愛情は無いものだと思っていた
私には縁がないものだ、と。
私の親にはなかった
備わっていなかった
ただそれだけの事。
今まで憧れて生きてきたわけでもない
誰かに愛されたいとか、
誰かを愛したいとか
考えたことがなかった。
私とはかけ離れた欲求不満な誰かさんの贅沢品
その程度
見ても、食べても、聴いても、叩かれても、
何も感じなかった
世の中は理不尽だから
不公平だから
平等なんてものはない
何もかもそのせい
そう思い込んでいた
そう受け入れるしかなかった
今はただ
ただ、
目に映る手を引いた親子が
少しだけ
ほんの少しだけ
羨ましくなった
『愛情』
顔の火照りは人を幼くするようで
電話越しにする話は健全者には伝わらない
小春日和に上がる体温
素っ気ないふりした上辺だけの声
図星かな、なんて思いながらもう一度
声が聴きたかったを口実に
空元気で隠された本音
弱々しい強気な人は
今日はなんだか兎のよう
『微熱』
母の手編みのセーター
私は毎年訪れるこの季節の日常が大好きだった
母が編んだセーターを着て
お菓子を作りに台所へ
一息ついたら街へ行き
お気に入りを持っていく
博識で容姿端麗さながらに
街では有名な私の母
おまけの手は
いつも母に向いていた
知らない世界を知る母は
夕日が沈むと話をしてくれた
私はいつも最後まで聴けずに眠ってしまう
母のセーターは温かい
ほつれても、ほつれても、また編んでくれた
小さな村の休日のお話
『セーター』
紅葉の綺麗な道で
堕天使に会った
空から落ちてきたとか
天国とか地獄とか運命とか
そんな話を聞いていたら
上も下もよく分からなくて
高所恐怖症になった
羽のない人間が宙を舞うなんて
変な表現だ
なんて呟いたら
地面の中に引きずり込まれた
ずっと深く
落ちていく
このままどこまで行くのだろう。
浮遊感が不快
光も差し込まない
そんなところで夢から覚めて
ジェットコースターが嫌いになった
『落ちていく』
世界中のみんなの宝物を
美術館に展示したら
どんな表情をして帰っていくかな。
今日はどんな素敵な宝物があるだろう
自分の宝物は飾られているかなって
少しワクワクしながら今日を楽しめるかもしれない。
人の思い出を謗る人は立入禁止にしてさ、
鑑賞者を子どもと大人に分けたら
感想はどう変わるんだろう。
怒られている青年も
怒っている教師にも
功績を残した傑物にも
名のしれたヒーローも
悪とされるあいつにも
きっと宝物はあるだろう。
そんな夢が叶うなら
非難轟々の世の中にも
少しだけ平和な時間が訪れるだろう
『宝物』