あたしには、好きなものがある。
朝日だ。
こんなこと、しょーもないから誰にも言ってない。いきなり「朝日が好きなんだよね」なんて言われたら困惑するでしょ?だから言ってないの。
それに、言う必要なんてないと思ってる。朝日が好きだという事実は、あたしだけが知っていればそれでいい。
でも今日は、生憎の雨模様だった。これじゃあ、朝日が見れないじゃないの。まあ、自然だから仕方ないよね。あたしみたいな人間が、あーだこーだ文句言って変わるもんじゃないしさ。
***
目を覚ましてカーテンを開けると、あたしが待ち望んでいたものが姿を見せてくれた。
朝日だ。
急いで支度をして家を飛び出す。昨日が一日中雨で曇りだったからか、そこまで冷えていなかった。そろそろ夏だし、薄手のもの引っ張り出さなきゃ…なんて思いながら、誰もいない道を歩く。
光るアスファルトに足を踏み入れると、じんわりと温もりが伝わってきた。これが欲しかった。雲の残る青い空を見つめる。
あたしが朝日が好きなのは、温もりがあるからだけじゃない。
なんだか、応援されているような気分になるからだ。このことも口には出せないから、あたしだけの秘密にしてる。
「それじゃ、行ってきます」
何も言わない朝日に手を振って、また歩き出した。
2024/06/09
朝日の温もり
歳を重ねて、この世で生きていくうちに、ふと思ったことがある。
自分は嘘が上手くなった、と。
きっかけは些細なことから。親に嘘をつき、先生に嘘をつき、友達にも嘘をついた。嘘を覚えてから今日に至るまで、バレたことはなかった。毒を食らわば皿まで、と言うのなら、自分が死ぬまで嘘は嘘のままでいようとした。
でも、それは叶うことは無かった。
『世界が終わる』
空想の話ではなかった。誰かが呟いたことでもなく、ゲームでありがちなことでもなく、ただただ残酷な真実がそこにあった。そんなの、誰だって信じるわけない。
しかし、国のお偉い様が立て続けに喋り、そして宇宙の映像が証拠を示すのだから信じる他なかった。信じざるを得なかった。それ以外、道がない。
〇月✕日。とうとうこの日がやってきた。明日になればこの世界は消えてなくなる。無論、人類も虫も建物全ても、だ。
「話ってなに?」
「俺さ、昔からお前にずーっと嘘ついてたわ。今になって言うことじゃないと思うけど、世界が終わるって聞いたら言った方がよかったかなって」
「……遅いよ、バカ」
なんて言われるから、思わず隣を見る。彼女は1つため息をついたあとに、最後の日に見るに十分な笑みを浮かべてこう言った。
「最初から分かってた」
2024/06/07
世界の終わりに君と