『もっと知りたい』
君のことをもっと知りたいと思うのはワガママかな?
きっかけは何てことない些細なこと。
君が図書館の窓辺で静かに本を読んでいる姿が、陽の光を浴びてなんだか儚げだったから目を奪われてしまった。
それから急に君がことが気になって、いつの間にか君の姿を目で追うようになり、君のことが頭から離れなくなった。
「好きなの? あいつのこと」
「へっ?」
お昼休みのときに友達から指摘された。どうして、そんなことを聞くのかと尋ねたら
「えー、だって瞳が完全に恋する乙女モードだもん!」
……知らなかった。
そうか、私は彼のことが好きなのか……。
自分が同級生に恋をしていると自覚すると、身体が熱くなった。
君を見ると胸がドキドキして、少し苦しいのになんだか幸せな気持ちになる。
もっと色んな君を見たい、知りたいと思うようになった。
真剣に授業を受ける横顔。
クラスの男子とはしゃぐ笑顔。
給食で苦手っぽい食材を食べた時のしかめ面。
図書館でいつもの窓辺で読む本を探す悩ましい表情。
もっと、もっと知りたい。もっと、もっと見たい。
好きな色とか、好きな作家さんとか、好きな食べ物とか、得意な授業や苦手な授業とか……。
好きな女の子のタイプとか。
もっと、もっと知りたい。
ああ、どうして恋する女の子の好奇心はこうも貪欲なんだろうか。
でもね、同じくらい私のことも知って欲しいんだよ。
私が君のことが、こんなにも好きだってこと……もっともっと知って欲しいんだよ。
ねぇ、君は私のことをどう思っている?
すっごく、すっごく知りたいよ……。
『過ぎ去った日々』
過去が美しく思えるのは、喪失感を伴う痛みがあるから。
過去が愛おしく思えるのは、取り戻せない儚さがあるから。
きっと今、過去を懐かしいと想う日々も未来の私は愛おしく思うのだろう……。
『月夜』
月夜の……それも決まって満月の晩にだけ会う少年がいた。
月光を吸収したかのように美しい銀の髪をした凛とした表情を携えた少年だった。
目が悪いモグラな私はその存在があまりにも眩しくて、遠い世界の住人だと思っていた。
なのに気安く声をかけて会話を重ねるから、だんだんと私の心の中に入り込んでくる。
優しい微笑みを向けられると、ドキドキしてなんだか落ち着かない。
もっと色んな表情を見たい、もっと色んな君を知りたいと思うのに、その一歩が踏み出せない。
だって私は目が悪くて、陽の光の元では顔を上げて歩けないモグラだから……。
凛として美しい彼とは不釣り合いな自分が惨めで、泣きたくなる。
だけど、あの優しい微笑みに胸の高鳴りが響いて、君に恋をしていると気付いたら、少しでも君の隣を歩ける、釣り合うような自分にもなりたいと思った。
好きだと告白して以降、もう何年もあの美しい少年には会っていない。
だけど月夜の……決まって満月の晩に、もしかしたら会えるかもしれないと淡い期待を抱いてしまう。
未練がましいと言われたけれど、どうしたってあの胸の高鳴りが忘れられない。
今も月を見上げて想う。
君は今、この同じ月を見ていますか?と……
『誰もがみんな』
「誰もが皆、夢を叶えられる訳じゃない。俺たちは足掻いて苦しんで常に夢半ばなんだよ!」
吠えるように叫んだ君の台詞が、胸を突いて不意に涙が溢れた。
終盤戦までには命を散らして退場してしまうようなキャラクターだけど、あの台詞が印象深くて私の心を離さない。
どうか生きて、どうか夢を叶えて。
たとえ世界の全てを敵にまわしても、私は君の夢を応援するから……。
生命尽きて燃え果てる最期になろうとしても、私は君の生き様を見届けるよ。
こんなに誰かを想ったことなんてなかった。この気持ちに名前をつけるなら、きっと『愛』だろう。
一方的で、君に届かないと分かっていても、それでも私は夢を追い続ける君を愛すよ。
『花束』
花が咲くように笑う君が好きだ。
だから、君がいないこの部屋はなんだか殺風景で淋しくて悲しい……。
通りすがりの花屋で初めて花を買った。
チューリップのように鮮やかに笑う君。向日葵のようにおおらかに笑う君。
薔薇のように麗しく、秋桜のように可憐で、カスミ草のように儚く笑う君がまぶたの奥で鮮明に蘇る。
たくさんの種類の花を一輪づつ選ぶ僕の姿は、店員から見たら節操がないよう見えるかもしれない。
でも一種類には絞れない。
気がついたら、両腕で抱えるほどの大きな花束を持って帰っていた。
小分けにして、家のあちこちに飾ろう。
花が咲くように笑う君の揺れる残像が、まだ僕の目には見えている気がするから。