山で熊を従え、斧と丸太を抱えて自宅の小屋へ戻る。
日々の幸せな日課だ。熊の散歩のついでの薪作りは生活の為でもある。
ある日、自宅に戻ると見た事のない人物が小屋の前で待っていた。
熊を見て一瞬怯んだ様に見えるその人物は、「その力と熊を従える技を都で使わないか?武士の名と屋敷と金を与える条件付きだ」と言ってきた。
その言葉に一時の迷いなく断りを返す。
「何故だ、それ程の力を持ってして今より快適な幸せな日々を送れるのだぞ!!」と更に迫ってくる。
丸太を地面に置き、斧を構える。
ゴウッ!!と振り下ろす。
一振で4つに割れた丸太を見ながら硬直している人物に声を返す。
「今が1番幸せな日々だ。お前の幸せを当てはめるな。丸太の様になりたくなければ去れ」
その人物は、腰が抜けたのか、這うように帰って行った。
それを追おうとする熊の背を撫でながら、自分の幸せを心の中で再度思うのだった。
(幸せとは)
金太郎のオマージュ、都に出て武士・坂田金時にならない代わりに今が十分幸せなバージョン。
その日は日が昇る前から舟を漕いで海に出ていた。
舟の上で日の出を見ながら今日の釣りをする予定なのだ。
ぼんやり光る提灯と白くなってきた空がちょうど同じくらいの明るさになってきて、釣りの釣果もまずまずと言った感じでよく釣れる。
もう少ししたら日の出だろうと1度糸を引き上げ水平線を見る。
一気に明るく暖かい光が照らす。日の出は実に気持ちがいい。
太陽が完全に水平線より出た事を確認すると更に一刻程釣りを行い、舟屋を兼ねる自宅へ向かって舟を漕ぐ。
途中に見える砂浜で数人の子供達が棒を持って走って黒っぽい何かを叩いてはまた走っていくのを繰り返しているのが見えた。また新しい遊びなのだろうか。
明日は砂浜の先の岩場で日の出を見ながら釣りをするのも良いなぁと考えつつ、舟は砂浜へは近付けないのでそのまま素通りして漕いで行くのであった。
(日の出)
浦島太郎のオマージュ、海釣りで砂浜に行かず海亀に会わないバージョン。
今年の抱負を書き初めしようと筆と墨と半紙を用意して、何を書くか既に3時間悩んでいる。
去年の書き初めには「鬼退治に行く」と強く書いた記憶がある。
実際のところ、刀の稽古と爺婆の手伝いに追われ鬼退治には行けてない。
かと言って、鬼が悪さをやめているはずも無く被害は拡がっていると聞いた。
刀の稽古は一応、免許皆伝まで終えているが、実戦経験は無いので、この稽古で身に付けた技が鬼に効くかは分からない。そういう事を悩み出すと爺婆を置いて鬼退治に行く事も悩む種となってくる。
それで、既に悩み出して4時間になろうかとしている。
勢いで書くしかないと腹を括り筆を取る。
「今年こそ鬼退治に行けたら行く」
半紙に強く書き上げる。
書道の道具を片付けて、爺婆の所へ行き書いた半紙を掲げる。
爺婆が芸人のようにすっ転んだ。
(今年の抱負)
桃太郎のオマージュ、行けたら行くで行かないバージョン。
作者の抱負は「無事に生きる」
神様の屋敷に今年の干支の巳が訪ねて来ました。
「神様、新年明けましておめでとうございます。今年は私が干支を受け持ちます。」
「おお、巳や、お前さんは細長いがしなやかな柔軟性を持っておるでな、滑らかな年になるように努めておくれ。」
神様は巳にそう言いました。
巳はその言葉を丁寧に丁寧に書き留めて、深々と頭を下げて答えます。
「然と、然と承りました」
新たな年は無事にここに始まりました。
(新年)
今年も相変わらず、昔話童話のオマージュをメインに書いていきます。よろしくお願いいたします。
干支の龍を初めとし、多種多様な物語の登場モノ達が一同に集まりお酒を酌み交わす。
忘年会には遅すぎるが今年最後の日だ。今日しかない。
朝から集まってはいたが、流石にこの時間になってくると散り散りに帰り出す。年の瀬を自分の物語で過ごす為だ。
最後には干支の龍だけが残る。
干支の龍は、大きな大きな声で「良いお年を」と鳴きながら残りの時間を見つつ次へ干支を渡す為に場に向かう。
(良いお年を)
書き手の皆様、読み手の皆様、良いお年をお迎え下さい。