大きくなれ大きくなれと複数回打ち出の小槌で叩かれた。
もっと早く気付くべきだった。
1回の打ちで1x1で2倍、2回目の打ちで2x2で12倍3回目の打ちで3x3で184倍、4回目の打ちで4x4で88512倍、5回目の打ちで5x5で、、、そうだ、組み合わせ計算爆発だ。
□のマスを並べて同じ道を通らないように対角に移動出来るルートを計算していく人智を超えた計算だ。
その爆発的に増える倍化が起きている。
打ち出の小槌の効果の処理が間に合わなかったのか効果が出るまでのタイムラグがあったことも原因して連打された為、身体は地を踏み抜き、宙へ突出し、おそらく宇宙の果てであろう人智を超えた空間に浮き、手のひらに宇宙を支えている。
この手のひらの宇宙は徐々に小さくなっていっている。いや、違う、まだ自身が大きくなりつずけているのだ。
キャンセルの効かない打ち出の小槌の効果はいつまで続くのだろうか。
(手のひらの宇宙)
一寸法師のオマージュ、組み合わせ計算爆発も1種の宇宙と言われる程度に人智を超える。11x11以上は現在も計算しきれていないそうだ。
「常人にはなんて事ない微風でも私にとっては踏ん張らないといけない程度の強風に感じるのよ」と、手のひらの上で小さな小さなお姫様が文句を言っている。
微風どころか、風は一切感じていないのでどういう事か感覚が掴めない。
移動する為に手に乗ってもらった訳だが、もしかしたら移動時に起きる空気の動きを風と言っているのだろうか?だが、移動はしなければならないのでゆっくり歩く。
「ちょっと!そんなに早く動いたら風で髪が乱れるじゃない!!」
顔の両側にぶら下がる縦巻きロールは確かに所々解れ出している。
「貴方!!もっとゆっくりって!あっ…」
驚いた声がしたので安全確認の為に手のひらを見る。
そこには風でスカートがめくれて焦っているお姫様の姿があった。さすがにまずい。立ち止まって風が起きないようにする。
「貴方、今すぐ私を降ろしなさい。クビよ!!!!」
風のいたずらによって職を失った瞬間であった。
(風のいたずら)
おやゆび姫のオマージュ、スカートワァーオはさすがにクビだなぁ。
ようやく安心出来そうな小さな砂浜を見つけた。
海からの波は穏やかで、風が押し上げた砂浜は大きく盛り上がり穴を掘るにはうってつけだ。
夜になるのを待って陸に上がり透明な涙を流しながら穴を掘る。
もうすぐ掘り終えようかというタイミングで陸から1人の青年が歩いてきた。
「おお、ウミガメよそんなに涙を流してどうしたんだ」
そう声をかけられるがこっちは今それどころじゃない。
「誰かにいじめられたか、それとも海へ戻れなくなったか」
勝手に好きに喋っているが気にしてはならない。もう時間がない。
「どれ、今助けてやるからな」
そう言って甲羅を掴まれた。もう我慢ならずその青年に声をあげる
「産卵の邪魔せんどいて!!涙は生理現象じゃ、目の乾燥を防ぐ用じゃ!!もうほっといてんか」
思わず関西チックな喋り方になってしまったがその青年は驚き手を離して去っていった。
せっかく掘った穴が崩れたが急いで掘り直そう。
(透明な涙)
浦島太郎のオマージュ、ウミガメの産卵の邪魔したらあかんよ太郎。
目の前の河を飛び超えればあなたのもとへ行けるのに、この河は意志を持っているかのように私が近付くと荒波を上げ始める。
年1回だけ河は落ち着いて向こう側が見える日があるが、川幅が広いせいで声は届かない。
そうして幾年も幾年も繰り返して、あなたのもとへはまだ行けていない。
あと幾年すれば向こうへ行けるのだろう?
あなたのもとへは今すぐにでも行きたい。
あなたはどう思っているのだろう。
(あなたのもとへ)
織姫と彦星のオマージュ、天の川に護岸工事と建橋工事求む。
まだ奴らは気付いていないようだ。
足音を殺し息を潜め姿勢を低く近付いて行く。
目の前にある藁の家をひと束ひと束そっと分解していく。1匹目の喉に一気に食らいつき静かに藁で隠す。
2つ目の木の板の家へ素早く近付き、節穴から中に麻酔ガスをそっと流し込み、しばらく待ってから普通にドアを開けて意識を失っている2匹目にとどめを刺す。
残すはレンガの家だ。
まだレンガの繋ぎ目が乾いていないことを確認し、そっと引き抜いて行く。
要石になっているであろうレンガを引き抜いた時レンガの家は一気に潰れた。
中に居た3匹目は、辛うじて生き残ったようでレンガの隙間から這いずり出てきた。
そっと後ろから食らいつく。
一夜にして3匹の兄弟が居なくなったと翌日騒ぎになっているのを後目にそっと去る影が1つあった。
(そっと)
3匹の子豚のオマージュ、オオカミの襲撃成功バージョン。