「今日も生きててえらいね」
なんて、貴方は笑顔で私にそう言う。行き場もなければ、消える場所なんて選べやしない。
あなたがいるから。
あなたがいるから、生き続けなきゃいけない。この生き地獄をリタイアすることは許されない。
あなたが許してくれない。
認めてくれない。
『私と一緒に生きよう。私が全部請け負うから』
なんて綺麗事ばっかり言って。本当はつらいんじゃないのか、限界が来て離れてしまうのではないか、なんて常に思ってる。思わない時間なんてない。
それでも何故か、まだ生きていたいと。まだ貴方と一緒にいたいと心の奥底で思っているのか、私は生きている。
消えたいだなんて、言わなくなった。
「はいはい、今日も生きてるよ」
貴方が居てくれたから。貴方のせいで。
今日も頑張って生きてられる。
2024/06/21
あなたがいたから
クラスメイトの中に、本が大好きな子がいる。授業の合間、朝と帰りのHRが始まる前、挙句の果てには授業中に読み出すような子だ。
授業中に読んで大丈夫なのか?とは思うけど、その子は成績は安定しているようだから、先生も特に咎めるようなことはしなかった。その子の読んでいる本は、週によって変わる。
ある時は心理学の本、ある時は文庫本、ある時は言葉選びの辞典……そのすべてに繋がりはないし、ジャンルもバラバラだ。傾向なんて読めやしない。
その子とは席が近いしブックカバーをしていないから、読んでいる本のタイトルは目に入る。思わず目を疑うようなタイトルが飛び込んでくることは珍しくなかった。そんな私の視線に気づき始めたのか、その子は私に話しかけてくるようになった。
「これ気になる?」
その子は持っていた本を私に手渡した。
「貸すから読んでみて。多分、気に入るよ」
有無を言わさず席を立ち、どこかへと姿を消してしまった。残された私は渡された本のタイトルに目を落とす。
***
学校の時間では到底足りなかったので、その子にお願いして、持ち帰って読ませてもらうことにした。本なんていつぶりに読むかな……なんて、渡された時は思っていたし、すぐ飽きるんじゃないかと考えていたのだが……。
思いのほか面白くて、気づけば数時間が経過していた。仕草や話し方から分かる感情や、座る場所から分かる思いなどがその本に載っていて、読めば読むほど引き込まれる。
底なし沼に落ちる感覚ってこんなんなのかな。絶対違うとは分かっているけど、そんな気がする。結局、渡された本は3日かけて読み切ったのだった。
***
「面白かったでしょ?」
休み時間に本を返した時、その子はそう言った。
「うん。すごく」
「勉強になるし時間も潰せるし。一石二鳥だよね、読書って」
この子は読書をそういう風に捉えているようだ。私からすれば、苦手な活字を読むだけの苦行でしかなかった。だけど、今はちょっと違う気がする。
「こういうの、まだまだあるからさ。よかったら書店とかで探してみなよ。オススメ知りたいなら貸すから」
こうして、その子との繋がりが生まれた。
***
好きな本は何か?と聞かれた時、私はこう答えるしかない。
「いろいろです」と。
1つには決められない。
あの子に貸してもらった心理学の本だけでなく、病気に関する本、コミックアンソロジー、生物の大図鑑、有名な作品の小説などなど……上げればキリがない。
でも私はそれでいいと思ってる。好きな本、なんて抽象的な質問をされても、一つだけ選ぶことは難しい。好きな本が沢山あるなら、それでいいと思ってる。
さて、今日は何を読もうかな。
2024/06/15
好きな本
貴方が嫌いです。
そうですか。どうぞご自由に嫌ってくださいね。
私も貴方のことが嫌いなので。
貴方が好きです。
そうですか。どうぞご自由に好いてくださいね。
私は貴方のことが嫌いですが。
好きだなんて言うと思いました?
甘い。
貴方は相手のことが好きでも、相手は貴方のことが嫌いかもしれませんね。
2024/06/12
好き嫌い
節目を迎えても「おめでとう」と言うわけでもないし
テストでいい点数、悪い点数とっても一喜一憂するわけでもないし
嬉しくなっても「よかったね」って言ってくれるわけでもないし
怒っても静めてくれるわけじゃないし
悲しくなっても慰めてくれるわけでもないし
楽しくなっても便乗してくれるわけでもないけど。
それでもこの街はいつも、僕たちを見てる。
どんな時だって。
どんな場所にいたって。
どんな気分になったって。
どんな天気になったって。
たとえ消えたくなったとしても。
何も言わずにただそこにいる。いてくれるから。
また僕たちは歩いていける。この街と一緒に。
2024/06/11
街
『やりたいことはなんですか?』
人生の中で、腐るほど聞く言葉だった。
幼い頃の自分なら簡単に答えていただろう。何も考えることなく、ただ自分の目に焼き付いたものを口に出すだけで。
子どもってそんなもんだ。
そこに向かうまでの困難や挫折など、幼い自分が知るはずも、ましてや想像するはずもない。
そして大人になるにつれて、自分のやりたいことが分からなくなった。
1つ思いついても捨てられ、また思いついても捨てられる。向かうまでの道が遠いこと、それほど甘い世の中ではないこと。現実を見れば見るほど、子どもの時に抱いたやりたいことが、すべて淡い理想だと知ってしまう。
「はあーあ、変わっちゃったね」
保育園の頃に書いた将来の夢。
アイスクリーム屋さんになること!
なんて、乱雑な字で書いてある。昔の自分がどれだけワクワクして、憧れて書いたかなんて、今の私には分からない。何に焦がれて、こんなこと書いたんだろう。
バカみたいだな。そう思ってしまうのは、現実を見てしまったからなのか、それとも、なれるはずないと諦めてしまったからなのか。……どっちも、かな。
「こんなもん渡されたって、書けるわけないのにね」
机に広がる、将来設計のプリント。
閉められたカーテンの向こうでは、雨が降っている。
2024/06/10
やりたいこと