「夢と現実」
あれは、9月半ばのまだじめっとした蒸し暑さが残っていた日のこと。
夕日が窓から差し込んで、少し眩しくなった誰もいない空き教室で私は、まだほぼ真っ白の原稿用紙とにらめっこしていた。
夏休みの宿題だった読書感想文をそこそこ頑張って書いて、なんとなくで提出して終わったかと思いきや、
学年代表に選ばれ、市のコンクールに出品すると、夏休み中先生から電話で聞かされた。
それからは私の気持ちが追いつく前に、物事が進んで行った。市のコンクールの結果は最優秀賞。
大好きな国語の先生が子供のように喜んでいて、まだ気持ちの整理はできていなかったが、嬉しかった。
そして、「市を突破して、今度は県のコンクールに出品するから、もう一度文字を丁寧にして書き写してくれる?」と、
国語の先生が言っていた。そして、空き教室の状態にいたる。
市のコンクールに出品したものをそのまま書き写すだけだったが、誰もいない教室で一人でいるのは、正直寂しかった。
なんだかやる気がおきなくて、私は机に頭を伏せた。耳をすますと、外から体育祭の練習をしている生徒たちのかけ声が
聞こえた。青春してるなぁと、なぜだか他人事のように呟いた。
そんなことをしているうちに、ふいに、かけ声が遠のいていくように感じた。はっきりしていたはずの視界がぼやけ、
意識が遠くなっていった。夢を見始めていた。寝てはダメだ。作文を書かなければ。そうは思っていたけれど、
まぶたが重くて上がらなかった。辺りが真っ白になった。あぁ寝てしまう。その時、夢と現実の狭間で、妙な音を聞いた。
カツン。すたすた。カツン。すたすた。カツン。すたすた。どこか聞き覚えのある、懐かしい音がした。
軽めの金属がリズム良く地面に叩きつけられるような音と、その隣で歩く誰かの足音。なんだっけ。この音。
ガラガラガラッ。木製のドアが開く音がして、私の意識は一瞬で現実に引き戻された。驚いてはね起きると、
そこには日々網膜に焼き付けた顔が2つあった。担任の先生と、国語の先生。2人とも目を丸くしてこちらを見ている。
あの音は、2人が向かってきている音だった。カツン。というのは、足を怪我していた担任の先生の松葉杖の音。
足音は国語の先生のもの。歩くのが人一倍早いから、分かりやすいはずだったのに、分からなかった。
「どうしたの?暑い?」国語の先生が心配そうに私に聞いた。「は、はい。暑いんですよぉ。」勢いでそう応えた。
そうだよねぇと言いながら、国語の先生はエアコンをつけに行ってくれた。担任の先生はと言うと、
「暑いねぇ」と言いながら私と原稿用紙を見比べていた。いや、あなたもエアコンつけに行ってくれよぉ。と、心の中で苦笑した。
そこからは国語の先生が一緒にいてくれたので、作文は無事に書き終わった。県のコンクールの結果はどうなるかなぁ。楽しみだなぁ。
結局何が書きたかったのか分からなくなっちゃった笑
読んでくださりありがとうございました!
追記:県のコンクールは佳作でした!
12/4/2022, 10:39:34 AM