ねぇおかあさん。
12月14日、8歳の誕生日の日、私が高熱を出して、せっかくチケットの取れた遊園地に行けませんでしたね。
熱が出ているのに、いきたいいきたいと駄々をこねる私に呆れたことでしょう。
困ったような顔で、今は静かに寝ましょうね、
また今度ぜったいにつれていってあげるからね。と。
優しく声をかけてくれましたね。
そして
夜、少し熱が下がったけれど、まだ拗ねて泣きじゃくる私の頭をゆっくりと撫でてくれましたね。
私がずっと食べたかったケーキ屋さんのホールケーキを用意してくれたこと、今でも鮮明に覚えています。
時が立って、高校生。
なんとも恥ずかしい青春時代です。あなたには失礼をはたらきました。
まともに帰ってこない。
遊んでばかり。反抗的。
帰ってきても、かける言葉は暴力的で。
悲しい思いをたくさんさせたかと思います。
ごめんなさい。
そんな中、貴方は倒れてしまいました。
急なことでその時のことはよく覚えていません。
私はその時甘えていたのです。
今ある環境に、家庭に、貴方に。
それから貴方はみるみる衰弱していきましたね。
私は強がって、見舞いに行っても無言。なにも話しませんでしたね。
最後に貴方が私にお願いをしました。
「一緒に夜桜を見にいきませんか?」
私は、なんだか小っ恥ずかしくて、一度断ってしまいました。貴方と向き合うのはとても久しぶりだったから。
お父さんに何度も何度も怒られ、説得され、嫌な顔して貴方に会いに行ったと思います。
それでもいつも笑顔で、
「いらっしゃい」って声をかけてくれました。
夜桜を見に行った日。貴方はきっと悟っていたのですね。自分の運命を。いつ海へ還るかを。だから、
私に会う前、部屋でひとり泣いていたのですね。
その後の貴方はいつもの笑顔でした。
「ねぇ、この夜桜。貴方にとてもピッタリだわ。夜桜が貴方の名前の由来なのよ。私が苦しい時、貴方がいてくれたわ。お腹の中に貴方がいたから、私は頑張れた。そんなふうに暗い中にいる人たちを、上向かせるような、支えてくれるような、そんな人になることを願って貴方にこの名をつけたのよ。桜宵」
貴方は次の日、目を覚ましませんでした。
大好き。大好きですおかあさん。
また、私の名前を呼んでくれますか?
また、私と夜桜の下を散歩してくれますか?
また、一緒にホールケーキを食べてくれますか?
あなたを待つ夜は
いつにもまして、冷え込んでいる気がします。
今年も夜桜はとても綺麗です。
満開に咲いて、いつも上を向きたくなるような、
そんな桜です。
「特別な夜」
【ここにある】
ねぇせかい!わたしはもうしぬのよ!
止めてごらんなさいよ!今なら空だって飛べるわ!
海にダイビングだってできるし、
電車とタイマンだってはれるの!
ねぇ世界!わたしはもうしぬのよ!
悲しかった毎日はもう終わりなの!
泣くのも今日で終わり!最後ぐらい笑っていたいもの!
ねぇ世界?私はもうしぬのよ!
ゴミを投げられるのはもう最期。痛いのも今日ので最後ね!少し怖いけれど、興味の方が勝っているわ。
誰か、悲しんでくれるかしら?なぁんてね。
ねぇ世界?私はもう死ぬのよ!
私の場所は何処?
なぜこの狭い社会は私の存在を否定するの?
どうして、私は死ぬの?
ねぇ世界。私はもう死ぬのよ。
だからね、最後だけお願いを聞いてちょうだい。
私のだぁぃ好きなあの子だけは守って欲しいの。
あの子は、私の後をついてこようとするから。
ダメって叱ってちょうだい。
ねぇ世界。もう少し生きてみたかったって言ったら
呆れるかしら?これを選択したのは私なのにね。
わたし、来世はとりになるの。
ねぇ、世界とんだおせっかいね。
私を生かすなんてどうしてなの。
あなたはわたしを拒んだのに。
ねぇ、世界、今日あの子が私の居場所になるって
泣いていたわ。
「死んでしまったら、私は一生自分を許せない」って。
どうして私はあの時、生きたいと思ったの。
どうして、死ななくてよかった、って思ったの。
ねぇ?世界。どうやら私の欲しいものは
ここにあったみたい。
どうやら、
私は三途の川で溺れて、岸に流されたみたい。
あれから涙がずっと止まらないの。
ずっとずっと、探していたものが近くにあったの。
なんて馬鹿なの。なんて視野が狭いの。
胸の奥がキュッて、暖かくて。
ずっと雨がやまないの。
「ねぇ。私、あなたのことが好き。どんなわるい人からも私があなたを守る。私が盾になる。誰にも負けない。もう目を逸らさない。
あなたを死なせない。
あなたをひとりにしない。
私があなたの居場所になるわ。
だから、お願い。私の我儘を聞いて。
生きて。生きよう。私と生きよう。」
その言葉がどれだけ嬉しかったか。
どれだけ救われたか。
どんなプレゼントよりも貴重な大切な言葉。
ねぇ。世界。私、少しだけ生きてみてもいいかしら。
あの子は「あなたの居場所になる」と言ったけれど、
ずっとあったのよ。
ずっと
ずっとそこにあったの。
ここにあったのね。
「おはよう、世界。もう一度、生きてみるわ。」
『もう一歩だけ、』
本当の夢を叶えられるのはほんの一握りだけで、
自分はその一握りに入っていると思っていた。
僕の書くストーリーは秀逸で、革命的で誰もがあっと驚くような展開で、感動に涙を流す人もいて、何処からともなく拍手を受ける。
そうなれると思っていた。
そんな作家になれるって。
でも実際はそうじゃない。
貯金は減るばかり、
作家だけじゃ食べていけず、バイトの日々。
溜まっていくのは丸められた原稿用紙たち。
定職にもつかない息子だ、親にも愛想を尽かされて。
何度も出版社に持ちかけて、頭を下げた。
その度に惨めになった。
その度に自分が心底嫌いになった。
その度に世界に自分を否定されている気分になった。
殴られ、蹴られ、罵倒され、
花を咲かせることもできずにその華は
とうとう折れてしまった。
やけになった僕は朝までアルコールを取り込んだ。
バイトも無断欠勤した。どうでもよかった。
視界が揺れる。頭を鈍器で殴られているようだ。
世界が、人々が僕を笑っている。
駅前の小さな喫茶店へと寄った。昔じぃちゃんに連れてきてもらった、オムライスがうまい店。
オムライスを頼み、待っている間、なぜか手を動かしたくなった。
まるでペンを握ることを待っているかのように。
そうだった
僕が小説を書き始めたのは、じぃちゃんが褒めてくれたからだった。
「お前は有名作家になれるぞ。」
「すごいじゃないか。面白かったぞ。」
「どんなひどいストーリーでも、どんなに拙い文でも
じぃちゃんが読んでやる。だって」
じぃちゃんは、お前の1番のファンだからな。
ハッとした。
ポケットに手を突っ込む。癖で持ち歩いていたペンを取った。
喫茶店のナプキンに文字を連ねていく。
ただがむしゃらに。
ただひたすらに。
じぃちゃん。やっぱり諦めきれないや。
迷惑かけないから、悪いことしないから、
ちゃんと真面目にバイトをするから。
もう一度だけ、
もう一歩だけ、
僕に勇気をください。
気がつけば青色だった世界は橙色へと変わり、俺の周りは拙い文で真っ黒になったナプキンで溢れかえっていた。
喫茶店のマスターは何も言わず、僕を見ていた。
「あ…ごめんなさい。」
「いいんですよ。存分に使ってください。お代はもう貰いましたから。」
「え…?」
マスターがにこやかに笑う。
「素敵な物語、勝手ながら読ませていただきました。
この本が出来上がったらうちに飾らせていただきたいものです。」
「こんな拙い文でも、本が書けると思いますか?」
はっきりとマスターは言う。
「書けますとも。だって貴方にはもうファンがいますでしょう?私ともう1人、貴方の大切な1番のファンが」
「!」
その言葉に涙が溢れた。どうして忘れていたのだろう。
夢を叶えられるのはほんの一握り。
だけどその一握りの中じゃなくても、
誰も見てくれてなくても。
僕は本が大好きだ。
だから書くしかないんだ。
書かなきゃ生きていけないんだ。
折れた華は必死に前を向いていた。
もう一歩、踏み出せるように。
見知らぬ街
電車へ飛び乗った。
涙が止まらなかった。
あなたはその子を選ぶのね。
2年も一緒にいた私より、1ヶ月の可愛い子を選ぶのね。
お母さん。お母さんの言った通りよ。
私、見る目なかった。
人目も気にせず、ただ泣いていた。
何駅かすぎて、少し落ち着いた頃、自分が座る席の横に小さなティッシュが置いてあった。
心優しい誰かが少しの思いやりを置いていってくれた。
どこ行きかもわからない電車へ飛び乗ったからか、
見知らぬ風景が並んでいた。
大きな田んぼ、周りを飛ぶ赤とんぼ。
自転車に乗る男の子。それを必死に追いかける小さなお友達。何気ない風景を夕焼けが彩っていた。
ねぇ、昔一緒に温泉巡りしたね。
その頃から私に冷めてたの?
嫌になってた?きらいになってた?
教えて。私なにがたりなかった?
電車を降りる。ひぐらしが鳴く。
何駅だろう。知らない街だった。
歩く。
海が見える、綺麗な街だ。
なんだかすべてを忘れさせてくれるような温もりだ。
ねぇ、あなたを忘れようと思う。
一緒に買ったマグカップも捨てるね。
あなたの好きな香水も、もうつけない。
私の部屋に残ったあなたの跡は綺麗になくす。
幸せになってね。 心からの嘘。