今日はなんとかムーンと言われる日らしい。
いつもならふーんと受け流すところだが
なんとなく寝れなくて外の空気を吸うかと
窓をガラリと開ければ満月が夜空を照らしていた。
「…見てもわかんねぇな」
普段から月を見る習慣なく
もちろんいつもと違う月だからと
わざわざ見るはずもなく
そもそもそれを知ったのも天文が好きな
友人から聞いたからだった。
当然違いなどわからない。
ただいつもよりなんとなく明るいか?
なんて思ってると手に持っていた携帯が
明るくなる。
見た?めっちゃ明るい月!
…明るい、まぁ明るいか。
言われてみればっつー感じか。
頬杖をベランダの手すりにつき、
フリックして返信する。
今見てる、まぁ確かにいつもより明るいかもな
そう送れば即座に既読。
そしてドヤァと言わんばかりのスタンプに
フッと笑みが溢れる。
「いつもと違うことしてみんのも悪かねぇか」
月明かりが心を晴らしていく。
暖かな光は太陽でもないのにぽかぽかして
なんとも変な感じ。
あぁ今日はいつもより寝れそうだ。
そう思うとそろそろ寝るわ、おやすみと相手に送るともう一度だけ空を見上げる。
そこには先ほどよりも一際輝いて見える月がいた。
お題【moonlight】
今日だけ、なんて聞こえの悪い言葉
言いたくないけれど
今日だけは許してほしい。
今日は貴方が産まれた日。
おめでたい日で
待ち望んでいた日なの。
長い1年だった。
お腹に灯ってから色々あって
それでも頑張った貴方と私に
エールを送りたいくらい。
不安になる毎日や
楽しみにする毎日
苦しい時期や
幸せな時期。
全部の思い出が宝物で
きっとこれからも宝物は
増えていく。
貴方が私の所に戻ってくる時
きっと笑顔で迎えるから。
だからお願い
今日だけは
泣かせてほしいの
精一杯の感謝と安堵を乗せて
1人涙を流させてください
「産まれてきてくれてありがとう」
お題【今日だけ許して】
街角の人知れず建つ小さなカフェに
今日も誰かが此処に来る。
カランカランと来店の音が鳴れば仕事が始まる。
いらっしゃいませ、笑顔で迎えれば沈んだように見えるお客様。
「…此処ってこのカフェで合ってますか」
写真を見せられ拝見すれば
確かに此処の店の外装に見覚えのあるメニュー。
探して来てくれたのだろう、あってますよ!と言えばホッと安堵していた。
その方はこの席と同じ席って空いてますかと言うので確認をし店内を見渡すとちょうど空いている。
その旨をお伝えすればそこでお願いしますとのことなのでご案内をした。
席に座るお客様はメニューを見始めたので
お辞儀をしてその場を去る。
どうにも最初の表情が気になるので仕事をしながら見ているとピンポンとその席から呼ばれた。
「お待たせしました、ご注文をお伺いします」
「…珈琲…とこの紅茶
あと写真のケーキを2つ」
飲み物もデザートも2つ。
その注文に一瞬黙り込み首を傾げたが畏まりましたと
厨房に入る。
飲み物を即座に作られたケーキを丁寧にお皿に盛ると
席へと運ぶとその方はスッと向かいの席に紅茶とケーキを置いた。まるで誰かとお茶をするかのように。
そこで思い出した、私はこの方を知っていると。
以前よく来ていた常連さんが同じ紅茶とケーキを頼み美味しそうに食べていて、談笑もした。
ある日携帯を見せられてこの人私の旦那なの、いつか連れて来たいわ、こんなに美味しいんだからと
そう言っていた。
「っあの!」
「…はい?」
思わず話しかけると怪訝な顔をされたが
気にせず続けた。
今どうしても言わないと。
「奥さまが、貴方と食べに来たいって
だからっ!」
「……ふふ、ありがとう。
そう、僕も彼女の最期の手紙を見てねこの店の住所と感想が書かれていたから」
その人は嬉しそうに笑顔を見せるがどこか寂しそうにしていてあぁ、あの素敵な奥さまはもう来ないのかと心が軋んだ。
「また来るよ、その時はこうして
2人分と…同じ日に来てもいいかな?」
「っ是非!」
此処は小さな街角のカフェ。
素敵な誰かが来てくれる
待ち合わせの場所。
お題【誰か】
ねぇねぇ来る?
来るよ来る
もう近い?
まだ遠いよ
密々と話し声がする。
おかしいな、幻聴だろうか。
ぱちりと目を覚ませば森の中。
「…何処ここ」
自分は部屋にいた筈なのにと
冷や汗がだらり。
辺りを見渡すも人気はないし木が立ち並ぶだけだ。
あ起きた?
起きた起きた
ねぇ逃げて
まだ大丈夫だろう
再び聞こえる声に目を凝らすと小さな小さな羽根が生えた不思議な生き物。
恐らくこれは妖精と言われるものじゃないだろうか。
「…逃げてって何が来るの?」
会話は出来るのかと投げ掛けた質問に
妖精達は周りを取り囲んでくる。
重くて大きな足音がするの
こわーいやつ
早く逃げないと
生きたいでしょ?
どうやら状況は危険らしくて立ち上がる。
生きたい、こんなところで死ねない。
とにかくこの場所を出なければ。
何か良くないものが近づいてるみたいだから。
こっちこっち
来てる来てる
早く早く
走って走って
距離的にはまだ遠いらしく自分には分からないが
彼らには聞こえるらしい。
言われるがまま導かれるままに
足を向け走っていく。
聞き取れぬ遠い足音に背を向けて。
お題【遠い足音】
青々と生い茂る木を自宅のベランダから
頬杖をつきながら見下ろす。
道路を挟んですぐ前にある公園では四季折々の木々が楽しめた。
春には桜、夏にはサルスベリ
秋には紅葉やイチョウ、冬には椿。
旅行をせずとも四季が楽しめちゃうこの場所を
存外私は気に入っている。
夏の暑さから一転し空気は肌寒くなり
そろそろ衣替えをする時期に差し掛かっていた。
周りを見てもちらほらと長袖を着ている人達が目に入る。ちょっと前まではみな半袖だったのに早いものである。
そしてあっという間に冬になり1年が終わるのだろう。
それはそうと、と意識を再び木に向けるも青い葉は変わらぬ姿を見せていて落胆する。
紅葉は湿度が適切でないと赤い葉を見せてくれないらしい。よく川辺に咲いてるものも見かけるだろうが、そこは適度に保たれているからあんなにも美しく真っ赤に染まるんだろう。
あぁ早くこの木も赤くなってくれないかな
そうすれば私のこの沈んだ気持ちを持ち上げてくれるだろうに。
ふと目の前をアキアカネが飛んでいく。
その事に目を瞬きさせるとフッと笑みがこぼれた。
「秋の訪れはそっちが先だったかぁ」
まるでこれからだよとでも言うかのように去っていったので肩の力が抜け心がフワッと軽くなる。
秋の訪れ
それは些細なところから
お題【秋の訪れ】