迷った時とかつまんない時とかさ、上を見てみなよ。空が当たり前のように綺麗にそこにあるんだからさ。」
ソラはそう言った。
「でも、俺がさっきいた世界にはこんな綺麗じゃない」
そういうとソラは笑う。
「君はちゃんと上を向いて空を見たことある?
今日が初めてだったんじゃない?」
「そんなこと、」
ない、なんて言えなかった。
「君がいた世界にも綺麗な空あるんだよ。
視野が狭くて見えてなかっただけ。
帰ってから確かめてみるといいね。」
そうだ。
つまらない。つまらないって言うだけで周りを見ていなかったのかもしれない。
こんなにも綺麗な空があるんだ。
自分があまりにも周りを見ていなかったことに気づかされた。
「気づいたみたいだね。
世界の見方が変われば自ずと過ごし方が変わってくるんだよ。見方次第で変えられるんだ。
でも、もうお別れの時間だ。
帰ってから君がどんなふうに過ごすのか楽しみだね。」
お別れ?
もう元の世界に戻ってしまうのか。
少しまだいたいと言う気持ちが残っていた。
まだいたかった。
そう思うと同時に来た時の同じように強い風が吹いて頭が痛くなる。
大切なことを教えてくれた不思議な少年の姿を見ながら俺はだんだん意識が朦朧としそうになりながらも
お礼を言う。
「ありがとう。」
少年は笑って頷いてくれた。
そこで意識が途切れた。
目を覚まして1番に見たのは真っ白な天井だった。
保健室のようだった。
隣を見てみると友人がいた。
「おい、おい!お前びっくりしたぞ?
お前、道で倒れてんだもん。
何回声かけても目を覚まさないし。これ以上覚まさなかったら病院に行こうって先生が言ってたくらいなんだからな。
ちょっと待ってろ?先生呼んでくる。」
友人が先生を呼びに行ってくれた。
1人になって考えた。
倒れていた?
じゃあ、夢なのか?
少年と会って綺麗な世界を見て、あの感動した瞬間は夢?幻?
確かに現実であんな不思議なこと起きるわけがない。
現実ではないことにがっかりする。
残念な気持ちでいるとカサッと音がした。
制服のポケットに紙が入っていた。
なんだろう?
入れたっけ?
見覚えのない紙を開くとそこには
''君が見た世界を経験を忘れないで。
上を向いて、楽しく生きるんだ。
下ばかり向いているとその先に待っているものはないから。
上を向いて。
ソラ''
その手紙が夢ではなく今起きたことだったと信じさせてくれた。
ソラという少年は間違いなくいて、あの感動は嘘じゃなかったと言うことを確信させてくれた。
あの不思議な出来事がなんだったのかはわからない。
あんな世界がこの世にあるのかもわからない。
謎だらけだ。
けど、俺にできることは前を上を見て生きることだ。
今度、あの少年に会った時には堂々と楽しくいられるように。
そう願い、空を見上げた。
完
「なぁー、ねーちゃん。
じいちゃんの家に行ったら、仏様に線香を立てて手を合わせるじゃん?
あの時何を思う?
なんか願う?」
弟から聞かれた。
何を願うか。
私は
「うーん、まず最初に家族の健康かな?
これからも心身ともに健康でありますように。ってね?
で、自分の願いはそうだな〜。
人の気持ちを分かりたい。かな?」
悩んだ末にそう言うと弟は笑った。
「なんだそれ。人の気持ちを分かりたい?
んな、大体は分かるだろ。
てか、そうだよなー、やっぱり家族が健康にだよなー。
俺いつも思ってた。
あんなに手を合わせて目をつぶってるとき何を考えればいいんだろって。
ぼけーっとしてるだけじゃなぁ。」
笑いながら弟は言う。
弟はバカにしてきたけど、人の心の声が聞けたらどんなに楽か。
この人はどう思ってるんだろーとか。
考えなくて済むし、女同士の面倒ごととか回避できそうだし。
あぁー、いいよね。弟は呑気な頭で。
あんまり悩みとかなさそうだし。
羨ましい気持ちになって少しムッとなる。
だから私は少し意地悪なことを言った。
「あんたは、家族の健康の次に自分の頭が良くなりますよーに。がいいんじゃないの?
まあ、努力でしかどうにかならないけど、勉強のやる気スイッチぐらいご先祖様にとしてもらえるようにねー
そしたらその馬鹿みたいにな頭少しは良くなるんじゃない?」
バカにすると弟は拗ねた顔をして言う。
「うっせっ!
そこまで言われるとムカついてきた!
俺は神頼みなんかじゃなく、1人で成績上げてやる〜
ねぇーちゃんにもうバカだなんて言わせねーから!」
おー、私が弟のやる気スイッチを押したみたいだ。
神様じゃないけどね。笑笑
早速、勉強机に向かう彼を見て笑うのだった。
あぁー、今日も平和だな。
ありがとうございます!神様、仏様!
完
君の奏でる音楽
「覚えるか?
学生の時さぁ、友希とよくピアノを弾いたよな?
俺たちピアノで出会ったようなもんだし。」
昔のことを思い出して言った。
「あぁ、覚えてる、覚えてる!
よく2人で放課後にピアノ弾いたよね!
楽しかったな。」
友希も覚えてるようだった。
友希と出会ったきっかけは音楽だった。
懐かしいな。
あれは高校2年
俺は帰宅部で今日の放課後も何もなく帰ろうとしている時だった。
ポロロン〜〜ポロポロ〜〜
ピアノの音が音楽室から聞こえて来た。
綺麗な音。
誰が弾いているのだろうか。
気になって、音に惹きつけられるように歩き音楽室にたどりついた。
誰が弾いているのか廊下から覗いてみるが見えない。
少しだけ。少しだけ見ていきたい。
こんなに綺麗で美しい音色を奏でる人はどんな人なのだろう。
中に入ってそっと近く。
ピアノを弾いている人を見ると女の子だった。
とても綺麗な顔立ちをしている。
2年生では見ない顔だ。
3年生だろうか。
それにしても本当にピアノが上手いんだな。
美しい音が聞こえるなか思わずぼっーと立って聞いていた。
「あの・・・・・・・・・・」
ピアノを弾いてる彼女がこっちを向いて不思議そうな顔をしていた。
しまった。
すぐ出て行くつもりだったのに。
ピアノの音に聞き入っていてすぐ出ようとしていたことを忘れていた。
「あぁ、ごめんなさい。あまりにも音色が綺麗だったから。」
そう言うと彼女は微笑んで言う。
「あぁ、ありがとう。
私ね、部活してなくて暇でこうやってたまにピアノを弾くの。」
整った顔で俺に微笑んでまたゆっくりと音楽を奏でる。
そして、同時に話しかけてきた。
「あなたは?なにしにきたの?
名前は?」
「俺は夏木 奏 です。2年です。」
自己紹介をすると彼女は微笑んで言う。
「奏くんね。
私は音羽 友希。3年生ね。」
やっぱり先輩だったのか。
あまり見ない顔だったからな。
頷いて彼女が奏でる音楽を聴く。
やっぱり綺麗で落ち着く音色をしている。
彼女が弾き終わるまで少しだけ待っていた。
ポロン
彼女は弾き終わってからこっちを向いた。
「おいでよ。奏くんも弾いてみない?」
少しだけ弾いてみようか。
久しぶりだし。上手く弾けるか分からないけど。
「はい。」
俺は小さい頃にピアノを習っていた。
小5ぐらいまで習っていたけど、やめた。
だからそれなりには弾けるかもしれない。
彼女には負けるけど。
ポロロン〜〜〜
それから少しだけ弾いた。
久しぶりのピアノに少し楽しくなりながらもゆっくりと音を奏でる。
弾き終わって手を止めた。
「奏くん、すご〜い。
ピアノ習ってたの?じゃないとこんなに弾けないよね!」
キラキラした目で褒められて照れ臭くなった。
「先輩には負けますよ。」
それから2人でピアノを弾きながらそして会話も交えながら時間を過ごした。
先輩と過ごした時間はあっと言う間に終わって少し名残惜しかったけれど、先輩は言った。
「ねぇ?奏くんも帰宅部なんでしょ?
これからお互い暇な時はここで一緒にピアノ弾いたり話したりしようよ。」
ドキッ
先輩の綺麗な顔で見つめられて、心臓が大きく高鳴る。
「は、はいっ。先輩がいいんだったら俺はいつでも暇ですから大丈夫です。」
そう言ったら彼女は微笑んで頷いた。
「よしっ!じゃあ、決まりね?」
それから俺たちは毎日のように音楽室に集まった。
俺たちは毎日集まって一緒に時間を過ごして行くうちにお互いを好きになって、付き合うことにした。
一緒に過ごして行く時間の中にはピアノを弾かすお互いのことを話すだけって言う日もあった。
放課後という短い時間の中で、お互いのことを知る。
かけがえのない大切な時間だった。
「あの時、楽しかったよねー。」
友希が妻になってから3年。
あの時、ピアノの音を聞いて音楽室に入って良かった。
「あの時、友希に出会えてよかった。
結婚してくれてありがとう。」
普段はあまり言えない言葉も、あの時のことを思い出している今はどんな感謝の言葉でも伝えられる気がした。
「出会えて良かった」
そう言ってあの頃と変わらずに綺麗に笑う彼女にそっとキスをしたーーー
完
麦わら帽子
小さい頃一緒に遊んだ女の子。
名前も年齢も住所も何も知らなかった。
遊んだのはたったの1日だけ。
麦わら帽子の君がひまわり畑で笑ってる。
いつも笑顔で楽しそうに全力で生きる君を見て、僕も自然と笑顔になる。
君のパワーはすごいね。
君みたいに輝いて生きたい。
そう思ってたよ。
また会いたい。
君は今どこにいる?
またいつか君の笑顔を見せてね。
終点
「もう、終わりにしなさい。
あなたが家のお金を使って友達と遊んでいるのは前からわかってるのよ。」
帰ってきた息子に向かってやっと言えることができた。
私はまだ息子が小さい頃に夫と離婚した。
だから息子には寂しい思いをさせて来たのかもしれない。
でも、息子はあまり寂しそうな素振りを見せないし、多分私と過ごす時間がなくても平気だと思う。しかし、少しでも寂しかったらと思ってせめてお金を多く渡していた。それでも足りないのかお金を勝手に使う。
だから少々家のお金を使っていても見逃していた。
でも、最近は極端にお金が減ってきている。
だからもうこの問題に終点を打たなければならない。
「べつに、いいじゃねえかよ。
うちに帰ってきても誰もいねえし、どうせ帰って来ても何もすることねぇんだからダチとぐらい好きに遊ばせろよ。」
やっぱり寂しい思いをさせてる?のかもしれない。
だけど、どうしても仕事を早くに終われなくて、帰ってきて「おかえり」も言ってあげられないし、一緒にご飯を食べてあげられない。
そうしないと私が少し働いたところじゃ食べていけないのだ。
だから遅くまで働く。息子のために。
「ごめんね。でも、これ以上お金を外に持ち出したらきついのよ。
できる限りお小遣いを増やすから・・・・・・・」
申し訳ない気持ちと理解してくれという気持ちでいっぱいになりながらそう言う。
「うるせぇよ。」
そう言って息子は自分の部屋に入っていった。
ある日
息子の高校から呼び出された。
何か問題を起こしたのだろうか。
不安に思いながら学校へ行くと
息子は友達と喧嘩をしたようだった。
先に手を出したのはうちの息子で相手の子を少しだけ怪我させたみたいだ。
「本当に申し訳ございません。
もう、このようなことがないようしっかりと言い聞かせますので。」
相手の保護者に謝る。
「いえ、いえ。うちの息子も悪いですからしかも傷も大したことないんですから頭あげてください。大丈夫ですよ。」
相手の保護者は私たちを責めたりせずにそう言ってくれた。
ありがたい。
感謝の気持ちを込めてもう一度会釈してから息子と学校を出る。
帰り道の途中に息子に何でこんなことをしたのか、聞くけれど何も答えず走って家に帰ってしまった。
息子が先に帰ってしまい、その後を歩いて追いかけていると
「あの!すみません!翔のお母さんですよね?」
息子の同級生なのか追いかけて来た。
なんのようだろうか?
「はい。そうですけど、何か?」
そういうと男の子はほっとしたように笑顔で言ってきた。
「俺、翔の親友の隼人と言います。
あの、今回の件確かに先に手を出したのは翔だし悪いのも翔だと思います。
だけど、責めないでほしいんです。
今回喧嘩した相手は翔のお母さんのことをバカにしてそれで翔はイラついて殴ったんです。
お母さんのことをすごく大事に思ってるんだと思うんです。
それに、お母さんの体が心配だって言ってました。
自分がいることでお母さんに迷惑かけてどうにかしたいけどできなくて、反抗してしまうって。
お母さんが頑張ってるの知ってるのに自分はお母さんに迷惑かけてばっかりだって。」
翔がそんなことを・・・・・
隼人くんは私の顔を見つめて続けた。
「多分寂しいんだと思います。
いつも夜近づいて時計を見るたびに寂しそうな顔してるんです。だから少しでもいいんで、お母さんも夜一緒に過ごすとかご飯を一緒に食べるとかあいつと一緒にいてやってくれませんか?」
そうよね。寂しいに決まってるわよね。
まだ高校生なんだもの。家に誰もいないなんて。
勝手に寂しくないなんて決めつけるのは間違っていた。
「ありがとう。」
翔のことを大切に思ってくれている親友の隼人くんにお礼を言って帰り道を急いだ。
家に着き、息子の部屋に声をかけた。
「翔、ちょっと出て来て?」
そういうと少ししてから出て来てくれた。
「あのね、翔。
お母さん仕事が大変でね。
毎日翔と、夜一緒にいる時間少なかったよね。
翔と過ごす時間がなくなっていくうちに翔とどう接すればいいか分からなくなってきて翔には寂しい思いをさせたわよね。ごめんね。
これからは翔との時間できる限り作りたいと思ってる。」
思いのままに伝えた。
すると息子はこっちを向いて照れくさそうに言った。
「別に、母さんが忙しいのはわかってるよ。
俺がいるせいでお金が掛かってるのも知ってるし、俺が負担になってると思ってると余計にどうすればいいかわからなくなってイラついて夜遅くまで母さんが働いたお金少しでも寂しさ埋めたくて、使ってた。ごめん。
だけどさ、母さん。たまにでいいから一緒にご飯食べたり話したりしたい、と、思う。」
最後は消え入りそうになりながらもそう言った。
「そうよね。ごめんね。寂しい思いさせてしまって。
母さん頑張るから。頑張って早く仕事終わらせて翔との時間作るから。」
私も本当はもっと翔といたかったのよ。
さすがにこれ以上は照れ臭くなって言葉を止めた。
「うん。でも無理はやめて。」
いつのまにか息子はたいぶ成長しているのが目に見えて分かった。
私達のこのはっきりしない、すれ違ってた親子の時間はもう終わりにする。
これからは暖かい優しい親子の時間を築けていけたらいいと心の底から思った。
完