「君に会いたくて」
大好きな同性の先生は、学校でグッピーという熱帯魚を飼っている。
私はその飼育係の1人だ。
水槽の掃除やグッピーたちに異変があった時の解決策を考えるのが私たち飼育係の主な役割で、餌やりは先生がやっている。
毎日1時間目が始まる前の10分休みに、私は決まって廊下に出て、ただ1人の存在を探す。
水槽の前の椅子にゆったりと腰掛け、小さなスプーンで餌をふりかける見慣れた後ろ姿を見つけた途端、
「·····先生だ…!」
と誰にも聞かれないように声をおさえて小さくはしゃぐ。
その背中を見つめたまま小走りで駆け寄る。
「おはよーございます。」
そう後ろから声をかける。
「おはようございます。」
先生が落ち着いた声でそう返す。
だがすぐに視線をグッピーたちに戻し、まるで子供をあやすような甘い声で
「可愛いねぇ。」
と言いながら頬を染め、にこりと微笑む。
あなたが1番可愛いよ。言えるはずないけど。
「様子見に来てくれたの?」
先生が私をまっすぐ見つめてそう聞いた。
「.......はい。」
私はわざと寂しげに応えた。
だって、本当は。
...あなたに会いたくて来たんだよ。
すぐそこまで出かかった言葉を、口の中で噛み砕いた。
「また会いに来ますね。」
力いっぱい笑って見せながら、私はそう言った。
「はい。ぜひ。」
きっと、グッピーに会いに来るってことだと思ったんだろうなぁ。
私の大好きな笑顔でそう応えた先生の姿が網膜に焼き付いた。
1人になった廊下で私はぽつりと虚しく呟いた。
「.......片想いって、ほんとに報われないなぁ。」
1/19/2023, 12:20:34 PM