ぅぅ寒い寒い。
最近一気に秋めいて冷たい秋風に吹かれつつ今日の寝床を探す。
普段ならそこら辺の洞穴や倒木の間など姿が隠れるだけでいいがこの寒さじゃ、ちゃんと探さないと凍えてしまう。
藁か木の小屋がいいなぁと近隣の畑や田んぼの作業小屋を覗いて入れそうな所を探す。
向こうに藁を積み上げたような小屋とその隣に木の小屋とレンガの家が並んでいるのが見える。
先客が居ると面倒だなぁと思いつつ確認の為に近付こうと向きを変えた瞬間、藁の小屋が吹き飛んだ。
びっくりして地面に伏せる。
次の瞬間、木の小屋も吹き飛んだ。
元いた先客だろうか、ワタワタした様子でレンガの小屋に入っていった。
しばらく様子を伺っていたがその後の動きは無い。
今しかないと思い、吹き飛んだ藁と木の板を急いでかき集めすぐ横の森に入る。
適当な洞穴を見つけ藁を敷き木で洞穴を塞ぐ。
冷たい秋風からしっかり守られた即席の寝床でしばらくはゆっくり寝れそうだ。
(秋風)
三匹の子ぶたのオマージュ、吹き飛んだ藁と木の残骸の行方
朝起きたら奴が居なくなっていた。
ハンターとして対象に逃げられた焦りは半端ない。
奴がどこに行ったか早く探さなくては。
自室からハンター道具を持ってきて玄関へ急ぐ。
玄関ドアになにかメモが貼ってあるのにそこで気が付いた。
『リビングの机は見たか?』
リビングの机?いや見ていない。リビングへ急ぐ。
机の上にまたメモがある。
『隣県の知り合いのニンニク農家さんを手伝いに行ってくる。週末にまた会おう。追記、ニンニク貰ってくるから買わないで』
そのメモを見た瞬間に力が抜けて椅子に座り込む。
また会いましょうじゃねえわ!焦ったわ!!ってか隣県のニンニク農家ってオレの実家の事だろうがよ!!今から行くわ!!
全く、あの吸血鬼(?)め!実家の手伝いにオレが行かないからって強制的に向かわせやがって!!困ったものだ!!
(また会いましょう)
ヴァンパイアハンター、実家はニンニク農家だったのか。(吸血鬼いつもニンニクありがとう)
勢いよく坂道を転がる。
穴を避け、段差を飛んで、グングンスピードを上げていく。
他のヤツらもどんどん追いかけて転がってくる。
スリルを求めて始まったこのレースだが、そういえば誰もゴールを決めていない。
穴に落ちて脱落したヤツや、コースから逸れたのかいつの間にか姿が見えないヤツが増えて数が少なくなってきた。
このまま最後のひとりになればこのレースの勝者になれる。
そんな考えに気を取られ、段差を見逃して弾かれてしまった。
勢いに乗ったまま空を飛ぶ。ふわりと浮いた感覚のスリルがたまらない。
うまくコースに戻ろうとしたが宙に浮いていてはどうしようもなく、そのままコースの横のお池にポチャン。
コースアウトだ。
水面でぷかぷか浮いて息を整える。
横にドジョウが顔を出し心配そうに見守っている。
レースには勝てなかったがこれ以上無いスリルは味わえたから良しとしよう。
(スリル)
童謡・どんぐりころころのオマージュ、お池に落ちた理由
いくら羽ばたけど飛ぶことは出来ない。
上手く泳ぐ事も出来ない。
みんなと毛色も違う。
ワタシはみんなと同じじゃないから海を渡る旅にも行けないんだ。
ここで捨てられるんだ。
周りでは一緒に育ったアヒル達がワイワイと飛ぶ練習をしている。
次の満月の日の次の日に渡りを始めるそうだ。
端っこで丸まっていると育ててくれた母アヒルがやってきた。
悪いけど、渡りには連れて行けないわ。アナタは多分…ここに居た方がいいのよ。
そう言われて、泣いてしまった。
アナタの本当の種類は、ダチョウなのよ。翼はあるけど飛べないの。走る事に特化したから泳げないのよ。
えっとなって顔を上げる。
自分でも気付いてはいたけど、やっぱりダチョウだったんだ。現実逃避してアヒルのフリをしていたけど間違えてなかったんだ。
飛べないアヒルの子、もとい、ダチョウの子は渡りに飛ぶみんなを地上から飛べない翼をバサバサ振って見送るのでした。
(飛べない翼)
みにくいアヒルの子のオマージュ、白鳥でもなくダチョウでした。
ススキの穂を幾つも束ねてフクロウの飾りを作る。
屋敷の周りに幾つか飾り付けて満足そうに頷いて、部屋に戻ってきた。
机の上にはまだ幾つもフクロウが置いてある。
さっき飾り付けに持っていった分しか作ってない筈だが?と思っていると奥の部屋からススキを持って奴が出てきた。
全く、こんなに作ってどうするつもりだ?とそいつに問う。
ご近所さんと、教会と、賛美歌隊の子供達と、向こうの孤児院に持って行くのだ。
とそいつは答えた。
いつの間にか出来上がっているフクロウを大量にカゴに入れ、美容に悪いと日焼け防止のハットとマントを着けるとそいつは意気揚々と出かけて行った。
全く、あの吸血鬼(?)は、近所付き合いが良過ぎて人気過ぎて困ったものだ。
(ススキ)
ススキのフクロウ、作ったことありますか?