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明るい夜だった。
月の美しい夜だった。
星が霞むほど、眩しい光だった。
満月か、と思った。
そしたら、きみが近くにいて、
これは「待宵月」って教えてくれたんだ。

時々ふらっと現れては星座を教えてくれたね。
お陰ですっかり覚えちゃった。
夜空を見上げたら、いろんな物語が見えるようで。
いつもの道が輝いて見えたよ。

一番好きなのはね、テーブルさん座。
テーブルみたいな山って意味でこの名前らしいけど
「テーブルって人みたいだよね」って
一緒に笑った時のキミの顔が、
何より美しく見えたから。

最近は星とか月とか、そういう持ち物が増えちゃった。
見るとキミのことを思い出して、買っちゃうんだ。
周りの人も「何かあったの?」って
ニヤニヤしながら聞いてくるし。
全部キミのせいだね。

でも、嫌じゃないんだ。
キミに何をされても、嫌いになれない自分がいる。
たまに、ちょびっと、「キミがいなかったら」とか、
考えたりはするけど、結局「それは嫌だ」っていつも思うんだ。
だから、勘違いしないで。

最近、顔を見せてくれないね。
変なことを考えちゃったから?
それとも、飽きちゃった?
最初は鬱陶しく思うこともあったよ。
だって、怖いくらい帰り道で会うんだもん。
でもさ、それが続くと普通になっちゃうから。
ちょっと寂しいのも、変な普通ができるのも、キミが悪いんだからね。
だから、あんまり僕をひとりにしないで。

どんどんキミが消えていく気がするんだ。
静かな帰り道に戻って、キミの言葉に悩まされることもなくなって。
どんな日々を過ごしていたのか忘れてしまいそうだよ。
でも、キミが教えてくれた星座だけは忘れたくなくて。
毎日夜空を見上げて。
ひとつひとつ確かめていくんだ。

少し寒くなってきた日。
いつものように夜空を見上げる。
「今日の月は、、、」
そこまで言って、懐かしい気配を感じて振り返る。
そこにキミはいなかった。
でも、なぜか近くにいる気がして、諦められなかった。
道でひとりでくるくる回って、、、
人が見る目も、気にならなかった。
キミを探すことだけに、必死だった。
そんな時。
刹那、キミの影を瞳が捉えた。
「、、、待宵月、もうすぐだね。」
耳元で囁かれて。
力が抜けて、壁に寄りかかる。
さっき止めてしまった動作を、もう一度。
見上げると、確かに、「幾望」が見えた。

待宵月=十五夜の前日、十四夜。幾望ともいう。

3/7/2024, 10:53:27 PM