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3/7/2024, 10:53:27 PM

明るい夜だった。
月の美しい夜だった。
星が霞むほど、眩しい光だった。
満月か、と思った。
そしたら、きみが近くにいて、
これは「待宵月」って教えてくれたんだ。

時々ふらっと現れては星座を教えてくれたね。
お陰ですっかり覚えちゃった。
夜空を見上げたら、いろんな物語が見えるようで。
いつもの道が輝いて見えたよ。

一番好きなのはね、テーブルさん座。
テーブルみたいな山って意味でこの名前らしいけど
「テーブルって人みたいだよね」って
一緒に笑った時のキミの顔が、
何より美しく見えたから。

最近は星とか月とか、そういう持ち物が増えちゃった。
見るとキミのことを思い出して、買っちゃうんだ。
周りの人も「何かあったの?」って
ニヤニヤしながら聞いてくるし。
全部キミのせいだね。

でも、嫌じゃないんだ。
キミに何をされても、嫌いになれない自分がいる。
たまに、ちょびっと、「キミがいなかったら」とか、
考えたりはするけど、結局「それは嫌だ」っていつも思うんだ。
だから、勘違いしないで。

最近、顔を見せてくれないね。
変なことを考えちゃったから?
それとも、飽きちゃった?
最初は鬱陶しく思うこともあったよ。
だって、怖いくらい帰り道で会うんだもん。
でもさ、それが続くと普通になっちゃうから。
ちょっと寂しいのも、変な普通ができるのも、キミが悪いんだからね。
だから、あんまり僕をひとりにしないで。

どんどんキミが消えていく気がするんだ。
静かな帰り道に戻って、キミの言葉に悩まされることもなくなって。
どんな日々を過ごしていたのか忘れてしまいそうだよ。
でも、キミが教えてくれた星座だけは忘れたくなくて。
毎日夜空を見上げて。
ひとつひとつ確かめていくんだ。

少し寒くなってきた日。
いつものように夜空を見上げる。
「今日の月は、、、」
そこまで言って、懐かしい気配を感じて振り返る。
そこにキミはいなかった。
でも、なぜか近くにいる気がして、諦められなかった。
道でひとりでくるくる回って、、、
人が見る目も、気にならなかった。
キミを探すことだけに、必死だった。
そんな時。
刹那、キミの影を瞳が捉えた。
「、、、待宵月、もうすぐだね。」
耳元で囁かれて。
力が抜けて、壁に寄りかかる。
さっき止めてしまった動作を、もう一度。
見上げると、確かに、「幾望」が見えた。

待宵月=十五夜の前日、十四夜。幾望ともいう。

2/3/2024, 9:39:24 AM

一面に咲き乱れる勿忘草に目を奪われると、隣の君が「こっちを見て」と言わんばかりに袖を引っ張る。
そんな気がした。
昔みたいに、また、一緒に。
毎年毎年変わらず咲き続けるこの花に、何度救われただろうか。思い出が、思い出すことが苦痛なこともある。でも、ここでは泣かない。
約束したんだ、最期に来たここで。

風がそよぐと、君が暖を求めるように擦り寄ってくる。
そんな気がした。
あんなに沢山着込んだのに、まだ寒がる君は。
僕のポケットがあるからと、頑なに手袋を買わずに。
得意げに手を捩じ込んでくるあなたは。

花が揺れるのは、君が笑っているから?
いつも明るくころころと、眩しいほどの笑顔で。
忘れるはずが無い。あんなに近くで。そばで。ずっと。

日が差すのは、君がそばにいるから。

12/27/2023, 11:45:18 PM

小さな手
大きな手
たくさんの手を包む、暖める
今年も
ずっと変わらない
来年もまた、彩る
短くなる冬を

12/24/2023, 11:04:38 PM

イブの夜
今年はクリスマスが平日。
つまり、目一杯楽しめるのはイブ、イブイブだけ。
そう言っていきなり旅行を提案してきたのには驚いたけど、なんや勘や言って楽しいものだった。
ゆったり温泉に浸かったり、
美味しいものを食べたり、
綺麗な雪景色を見に行ったり、
静かになった部屋でトランプしたり、
当てもなく散歩してみたり。
今までで一番と言っていいほど、楽しかった。
久々に思いっきり、羽目を外して遊べたと思う。
これでもう少し頑張れそうだ。
そして、来年も頑張れる。
きっと、再来年も、その次も、ずっとずっと。
いつか一人になった時も、もう、迷わないだろう。
教えてもらった、たくさんの気持ちも、言葉も、意味も、全部、全部。
大切にしてくれたのは、いつも。
きっともう使うことはないけれど、心の奥の小さな箱に、目一杯、ギリギリまで、詰められるまで詰めた。
思い出は失わないように。
記憶からなくなっても、習慣だと口癖だとか、そういうものに貴方が残っていればいい。
だから、忘れないでいて。
この雪は溶けるけど、
クリスマスは終わるけど、
夜は明けるけど、
みんなは動き出すけど、
二人だけは、変わらないでいて。
貴方だけは。

11/11/2023, 2:08:32 AM

ススキ
学校に向かう途中、背の高いススキが生えている場所がある。その向こうにはいつも人影があって、背の高い髪の長い人だ。顔を見たことはないし、なんならシルエットしか知らない。でも、僕らにとっては綺麗で、とてもかっこいい人だという認識が生まれていた。その人はそのまま、ススキにいる(多分)お姉さんで、ススキさんと呼ばれていた。
昔、僕の親戚にも似たようなお姉さんがいた。とても長い綺麗なロングヘアーで、肌が白いおばけのような。でも、僕にとっても優しくて、憧れだった。
友達と一緒にそこを通ったり立ち止まって見えないか軽く探ってみたりもした。でも、誰もススキで覆われている先を見てお姉さんの正体を確かめようとする人はいなかった。夢を壊したくなかったのか、会っても意味がないと思ったのか、他に興味があったのか。僕にはわからないけれど、何日かする頃にはみんな飽きて、他の方に興味を寄せていた。僕も子どもだけど、子どもは移り変わりが激しいなと思った。そして、熱心にススキを見る僕はいつのまにか変人扱いされるようになった。
ある日、僕はススキの先を見ることにした。
ススキが枯れたらどうせその先が見えるからと何もしないでいた友達のことを思い出した。でも、ススキが枯れてからだとお姉さんが、ススキさんがいなくなってしまいそうな気がした。ススキをかき分けて奥に進んでいく。僕は時間がかかることを覚悟して時計と、軽いおにぎりを持ってきていた。でも、余計だった。なぜなら、思っていたよりあっさりと、ススキの向こうに辿り着いたからだ。まぁ、お姉さんの影が見えるくらいだし、そんなにたくさんあるわけはないんだけど。そして、ススキさんを探して首を左右に振る。でも、そこにお姉さんの姿はなく、小さなお墓がポツンと立っていた。そこに近寄ると、僕と同じ苗字がかいてあった。下の名前は読めなかった。自由帳を持ってきていた僕は、その名前をメモして、墓の見た目をかいて家に帰った。
その名前を見せると、おかあさんはこの名前、、、と言って悲しそうな顔をした後、すぐいつも通りに戻ってこれは、親戚のお姉さんの名前だよ。と教えてくれた。親戚といっても近くに住んでいて、僕が小さい頃はよく遊んでくれたという。僕は、記憶の中のさらさらの髪と優しい笑顔を思い浮かべた。お姉さんは僕が4、5歳くらいのときに引っ越したときいた。なんでお姉さんの名前がかいてあるのかわからないけれど、他の場所にも名前みたいのがかいてあったから、そういうものなのだろう。次の日、僕はお墓に行った。
家に生えている花をおかあさんにおゆるしをもらってから取って来た。だって、お姉さんの名前が入っているくらいだから、お姉さんの大切な人だろう。お姉さんの大切な人なら、僕も大切にしたい。
それに、この場所は不思議でお姉さんと遊んでいたことがよく思い出せるような気がする。僕は、この場所を秋だけの秘密基地に決めた。
もちろん、今もだれにも教えてないよ。

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