Tanzan!te

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9/13/2023, 2:56:12 PM

Episode.26 夜明け前


まだ夜が明ける前の、静かで冷たい時間。
空は少し紫がかってきている。
深夜にはないグラデーションが儚く、脆く見える。

夜明け前の時間が好きだ。
誰にも邪魔されない美しさが、僕の心を躍らせる。

夜明け前、この文字だけ見るとまだ夜である。
しかし夜でも朝でもない不思議な雰囲気を放っている。

風は冷たいが突き放すような感触ではない。
ただそっと、不器用ながらに寄り添うみたいで。
それが何とも心地がいい。

目の前の世界が春夏秋冬、四季折々の美しい景色に移り変わっても、夜明け前は変わることがない。

勿論、毎日少しずつグラデーションが変わったり、雲の量によっては空が灰色がかっている時もある。

それでも、夜明けを迎えるために必死に揺れ動いている様は、趣があって吸い込まれてしまう。


ずっと、この時間が続けば。
ずっと変わることなく、このままいられたら。

9/12/2023, 10:18:19 PM

Episode.25 本気の恋


本気の恋とは、本気とは、恋とは何なのか。

考えれば考えるほど分からなくなる。

だからいつも、言葉を簡単に考えることにした。
とは言っても適当にではなく、分かりやすく簡単にだ。

本気は全力、夢中になる。
恋は感情の揺れ、人などに夢中。

僕はこう考える。
本気にも恋にも " 夢中 " という単語が浮かんでいる。
つまり簡単に言えば、本気の恋とは、人などに対して夢中になるということなのだ。

本気でやれ、そう言われても基準が違えば話が変わってくる。
本気が分からなければ、状況を理解できない。

恋には悩みが付き物だ。
恋は盲目とも言うし、考えることが多くなってしまう。


パッとこの二単語を言われて、完璧に答えられる人は少ないはずだ。

完璧じゃなくても伝わる。
君たちが思うよりも軽く受け止めてもいいのではないだろうか。

9/11/2023, 1:55:24 PM

Episode.24 カレンダー


何気なくカレンダーを見る。
予定は何も入っていない。

何も入ってないが何もしていない訳では無い。
カレンダーに書くのが面倒なのだ。

書かなくたって忘れないし、スマホが知らせてくれる。

予定を入れるのも当日から3日前程だ。
理由は単純で、当日よりずっと前に決めると後で行く気が失せてしまうし、前日は準備が間に合わないからだ。

まあ、こんな面倒な性格のせいか友達は少ない。
いるだけ感謝せねばならないのだが…。

その唯一の友達である彼女とは気が合う。
俺に何かを求めてくる訳でもない。
会った時は喫茶店巡りをしたり、バーで話したりする。

ある日、仲の良いバーテンダーも含めこんな話をした。

「わたしさあ、最近カレンダー買ったんだよね〜。
 こんな時期に?って言われそうだから来年用の買った
 し、来年までは使わないけど」

「カレンダーか…あ、俺も毎年母親が送ってくれるや
 つ、一応置いてるよ」

「あら、2人ともカレンダー派になったの?
 あたしなんてスマホで済ませちゃってるわよ」

「なんでカレンダーなんて買ったんだ?」

「うーん…今まではさ、スマホで解決するしいいや!っ
 て思ってたんだけど…自分の手で予定書き入れるとワ
 クワクするの!より記憶にも残るって言うか…」

「…よく分からんな」

「あたしもカレンダー買っちゃおうかしら」

より記憶に残る、ワクワクするだんて俺にはよく分からなかった。

でも何となく、ただ気が向いたから3日後の予定をカレンダーに書き入れてみた。

「おー…?」

やっぱりよく分からなかった。

次の日、何となくカレンダーを見る。
そこには昨日書いた遊びの予定があった。

あと何日、誰とどこで遊ぶんだ。
そう自覚させられた。

その時初めてわかった、少しだけワクワクした。


デジタルじゃなくて、アナログでも良いことはあるんだな…

9/10/2023, 3:37:21 PM

Episode.23 喪失感


たった一瞬の夢だった。
あの日、あのまま死んでいれば______


僕の家庭は周りの家庭と比べたら厳しかったそうだ。
実際、僕も両親に対しての不満が無いわけじゃなかった。

高校生になった今でも門限は7時。
学校が終わって、自習室や図書館で自習をしていたらあっという間に7時前になってしまう。
友達は門限がもっと遅いため、僕だけが先に帰るのが嫌で遊ばなくなってしまった。

他にも束縛はされ続けていたが、その不満を直接ぶつけると暴力を振るわれる。
一度だけ、そういう経験がある。


" 次破ったら殺してやるからな "


大声で壁に押さえつけられて、何度か殴られながら言われたあの言葉は今でもトラウマで忘れられない。

きっとあの日からだ。
僕のギリギリで繋ぎ止めていた心が砕け散ったのは。

その後はAIのように言われたことを淡々とこなし、成績優秀でいい子で両親からも褒められるようになった。


でも我慢の限界が来た。
身体も精神もボロボロで疲れきっていた僕は、帰り道にある橋から飛び降りようとした。

「…は?おい、憐!待て!」

僕が身を乗り出した瞬間に叫び声が聞こえて、反射で体をビクッとさせた。
横を見ると同じクラスであり僕の好きな人がいた。

「あ、やと……な…で…なんで…」

僕が今まで生きてこれてたのは絢斗のお陰だ。
初めは少し話す程度だったが、放課後の自習室で隣に座ってからは親友のような関係になった。

僕が家庭の事を話しても傍にいてくれて、遊びや逃げることを強制させる訳でもない。
寄り添ってくれたその優しさに知らないうちに惚れ込んでいた。

去年の秋、フラれるのを前提で告白した。
気持ちを隠し続けるのが辛かった。

「…マジで?ほんとに俺のこと好きなの?」

「う…ん、すきです…」

「やべーにやける…よろしくお願いします。」

その日から、また僕の人生は変わろうとしていた。

付き合う前は話せなかったこと、出来なかったこと。
母親も門限までに帰ってくるならと、土曜日に出かけることを許してくれた。

でも、きっと僕が全て間違っていた。
連絡がすぐ返ってこないと不安で仕方なくて、一度問い詰めてしまったこともあった。

他人と距離近くならないで、何時までには帰ってきて。
まるで両親が僕にしていた束縛をそのまま絢斗にしていた。

「俺じゃ応えられる自信が無いんだ…別れよう。」

「…は、」

心にぽっかり穴が空いてしまった。
何も出来ない、何も考えられない。
僕のせいで、絢斗が、辛い思いをしちゃったんだ。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

いつかの本で読んだ気がする。

" 寒さしか知らない人間はそのまま凍えて死んでいく。
だが温かさを知ってしまった人間は、もう寒い環境へと
戻ることが出来ない。
その温かさも永遠と続くとは限らない。
温かさを知らずに死んでいた方が幸せな時だってある "

ああ、僕は温かさを知ってしまったんだ。
だからまた寒い環境に戻るのが怖くて、怖くて仕方がなくて堪らないんだ。
今度は寄り添ってくれる人もいない。


あの時死んでいた方がよかったのかもしれない。

もう何もかも考えられない。
脳内の機能が停止したかのように動かない。
虚無になることは許されない、あってはならないのに。

僕は二度目のきっかけで、自分の部屋で命を絶った。


「…れ、ん……?憐が…しんだっ…て…は……??」

9/9/2023, 2:23:31 PM

Episode.22 世界に一つだけ


わたしってなあに?

ママはね、世界で一人だけの大切な子だよっていうんだよ。
でもね、わたしにはわかんないの。

わたしにとって、ママは、せかいでいっちばんだいすきなの!
やさしいし、ほめてくれるし、たのしいんだよ!

世界に一つだけってなんだろう。
かんがえてもわかんないや、むずかしいなあ…


私ってなんなの?
ママは世界で一人だけの大切な娘って言うけど、なにが大切なわけ?

大切なのになんで面倒くさそうにするの?
はあウザ、世界で一人だけの大切な娘とかなんなのよ。

私には一生理解できない。


私ってなんだろう?
お母さんは世界でたった一人の愛おしい娘って言うけど、やっと分かった気がするよ。

私の子供が出来て初めてわかったの。
世界で一人だけの大切な子。

お母さん、楽しい時も辛い時も、ずっと傍で寄り添ってくれてありがとう。

今日は私の大切な、たった一人の息子と夫に
世界に一つだけの手編みマフラーをプレゼントします。

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