「誰もがみんなアンタみたいに恵まれてると思ってんじゃねぇよ!」
そう怒鳴られた。私は坂倉白葉。私に怒鳴ったのは佐藤ハルノ。私はきっとハルノが言った通り恵まれているのだろう。母と父は医者。詰まる所金持ちと言うやつだ。幼い頃から欲しい物は全て手に入れていた。それは今でも変わらない。仕事が忙しいとはいえ両親は私を蔑ろにすることはなかった。どんなに遅くとも食事のは家族揃って食べてたし、休日も遊園地やら公園やらに連れて行ってもらっていた。容姿も完璧で頭も良い、運動神経も良くて今は陸上部に入っている。友達も多く、高校生になった今はカラオケやアニメイトに友達とよく行っている。自分で言うのも何だが完璧な人間というやつだ。そんな人間いるわけがないと言う人もいるが実際いるのだ。ここに。それは紛れもない事実である。それに反して彼女はいつも自分の席に座って推理小説ばかり読んでおり、挨拶をしても素っ気無い態度。きっと友達も少ないのだろう。私はそんな彼女に興味を持った。初めてだったのだ。私が話しかけたのに素っ気無い態度を取る人は。その態度に苛立ちを覚えたと同時に興が湧いた。
「おはよう!ハルノさん」
「…ん」
今日も素っ気無い。そんな彼女だが、一人だけただ、一人だけ仲の良い人がいた。
「おはよ、ハルノ」
「…ん。玲奈!おはよー!」
満面の笑みで彼女はそう答えた。玲奈というのは山川玲奈。音楽部に所属している。委員会には入っていないが何かと友達の多そうな女子だ。玲奈と私の何が違うのか。どれだけ考えてもわからなかった。運動神経も、頭も容姿も家柄も断然私のほうが上だというのに。なぜ彼女は玲奈とだけ話すのか。それに疑問を持った。そして、その疑問は玲奈への憎しみへと変わった。何故だ。私は完璧なはずなのに。なんで玲奈ばっかり。なんで。私じゃだめなの?なんで貴女は玲奈を選ぶの?なんで?わからなかった。だから言ってしまった。
「玲奈ってさ。ハルノさんの悪口言ってたんだよー。いつも暗くて無口でさ。自分にだけ話しかけてくるのが気持ち悪いってw。酷いよねw。"あんな子"より私と仲良くしよーよ」
と、もちろん玲奈はそんなこと言っていない。これは私が彼女に抱いている不満だ。今でも後悔している。もっといい方法があったはずなのに。恋は盲目とはこの事か。
バシッ
「玲奈がそんなこと言うわけねぇだろ!」
頬を叩かれた。痛かった。彼女の口調は荒々しくいつもとは違う。とても感情的だったのだ。こんな姿初めて見た。とても怖かった。私は人が本気でキレる瞬間に立ち会ったことがない。クラス全員が唖然とし、こちらを見ている。彼女は人目も気にせず私に怒鳴った。
「誰もがみんなアンタみたいだと思うな!特別であることを当然のように振る舞ってんじゃねぇよ!どれだけ頭が良くても運動が得意でも容姿が整っていても、クラスの人気者でも嘘をつくような人とは、不誠実な人とは関わりたくない。もう二度と私に話しかけるな」
「私は…ただ!貴女に振り向いてほしくて!いつも玲奈の前でだけニコニコしていて許せなかったのよ!貴女にだって非はあるはずよ!人の心弄んでおいて!」
「そうか…。キミは僕に惚れてたのか。」
その言葉を聞き私はようやく理解した。惚れていたのだ彼女に。それまでは気づかなかった。だから苦しかったのか。辛かったのか。玲奈だけが特別扱いされるのが許せなかったのか。そして彼女は続けてこう言った。
「それは悪かったね。僕も一人の女に惚れていてね、キミの気持ちはよくわかる。だがキミのやり方は間違っている。気持ちがよくわかるからこそ、僕があの女に惚れているからこそ許せないんだ。キミのやり方がキミの事が。きっと僕がキミを許す日なんて訪れない。諦めてくれ。」
私にだけ聞こえる小声でそう言うと彼女は教室から出ていった。私の恋は終わった。儚く散ったのだ。欲しい物は全て手に入れれると自分を買いかぶりすぎた。どうやら私は完璧ではなかったようだ。"僕"というのは彼女の本当の性格なのだろう。手に入れたいがどう頑張っても手に入らない。だからこそ求めてしまう。でもきっと私がこんな性格じゃなかったとしても彼女は私には惚れなかっただろう。なぜなら彼女は
一人の女に惚れてたからだ。
-完-
「ゆみって好きな人、、とかいねーの?」
「好きな人?うーん、いるっちゃいるね、うん。いるわ」
「マジ?!」
「耳元でうっさい」
私の名前は白神ゆみ。高校一年生だ。そして私に好きな人がいるかどうかを訪ねて来たのは夏目春樹。隣の席のヤンチャないわゆるDQNだ。でも根は良い奴なのだ。
「誰?誰?」
「言わねーよ。」
「えー、いいじゃん!教えてよ!!」
「うるさいからやだー」
「夏目漱石でしょ、あんたの好きな人」
「え?夏目漱石ってあの夏目漱石?文豪の?」
「ちょっと優里ー。なんで言っちゃうかなぁ」
この子の名前は佐久間優里。ショートヘアの私とは対象的に長い綺麗な黒髪。顔はアメリカ人と日本人のハーフ。学校の男子からモテモテなのだ。本人は自覚ないみたいだけど。そして優里は私の幼馴染。家が近所で親も仲が良い。私が歴史オタクで文豪の夏目漱石にガチ恋しているという事を知っている数少ない友人の一人である。まぁ私が夏目漱石を溺愛しているという話は優里にしかしたことがないのだが、何故だか私が仲良くしている子達に広まっていた。まぁみんなアニメオタクとかだしそこら辺理解してくれるから良かったが夏目春樹、コイツは違う。
どちらかというとアニメやゲームはせず外で友人数人と遊ぶような部類の人間だ。きっとそういうのに理解がない。
「ええー。まじか、、」
ほらな。まあ、普通は引くよ。歴史の人物にガチ恋だなんて、普通の人間からしたらあり得ん話だ。そう頭でわかっていながら私はつい反論してしまった。
「仕方ないじゃん!好きなもんは好きなんだもん!好きになった人がただ昔の人だったってだけでしょ?!いーじゃん別にぃ!」
「いや、悪いとは言ってねーよ。恋愛は人それぞれだし。」
「じゃあさっきの反応は何さ!絶対引いてたじゃんか!」
「いや、引いてたとかじゃなくて、、ガチで恋愛的に見てんのかなーって、推し?とかとは別なの?」
「いや、あんね?私もさ、初めは推しだったのよ?でもね、TikTokで流れてきちゃったのさ。夏目漱石に対する想いを熱く語ってる動画が!その動画見たらね普通の推しなら共感できるんだけど、夏目さんは違ったのよ。なんか動画見てたらイライラしてきたし、嫉妬?って言うのかな?好きな人にする嫉妬に近い感情が生まれてきてさ!この溢れる気持ちを!恋と言わず!なんというんだ!クソが!」
「な、なるほど」
「てかさー。アンタも苗字夏目だよねー。」
「ん?あー確かに。」
「苗字くれよー」
「ふぇ?」
いきなり素っ頓狂な声を出すからびっくりした。春樹の方を見ると少し頬が赤い。なんで?私変なこと言ったかな?そう思っていると
「そ、それってどういう意味?」
と、春樹が口を開いた。
「女の私に言わせないでよ」
「…え?」
「アンタが苗字寄越せば実質私は夏目さんと結婚したことになるじゃん?!」
「んなことだろうと思ったよ」
バシッ
「いて、、何すんのよ。優里」
「全く、、アンタって子は。はぁ。春樹くんの純粋な恋心を弄ぶだなんて、、最低ね、、」
ゴミを見るような目で優里はそう言った。私が遊び半分で優里の胸を揉んだとき以来だ。
「えー?ただ苗字交換してほしいって言っただけじゃん」
「なんだ、そゆことか。はぁ」
怪訝そうな顔でため息をつく春樹。何なのだ一体。私なにか悪い事をしたのだろうか?
-完-
「ほらkissしろよ!w」
…。私は今好きな人とキスをしなくてはならない状況に陥っている。
ある日、愛海と私、海斗、そして私の気になっている人。龍馬くんと私の家に集まって王様ゲームをすることになった。ルールは一般的なもので、みんなで割り箸を引いて王様になった人が番号を言い命令を出す。王様の言うことは絶対。という至ってシンプルなルールだ。
「王様だーれだ!」
皆が一斉にそう言うと
「はい」
と隣から低い声がした。龍馬くんである。少しハスキーの入った声。大人の色気があってすごく、なんというか良いのだ。初めに言っておく私は声優オタク、声フェチだ。龍馬くんを好きになった理由の大半が声なのだ。そりゃ、性格も優しいしクールだしと惹かれるところは多いがやはり決めては声だ。中学生とは思えぬほどの色気のある声。そんな声で彼はこう言った。
「んじゃあ、一番と三番で腹筋百回」
「はあ?!腹筋百回?!」
あ、ハモった。どうやら王様の命令を受けるのは愛海と海斗らしい。
「頼むよ。龍馬ぁ!腹筋百回はきついよぉ!」
「そうだよ!百回はちょっと…」
「?。腹筋百回くらい普通だろ?俺は毎日やってるぞ?」
「ふぁ?」
またハモった。意外とこの二人気があったりして…。そんな呑気なことを考えていると、龍馬くんが口を開いた。
「それに…王様の命令は絶対…だろ?今は俺が王様だ。言うことを聞かない子には罰が必要だが…どうする?」
さすが龍馬くん。さすがドS。普段は大人しい龍馬くんだが時折Sな一面を見せる。そんなギャップがたまらないのだ。少し頬が緩む。
「畜生。罰ゲーム何されるか分からねぇし…」
「仕方無い…か、。」
数十分後
「はァ…はァ…あーづがれだぁー、。」
「二度とやりたくないわ…。」
「どうだ!龍馬やりきったぞ!」
「…。まあ、一人百回なんて誰も言ってないけどね。」
「はあ?!なんだと?…」
「俺は一番と三番"で"といったんだ。二人一緒で腹筋百回って意味だったんだがな」
「んだよそれぇ…。やり損じゃん…。」
「まぁ、言われた命令を勘違いしたのは私達だし、仕方ないわ。次行きましょ。」
「そうだな」
「王様だーれだ!」
「私よ!」
声を上げたのは愛海だった。正直愛海が出す命令はなんとなく見当がつく。男子、女子が共に二人ずつそして、王様ゲームという恋愛フラグ立ちまくりなことをしていながらそういう命令が出されないということはない。
「じゃぁあ。二番が一番がキスをする!で!」
「キス、、」
「…。キスか」
「お!その反応は一番と二番はサナと龍馬かな?」
サナとは私の名前だ。そして今に至る。とんでもねぇ命令を出してくれたもんだ。ちくせう。策士め…。
「はやく!はやく!kiss!kiss!」
そう煽り立てる海斗。こいつはほんっとに…。そんなんだからモテねぇんだよ。
「ki…。うん?」
「どうした?海斗」
「なんか今イラっとしたわ」
なんだ、コイツ。心でも読めんのか?そう呑気なことを考えてるといきなり手を握られた。
「ひゃっ?!」
思わず変な声が漏れる。
「王様の命令は絶対だ。さっさと終わらせよう。」
顔近…声…やばっ…////恥ずかし…
そして龍馬くんはキスをした。
私の手に。
「へ?手?」
「ちょっと龍馬!ルール違反よ!」
「何もルールを破っていないぞ。」
「kissって言ったじゃない!」
「命令通りキスしただろ。手に、」
「キスって普通唇と唇を重ね合わせてするものでしょ?!」
「いや、キスにも色々種類があるしキスする場所の指定みたいなのもなかったし、ルール違反ではない。そこに気づかなかったお前の落ち度だろう。愛海」
「ぐぬぬ…はぁ、、仕方ないわね。」
-完-
千年先も私はここにいるのだろうか。人と出会い。人を愛し。そして失う。何十回も何百回も繰り返した。人間はあまりに脆い。すぐに死ぬ。何人もの知人の死に目に遭遇した。そして私は一人の女性に出逢った。出逢ってしまった。彼女は透き通るような白い肌に白い目雪のように真っ白な長い髪の毛。雨が降っているわけでもないのに傘を差していた。片方の手には白杖を持っており信号待ちをしていた。私はその姿に見惚れてしまった。信号が青になり、彼女が一歩一歩と進んでいく。ちょうど横断歩道の真ん中辺りに差し掛かったとき、トラックが猛スピードでやってきた。トラックの向かっている方向には彼女がいる。私は考えるよりも先に体が動いた。私は彼女に覆いかぶさるような形になった。その結果、私は入院しないといけないほどの重症だったのだが、その必要はない。彼女は傷さえなかったものの酷い火傷をしていた。私はすぐに病院に連れて行った。命に別条はないが入院しなければならないそうだ。私は毎日彼女のお見舞いに行った。次第に彼女と仲良くなり何でも話すようになった。
「私、人とこんなに仲良く話せたの貴方が初めてです笑」
「そうなんですか!嬉しいです笑」
「そういえば翔さんは大丈夫なんですか?私をかばってトラックに轢かれたと聞いたのですが、、」
「あー。大丈夫ですよ笑。幸い怪我はありませんでしたし。」
「そうなのですか!その節は助けていただきありがとうございます」
「いえいえ!当たり前の事しただけですし、あんなんでは俺は死ねませんから笑」
「お強いのですね!死ねないということは翔さんは死にたいのですか?」
「まぁ、色々と人生に疲れましたし。」
「そうなのですか、。」
「すみません。少し重い話になってしまいましたね。私はこの辺で、、」
「あ、あの!わ、私が翔さんの生きる理由にはなりませんか?」
「、、。そうですね。私は貴女が生きてくださっているだけで明日が楽しみです。」
「そ、それは、、えっと」
「私、貴女のことが好きなんですよ。」
「へ?」
彼女は頬を赤らめそんな素っ頓狂な声を出した。そして私達は付き合うことになった。彼女との日々は充実していた。とても楽しかった。幸せだった。
しかしそんな幸せも長くは続かない。幸せというのは手に入れた瞬間から手放すことが約束されている。そしてその日は唐突にやってきた。彼女が死んだ。死因は癌だった。およそ二十年という短い期間で彼女の人生は幕を閉じた。あれからどれだけの月日が経ったのだろうか。百年、二百年?まあ、そんなことはもうどうでも良いのだがな。彼女のいない世界では生きていても仕方ない。だが私は死ねない。老いて死ぬことは愚か、病気や事故でも死ぬことはない。つまり不老不死というやつだ。人間の憧れのようなもの。だが人間たちは知らないのだ。死にたくても死ねない苦しみを、大切な者たち、心から愛した者が失われた世界で生きる辛さを。まさに地獄という言葉がふさわしい。きっと私は何年先も待ち続けるのだろう。アルビノの彼女を想いながら。