冬になったら、可愛らしいあの人が見られる。
ふわふわの黄色のセーターを着て、もこもこの灰色のコートを羽織っているあの人は、わたしの中では世界一可愛い。
そういえば、好きになった日は真冬のうんと寒い日だったなぁ。
「はぁ。」
あの真冬の日。あの人はそういって息を吐いた。
あの人の吐息が白い煙のように漂っているのを、わたしはぼんやりと眺めていた。
あの日は本当に寒くて、ぼんやりなんてしていられないはずだったけど、寒さで鼻先を少し赤らめて顔の前で手を擦り合わ
せているあの人が、他には何も感じないほど愛おしくて、寒さなんかその瞬間だけは感じなかった。
「寒いですねぇ。」
「...はい。寒いです。」
わたしが先に言おうと思ったのに。そんなことを考えていた反面、言葉を交わせただけで嬉しかった。
なんだかぎこちない返し方になってしまったけれど、あの人はにこにこしていて、わたしはその笑顔に釘付けになった。
あぁ。やっぱり好きだなぁ。そういうところ。
真冬の冷たい北風が、わたしの心にそっと「恋」を添えた。
冬が来る度思い出す、愛しい記憶。
今年はどんなあの人が見られるかなぁ。
4年前まで好きだった人を思い出す度に、必死で可愛くなろうとしたあの頃が懐かしく、少し切なくなる。
両思いって本当に奇跡なんだなぁって分かって、なんにも出来ずに終わった自分の無力さに吐き気がして、体中の水分がなくなっちゃうんじゃないかってくらい泣いて、泣いて、泣いた。
あの人は、誰かを心から好きになることの幸せと、別れの残酷さを教えてくれた。
ありがとう。
こんな私と、出会ってくれて、一緒にいてくれて、一瞬でも、私のこと好きになってくれて、ありがとう。
そして、さようなら。
あなたを見ると全部思い出して辛くなっちゃうから、どうかもう二度と私の前に現れないでね。
私の知らない所で幸せになってね。
さようなら。大好きだった人。
もうひとつの物語の中の私へ
あの時、あの人と出会わなかったあなたは、幸せですか?
どんな毎日を送っていますか。
きっと3年前と同じで、日々生きているのが苦痛なのでしょうね。
そうでしょう?だってあの人と出会わなければ私は命の価値すら分からず、理不尽に大切なものを奪う世界をただ呪い、死んでいたでしょうから。
もうひとつの物語の中の私。どうか聞いてください。
あの人と出会わなかったあなたの人生が本当はどうなっているのかなんて、あの人に出会った私では分かりません。
だから、もし、今の人生を全うして、終わりという節目がついたら、お互いの話をしましょう。
数え切れないほど迫ってくる選択で、毎回別々の道を選んだあなたと私の人生はどうだったのか。
どちらが正解だったのか。
私達がいつかどこかで出会えたら、のんびり話をしましょう。
だから、その時までどうか、たくましく生きてください。
いつかあなたと私が出会えることを夢見て。それでは。