刹那。

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1/21/2026, 1:56:00 PM

ねぇおかあさん。

12月14日、8歳の誕生日の日、私が高熱を出して、せっかくチケットの取れた遊園地に行けませんでしたね。

熱が出ているのに、いきたいいきたいと駄々をこねる私に呆れたことでしょう。

困ったような顔で、今は静かに寝ましょうね、
また今度ぜったいにつれていってあげるからね。と。
優しく声をかけてくれましたね。
そして
夜、少し熱が下がったけれど、まだ拗ねて泣きじゃくる私の頭をゆっくりと撫でてくれましたね。
 私がずっと食べたかったケーキ屋さんのホールケーキを用意してくれたこと、今でも鮮明に覚えています。

時が立って、高校生。
なんとも恥ずかしい青春時代です。あなたには失礼をはたらきました。
まともに帰ってこない。
遊んでばかり。反抗的。
帰ってきても、かける言葉は暴力的で。
悲しい思いをたくさんさせたかと思います。
ごめんなさい。

そんな中、貴方は倒れてしまいました。
急なことでその時のことはよく覚えていません。

私はその時甘えていたのです。
今ある環境に、家庭に、貴方に。
それから貴方はみるみる衰弱していきましたね。
私は強がって、見舞いに行っても無言。なにも話しませんでしたね。
最後に貴方が私にお願いをしました。
「一緒に夜桜を見にいきませんか?」

私は、なんだか小っ恥ずかしくて、一度断ってしまいました。貴方と向き合うのはとても久しぶりだったから。
お父さんに何度も何度も怒られ、説得され、嫌な顔して貴方に会いに行ったと思います。
それでもいつも笑顔で、
「いらっしゃい」って声をかけてくれました。

夜桜を見に行った日。貴方はきっと悟っていたのですね。自分の運命を。いつ海へ還るかを。だから、
私に会う前、部屋でひとり泣いていたのですね。
その後の貴方はいつもの笑顔でした。

「ねぇ、この夜桜。貴方にとてもピッタリだわ。夜桜が貴方の名前の由来なのよ。私が苦しい時、貴方がいてくれたわ。お腹の中に貴方がいたから、私は頑張れた。そんなふうに暗い中にいる人たちを、上向かせるような、支えてくれるような、そんな人になることを願って貴方にこの名をつけたのよ。桜宵」

貴方は次の日、目を覚ましませんでした。

大好き。大好きですおかあさん。

また、私の名前を呼んでくれますか?
また、私と夜桜の下を散歩してくれますか?
また、一緒にホールケーキを食べてくれますか?

あなたを待つ夜は
いつにもまして、冷え込んでいる気がします。

今年も夜桜はとても綺麗です。
満開に咲いて、いつも上を向きたくなるような、

そんな桜です。

「特別な夜」







8/27/2025, 12:28:24 PM

【ここにある】

 ねぇせかい!わたしはもうしぬのよ!
止めてごらんなさいよ!今なら空だって飛べるわ!
海にダイビングだってできるし、
電車とタイマンだってはれるの!

 ねぇ世界!わたしはもうしぬのよ!
悲しかった毎日はもう終わりなの!
泣くのも今日で終わり!最後ぐらい笑っていたいもの!

 ねぇ世界?私はもうしぬのよ!
ゴミを投げられるのはもう最期。痛いのも今日ので最後ね!少し怖いけれど、興味の方が勝っているわ。
誰か、悲しんでくれるかしら?なぁんてね。

 ねぇ世界?私はもう死ぬのよ!
私の場所は何処?
なぜこの狭い社会は私の存在を否定するの?
どうして、私は死ぬの?

 ねぇ世界。私はもう死ぬのよ。
だからね、最後だけお願いを聞いてちょうだい。
私のだぁぃ好きなあの子だけは守って欲しいの。
あの子は、私の後をついてこようとするから。
ダメって叱ってちょうだい。

 ねぇ世界。もう少し生きてみたかったって言ったら
呆れるかしら?これを選択したのは私なのにね。

わたし、来世はとりになるの。





 ねぇ、世界とんだおせっかいね。
私を生かすなんてどうしてなの。
あなたはわたしを拒んだのに。

ねぇ、世界、今日あの子が私の居場所になるって
泣いていたわ。
「死んでしまったら、私は一生自分を許せない」って。

どうして私はあの時、生きたいと思ったの。
どうして、死ななくてよかった、って思ったの。

ねぇ?世界。どうやら私の欲しいものは
ここにあったみたい。
どうやら、
私は三途の川で溺れて、岸に流されたみたい。
あれから涙がずっと止まらないの。
ずっとずっと、探していたものが近くにあったの。

なんて馬鹿なの。なんて視野が狭いの。

 胸の奥がキュッて、暖かくて。
ずっと雨がやまないの。

「ねぇ。私、あなたのことが好き。どんなわるい人からも私があなたを守る。私が盾になる。誰にも負けない。もう目を逸らさない。
あなたを死なせない。
あなたをひとりにしない。
私があなたの居場所になるわ。
だから、お願い。私の我儘を聞いて。
生きて。生きよう。私と生きよう。」

その言葉がどれだけ嬉しかったか。
どれだけ救われたか。
どんなプレゼントよりも貴重な大切な言葉。

 ねぇ。世界。私、少しだけ生きてみてもいいかしら。
あの子は「あなたの居場所になる」と言ったけれど、
ずっとあったのよ。

ずっと

ずっとそこにあったの。

ここにあったのね。


「おはよう、世界。もう一度、生きてみるわ。」







8/25/2025, 12:21:18 PM

『もう一歩だけ、』

 本当の夢を叶えられるのはほんの一握りだけで、
自分はその一握りに入っていると思っていた。

 僕の書くストーリーは秀逸で、革命的で誰もがあっと驚くような展開で、感動に涙を流す人もいて、何処からともなく拍手を受ける。
そうなれると思っていた。
そんな作家になれるって。

 でも実際はそうじゃない。
貯金は減るばかり、
作家だけじゃ食べていけず、バイトの日々。
溜まっていくのは丸められた原稿用紙たち。
定職にもつかない息子だ、親にも愛想を尽かされて。
何度も出版社に持ちかけて、頭を下げた。

 その度に惨めになった。
 その度に自分が心底嫌いになった。
 その度に世界に自分を否定されている気分になった。

殴られ、蹴られ、罵倒され、
花を咲かせることもできずにその華は

とうとう折れてしまった。

 やけになった僕は朝までアルコールを取り込んだ。
バイトも無断欠勤した。どうでもよかった。
視界が揺れる。頭を鈍器で殴られているようだ。
世界が、人々が僕を笑っている。

 駅前の小さな喫茶店へと寄った。昔じぃちゃんに連れてきてもらった、オムライスがうまい店。
 オムライスを頼み、待っている間、なぜか手を動かしたくなった。
まるでペンを握ることを待っているかのように。

そうだった
僕が小説を書き始めたのは、じぃちゃんが褒めてくれたからだった。
「お前は有名作家になれるぞ。」
「すごいじゃないか。面白かったぞ。」

 「どんなひどいストーリーでも、どんなに拙い文でも
じぃちゃんが読んでやる。だって」

じぃちゃんは、お前の1番のファンだからな。

ハッとした。
ポケットに手を突っ込む。癖で持ち歩いていたペンを取った。
喫茶店のナプキンに文字を連ねていく。
ただがむしゃらに。
ただひたすらに。

じぃちゃん。やっぱり諦めきれないや。
迷惑かけないから、悪いことしないから、
ちゃんと真面目にバイトをするから。

もう一度だけ、
もう一歩だけ、
僕に勇気をください。

気がつけば青色だった世界は橙色へと変わり、俺の周りは拙い文で真っ黒になったナプキンで溢れかえっていた。

喫茶店のマスターは何も言わず、僕を見ていた。

「あ…ごめんなさい。」
「いいんですよ。存分に使ってください。お代はもう貰いましたから。」
「え…?」

マスターがにこやかに笑う。
「素敵な物語、勝手ながら読ませていただきました。
この本が出来上がったらうちに飾らせていただきたいものです。」
「こんな拙い文でも、本が書けると思いますか?」
はっきりとマスターは言う。

「書けますとも。だって貴方にはもうファンがいますでしょう?私ともう1人、貴方の大切な1番のファンが」

「!」
その言葉に涙が溢れた。どうして忘れていたのだろう。

夢を叶えられるのはほんの一握り。
だけどその一握りの中じゃなくても、
誰も見てくれてなくても。

僕は本が大好きだ。

だから書くしかないんだ。
書かなきゃ生きていけないんだ。

折れた華は必死に前を向いていた。
もう一歩、踏み出せるように。

8/24/2025, 5:53:28 PM

見知らぬ街

 電車へ飛び乗った。

涙が止まらなかった。

あなたはその子を選ぶのね。

2年も一緒にいた私より、1ヶ月の可愛い子を選ぶのね。

お母さん。お母さんの言った通りよ。
私、見る目なかった。

人目も気にせず、ただ泣いていた。
何駅かすぎて、少し落ち着いた頃、自分が座る席の横に小さなティッシュが置いてあった。
心優しい誰かが少しの思いやりを置いていってくれた。
 
どこ行きかもわからない電車へ飛び乗ったからか、
見知らぬ風景が並んでいた。

大きな田んぼ、周りを飛ぶ赤とんぼ。
自転車に乗る男の子。それを必死に追いかける小さなお友達。何気ない風景を夕焼けが彩っていた。


ねぇ、昔一緒に温泉巡りしたね。
その頃から私に冷めてたの?
嫌になってた?きらいになってた?
教えて。私なにがたりなかった?

電車を降りる。ひぐらしが鳴く。
何駅だろう。知らない街だった。
歩く。
海が見える、綺麗な街だ。
なんだかすべてを忘れさせてくれるような温もりだ。

ねぇ、あなたを忘れようと思う。
一緒に買ったマグカップも捨てるね。
あなたの好きな香水も、もうつけない。
私の部屋に残ったあなたの跡は綺麗になくす。

幸せになってね。 心からの嘘。