「たった1つの希望」
もうこの世界に望んでることなんてなくて成り行きまかせで生きている。
そんな私の、たった1つの希望。
あなたが私の傍で笑いながら生きていること。
あなたさえいてくれればそれでいいの。
大好きだよ。
あ、そうそう。今までマスクしてる顔が当たり前だったから気がつけなかったけど、今日見つけたんだよね。
あなたの唇の上、ほくろがあるんだね。
大事な大事なあなたのしるしだね。
「あなたに届けたい」
あなたのせいで物事を正しく見られなくなった。
あなたのせいで強がるようになった。
あなたのせいで声をあげて泣く方法を忘れてしまった。
あなたのせいで何度でも立ち上がるようになった。
あなたのせいで前に進むようになった。
あなたのせいで。あなたのせいだ。あなたさえいなかったら。
私は、どこにいたのだろう。
私。
私、あなたのせいで、死ねなかった。ありがとう。
ありがとうと、素直になれなくて、ごめんなさい。
私の思い、いつかあなたに届けたい。
「君に会いたくて」
大好きな同性の先生は、学校でグッピーという熱帯魚を飼っている。
私はその飼育係の1人だ。
水槽の掃除やグッピーたちに異変があった時の解決策を考えるのが私たち飼育係の主な役割で、餌やりは先生がやっている。
毎日1時間目が始まる前の10分休みに、私は決まって廊下に出て、ただ1人の存在を探す。
水槽の前の椅子にゆったりと腰掛け、小さなスプーンで餌をふりかける見慣れた後ろ姿を見つけた途端、
「·····先生だ…!」
と誰にも聞かれないように声をおさえて小さくはしゃぐ。
その背中を見つめたまま小走りで駆け寄る。
「おはよーございます。」
そう後ろから声をかける。
「おはようございます。」
先生が落ち着いた声でそう返す。
だがすぐに視線をグッピーたちに戻し、まるで子供をあやすような甘い声で
「可愛いねぇ。」
と言いながら頬を染め、にこりと微笑む。
あなたが1番可愛いよ。言えるはずないけど。
「様子見に来てくれたの?」
先生が私をまっすぐ見つめてそう聞いた。
「.......はい。」
私はわざと寂しげに応えた。
だって、本当は。
...あなたに会いたくて来たんだよ。
すぐそこまで出かかった言葉を、口の中で噛み砕いた。
「また会いに来ますね。」
力いっぱい笑って見せながら、私はそう言った。
「はい。ぜひ。」
きっと、グッピーに会いに来るってことだと思ったんだろうなぁ。
私の大好きな笑顔でそう応えた先生の姿が網膜に焼き付いた。
1人になった廊下で私はぽつりと虚しく呟いた。
「.......片想いって、ほんとに報われないなぁ。」
「どうして」
人はいつも理由を知りたがる。
どうして出来ない?
どうして生まれてきた?
どうして人を傷つける?
どうして殺した?
なんで。どうして。
そんなこと知って、何になる?
理由を知れば、呪い殺したくなるような過去は変わる?
何か特別な理由があれば、罪は許される?
ダメだ。生きるのムズすぎる。
「夢と現実」
あれは、9月半ばのまだじめっとした蒸し暑さが残っていた日のこと。
夕日が窓から差し込んで、少し眩しくなった誰もいない空き教室で私は、まだほぼ真っ白の原稿用紙とにらめっこしていた。
夏休みの宿題だった読書感想文をそこそこ頑張って書いて、なんとなくで提出して終わったかと思いきや、
学年代表に選ばれ、市のコンクールに出品すると、夏休み中先生から電話で聞かされた。
それからは私の気持ちが追いつく前に、物事が進んで行った。市のコンクールの結果は最優秀賞。
大好きな国語の先生が子供のように喜んでいて、まだ気持ちの整理はできていなかったが、嬉しかった。
そして、「市を突破して、今度は県のコンクールに出品するから、もう一度文字を丁寧にして書き写してくれる?」と、
国語の先生が言っていた。そして、空き教室の状態にいたる。
市のコンクールに出品したものをそのまま書き写すだけだったが、誰もいない教室で一人でいるのは、正直寂しかった。
なんだかやる気がおきなくて、私は机に頭を伏せた。耳をすますと、外から体育祭の練習をしている生徒たちのかけ声が
聞こえた。青春してるなぁと、なぜだか他人事のように呟いた。
そんなことをしているうちに、ふいに、かけ声が遠のいていくように感じた。はっきりしていたはずの視界がぼやけ、
意識が遠くなっていった。夢を見始めていた。寝てはダメだ。作文を書かなければ。そうは思っていたけれど、
まぶたが重くて上がらなかった。辺りが真っ白になった。あぁ寝てしまう。その時、夢と現実の狭間で、妙な音を聞いた。
カツン。すたすた。カツン。すたすた。カツン。すたすた。どこか聞き覚えのある、懐かしい音がした。
軽めの金属がリズム良く地面に叩きつけられるような音と、その隣で歩く誰かの足音。なんだっけ。この音。
ガラガラガラッ。木製のドアが開く音がして、私の意識は一瞬で現実に引き戻された。驚いてはね起きると、
そこには日々網膜に焼き付けた顔が2つあった。担任の先生と、国語の先生。2人とも目を丸くしてこちらを見ている。
あの音は、2人が向かってきている音だった。カツン。というのは、足を怪我していた担任の先生の松葉杖の音。
足音は国語の先生のもの。歩くのが人一倍早いから、分かりやすいはずだったのに、分からなかった。
「どうしたの?暑い?」国語の先生が心配そうに私に聞いた。「は、はい。暑いんですよぉ。」勢いでそう応えた。
そうだよねぇと言いながら、国語の先生はエアコンをつけに行ってくれた。担任の先生はと言うと、
「暑いねぇ」と言いながら私と原稿用紙を見比べていた。いや、あなたもエアコンつけに行ってくれよぉ。と、心の中で苦笑した。
そこからは国語の先生が一緒にいてくれたので、作文は無事に書き終わった。県のコンクールの結果はどうなるかなぁ。楽しみだなぁ。
結局何が書きたかったのか分からなくなっちゃった笑
読んでくださりありがとうございました!
追記:県のコンクールは佳作でした!