花影

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『やりたいことはなんですか?』


人生の中で、腐るほど聞く言葉だった。

幼い頃の自分なら簡単に答えていただろう。何も考えることなく、ただ自分の目に焼き付いたものを口に出すだけで。

子どもってそんなもんだ。

そこに向かうまでの困難や挫折など、幼い自分が知るはずも、ましてや想像するはずもない。

そして大人になるにつれて、自分のやりたいことが分からなくなった。

1つ思いついても捨てられ、また思いついても捨てられる。向かうまでの道が遠いこと、それほど甘い世の中ではないこと。現実を見れば見るほど、子どもの時に抱いたやりたいことが、すべて淡い理想だと知ってしまう。


「はあーあ、変わっちゃったね」


保育園の頃に書いた将来の夢。

アイスクリーム屋さんになること!

なんて、乱雑な字で書いてある。昔の自分がどれだけワクワクして、憧れて書いたかなんて、今の私には分からない。何に焦がれて、こんなこと書いたんだろう。

バカみたいだな。そう思ってしまうのは、現実を見てしまったからなのか、それとも、なれるはずないと諦めてしまったからなのか。……どっちも、かな。


「こんなもん渡されたって、書けるわけないのにね」


机に広がる、将来設計のプリント。
閉められたカーテンの向こうでは、雨が降っている。


2024/06/10
やりたいこと

6/10/2024, 1:02:55 PM