アクリル

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3/1/2023, 1:37:56 PM

欲望


「もっと」

耳に齧り付くような声が
私を癒す

「いいよ」
まるで自分ではないような返事が、口をついて出る。

「ありがとう」

誰からも言われたことのない言葉が 
私を生かす

このまま、せめて今日の終わりまで、このまま。

2/21/2023, 3:38:53 AM

同情


「あなたは悪くないよ」
「あれほど叩かれる理由など、あなたにはないよ」

「そうだよね、その通りだと思う」
「でも、あの人が加害に走った理由もわかるんだ」

優しい聞き手と、元凶を憎みきれない私。

私を咎めたくない気持ちも、痛いほどわかって。

それは私も、いち聞き手だからで。
あなたも同じように、理不尽を飲み込んできたからで。

癒す者同士の、堂々巡りの会話
出口の見えない、被虐者の甘さ
厳しさを持てない、洗脳の行く末に

私たちは、共感だけを生き甲斐にしてしまった。

2/18/2023, 10:41:14 AM

今日にさようなら


幼少期に
夜になると「今」が消えてしまうことを知って
どうしようもなく寂しくなったことがあった

目の前には「明日」だけがあって
無くなっていく現在を
取り戻すことはできないとわかって
それがなぜか怖かった

素直に
「おやすみなさい」が
あの日は言えなかった。

2/17/2023, 10:53:32 AM

お気に入り


登録も追加も必要ない 
些細なことをふたりで積み重ねたい
今日使った入浴剤の香りについて話して
一緒にお茶を飲みたい 

「湯呑み、どれがいい?」
「陶芸体験で作ったこれ!」

「いつものやつだね」
「うん、育ててるの」 

少し不恰好な湯呑みで
いれたてのお茶を啜った

「美味しゅうござんす」
「良きかな、ほな2杯目じゃ」

ふふ、と微笑む。
明日は何をしようか。

2/13/2023, 1:45:20 PM

待ってて


ふと目が覚めた。

どこか怯えをはらんだ手つきで
君が私のシャツを掴んでいた。
まるで子供みたいに
行かないで、って言いたげに
小さな顔を首元まで埋めて離れない。

さらさらとした髪をそっと撫でて、少し震えている体を受け止める。

「どうしたの」

しばらくして、掠れるような、小さな声が返ってきた。

「こわい夢、みた」

午前3時、朝はまだ遠い。

私はその細い体を毛布でふわりと包み、あやすように抱きしめた。

「ここにいるよ、次の夢で会いに行くよ」

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