終点
「もう、終わりにしなさい。
あなたが家のお金を使って友達と遊んでいるのは前からわかってるのよ。」
帰ってきた息子に向かってやっと言えることができた。
私はまだ息子が小さい頃に夫と離婚した。
だから息子には寂しい思いをさせて来たのかもしれない。
でも、息子はあまり寂しそうな素振りを見せないし、多分私と過ごす時間がなくても平気だと思う。しかし、少しでも寂しかったらと思ってせめてお金を多く渡していた。それでも足りないのかお金を勝手に使う。
だから少々家のお金を使っていても見逃していた。
でも、最近は極端にお金が減ってきている。
だからもうこの問題に終点を打たなければならない。
「べつに、いいじゃねえかよ。
うちに帰ってきても誰もいねえし、どうせ帰って来ても何もすることねぇんだからダチとぐらい好きに遊ばせろよ。」
やっぱり寂しい思いをさせてる?のかもしれない。
だけど、どうしても仕事を早くに終われなくて、帰ってきて「おかえり」も言ってあげられないし、一緒にご飯を食べてあげられない。
そうしないと私が少し働いたところじゃ食べていけないのだ。
だから遅くまで働く。息子のために。
「ごめんね。でも、これ以上お金を外に持ち出したらきついのよ。
できる限りお小遣いを増やすから・・・・・・・」
申し訳ない気持ちと理解してくれという気持ちでいっぱいになりながらそう言う。
「うるせぇよ。」
そう言って息子は自分の部屋に入っていった。
ある日
息子の高校から呼び出された。
何か問題を起こしたのだろうか。
不安に思いながら学校へ行くと
息子は友達と喧嘩をしたようだった。
先に手を出したのはうちの息子で相手の子を少しだけ怪我させたみたいだ。
「本当に申し訳ございません。
もう、このようなことがないようしっかりと言い聞かせますので。」
相手の保護者に謝る。
「いえ、いえ。うちの息子も悪いですからしかも傷も大したことないんですから頭あげてください。大丈夫ですよ。」
相手の保護者は私たちを責めたりせずにそう言ってくれた。
ありがたい。
感謝の気持ちを込めてもう一度会釈してから息子と学校を出る。
帰り道の途中に息子に何でこんなことをしたのか、聞くけれど何も答えず走って家に帰ってしまった。
息子が先に帰ってしまい、その後を歩いて追いかけていると
「あの!すみません!翔のお母さんですよね?」
息子の同級生なのか追いかけて来た。
なんのようだろうか?
「はい。そうですけど、何か?」
そういうと男の子はほっとしたように笑顔で言ってきた。
「俺、翔の親友の隼人と言います。
あの、今回の件確かに先に手を出したのは翔だし悪いのも翔だと思います。
だけど、責めないでほしいんです。
今回喧嘩した相手は翔のお母さんのことをバカにしてそれで翔はイラついて殴ったんです。
お母さんのことをすごく大事に思ってるんだと思うんです。
それに、お母さんの体が心配だって言ってました。
自分がいることでお母さんに迷惑かけてどうにかしたいけどできなくて、反抗してしまうって。
お母さんが頑張ってるの知ってるのに自分はお母さんに迷惑かけてばっかりだって。」
翔がそんなことを・・・・・
隼人くんは私の顔を見つめて続けた。
「多分寂しいんだと思います。
いつも夜近づいて時計を見るたびに寂しそうな顔してるんです。だから少しでもいいんで、お母さんも夜一緒に過ごすとかご飯を一緒に食べるとかあいつと一緒にいてやってくれませんか?」
そうよね。寂しいに決まってるわよね。
まだ高校生なんだもの。家に誰もいないなんて。
勝手に寂しくないなんて決めつけるのは間違っていた。
「ありがとう。」
翔のことを大切に思ってくれている親友の隼人くんにお礼を言って帰り道を急いだ。
家に着き、息子の部屋に声をかけた。
「翔、ちょっと出て来て?」
そういうと少ししてから出て来てくれた。
「あのね、翔。
お母さん仕事が大変でね。
毎日翔と、夜一緒にいる時間少なかったよね。
翔と過ごす時間がなくなっていくうちに翔とどう接すればいいか分からなくなってきて翔には寂しい思いをさせたわよね。ごめんね。
これからは翔との時間できる限り作りたいと思ってる。」
思いのままに伝えた。
すると息子はこっちを向いて照れくさそうに言った。
「別に、母さんが忙しいのはわかってるよ。
俺がいるせいでお金が掛かってるのも知ってるし、俺が負担になってると思ってると余計にどうすればいいかわからなくなってイラついて夜遅くまで母さんが働いたお金少しでも寂しさ埋めたくて、使ってた。ごめん。
だけどさ、母さん。たまにでいいから一緒にご飯食べたり話したりしたい、と、思う。」
最後は消え入りそうになりながらもそう言った。
「そうよね。ごめんね。寂しい思いさせてしまって。
母さん頑張るから。頑張って早く仕事終わらせて翔との時間作るから。」
私も本当はもっと翔といたかったのよ。
さすがにこれ以上は照れ臭くなって言葉を止めた。
「うん。でも無理はやめて。」
いつのまにか息子はたいぶ成長しているのが目に見えて分かった。
私達のこのはっきりしない、すれ違ってた親子の時間はもう終わりにする。
これからは暖かい優しい親子の時間を築けていけたらいいと心の底から思った。
完
8/10/2023, 11:21:46 AM