6.
ある日、私は彼を殺した。
優しくて、かっこよくて、背が高くて、頭が良くて。
誰からも好かれる完璧なくらい素敵な彼を。
理科準備室で殺した。
その事件以来、生徒はもちろん、教師でさえ立ち入り禁止になった。
犯人は分からない。
証拠もない。
ただ、彼の、彼の身体から溢れ出た血の跡だけが、理科準備室に残っている。
それ以外は何も残っていない。
私のものだと確信がつくものは、何ひとつ残していない。
完全犯罪だ。
誰も知ろうとしない、探そうとしない、だから犯人も捕まらない。
私は彼を愛していた。
ただ、愛し方が違ったのか?
なぜ私は彼を殺さなければならなかったのか。
なぜ彼は私を求めたのか。
何度考えても理由が分からない。
目を瞑ると彼を殺した時の光景が瞼の裏に浮かぶ。
温かかった、彼の身体から溢れ出る血は。
美しかった。
最高だった、純粋で無垢な彼を自らの手で殺めることができようとは。
私は今でもあの感覚が忘れられない。
あの温かさを、あの最高の感覚を、もう一度。
5.
私の生きる意味。
ふと考えた時真っ先に思い浮かんだのは君だった。
「生きる意味がないなら俺のために生きてよ。」
初めて交わした言葉。
嬉しかった。
誰のために生きるか、なんのために生きるか。
人はそれぞれ想いがあり、信念があり、ありがたさを感じているから生きている。
私にはそれがない。
死にかけていた私に初めて生きる意味を教えてくれた彼。
今では生きる糧になり、かけがえのない存在になった。
彼がいなければ私は今ここにいない。
彼の誠実さが、彼の偉大さが、彼の優しさが、
全てが大好きで、愛おしくて。
彼は私を愛してくれる。
どんな私も全てを愛してくれる。
それだけで、この世界に生まれてよかったと、心から思えるようになった。
4.
目が覚めるまでに、私の人生全てがりセットされていたら。
目が覚めるまでに全ての記憶を無くせていたら。
どれだけ楽なことだろう。
どれだけ人生が楽しくなるだろう。
目が覚めても現実は現実。
何ひとつとして変わること無く進んでいる。
辛く、重たい人生が、目を覚ますと始まる。
このまま目を覚まさなかったらどうなるだろうか。
このまま夢の中に居続けるとどうなるだろうか。
幸せに、なれるのだろうか。
どうか、夢の中だけでもいいから、目が覚めるまでは、幸せな夢を見させてください。
そう、何度願っただろう。
3.
『もし明日晴れたら、晴天だったら君の元へ羽ばたこう。』
そう決めてから、何度『明日」が過ぎただろう。
元々晴れる日の少ない私の街は雨の日が毎日続いた。
晴れるのが年に数回しかない私の街で、私の生きがいだった親友は死んだ。
私を置いて自殺した。
その日は年に数回しか晴れのない中で1番の晴天だった。
私は親友がいなくなり、生きる意味のないただの「人』
の形をした生き物になっていた。
こんな世界で生きるくらいなら、私は親友ので幸せに生きたい。
ただ、そう思いたった日から晴れの日が無くなった。
親友が私に死ぬなと言っているかのようにタイミング
よく晴れの日は無くなった。
晴れの日がこないとわかっている今日も明日も、来年も、死ぬまで思い続けよう。
『もし明日晴れたら、晴天だったら君のことを忘れよう。』
2.
『お祭り」に行けることがみんなにとっての日常であるなら、私にとっては非日常だ。
体が弱い私は人の多いお祭りには行ったことがなかった。
クラスのみんながお祭りを楽しんでいる中、私は1人べットの上で本を読んでいた。
今年こそはお祭りに、そう何度も何度も祈ったけど、お祭りに行けることはなかった。
でも、今年の私の非日常はいつもとは違った。
いつもは見えないはずの窓から花火が見える。
部屋の扉がコンコンと2回鳴った。
「どうぞ。」
扉を開けたそばに1人の男の子が立っていた。
「行ったことないって言ってたから、食べれそうなの買ってきた。」
そういい机の上に屋台で売っているカステラを広げた。
初めて食べる屋台のカステラは、口の中でとろけるような甘さを出し消えた。
ずっと願っていた夢が今叶った、その瞬間視界は透明の水でいっぱいになり、ポロポロごぼれ落ちた。
私の横に座っている男の子が私の手をゆっくり握りこう言った。
「来年は絶対一緒に行こう。俺は、君のことが...」
私は最後の言葉を聞くことも無くその男の子に「ありがとう」とそっと微笑み静かに病室のベットで目を閉じた。