色っぽい唇の紅が大好きだったよ。
キスをすれば移るし、食事の後は必ずお手洗いに行くけど、そんな君が大好きだった。
何年経っても僕とのデートではその紅を塗る。
お決まりのレストランで、お決まりのコース料理。
それでも君は喜んでくれる。
デート前に鏡の前で変わらない紅を塗る君。そんな君の準備を待つのが楽しいよ。
結婚して何年経ったかな?50年以上は経ってるかな?今年は1人。思い出のレストランにきたよ。
君の紅が僕に移らないなんて、僕には想像できなかったのにな。
毎日、同じ夢を見る。
走っている誰かの後ろを追いかけようとする夢。
毎回追いつけずに目が覚める。
気づけば目からは涙が溢れ出していて、必死に何かを掴もうと虚空に手を伸ばしている。
「誰か」その「誰か」を見つけるために、断片的にしか再生されない夢を掴もうとしている。
待ってくれ。置いていかないでくれ。頼むから。
必死に記憶を巡っても出てくるのは後ろ姿の誰か。
なぁ。お前は一体誰なんだ。
誰かも分からないのに、なんでこんなに必死なんだ。
今日も、夢の断片でしかない「誰か」を必死に探している。
心にぽっかりと穴が空いた。
とはよく使われる表現で、寂しいとか、苦しいとか、そういうのじゃない。ただ、ナニカが足りない。そういう心を表した言葉だ。
一気に寒くなったこの季節は孤独感が増す。
冷える指先に、まだ薄暗い朝に、冷たいシーツを1人で濡らす夜に、人肌が一段と恋しくなる。
それでも今日が来たら生きなきゃいけないから、冷たい水で顔を洗って表情を固めた。
いつの間にか涙が溢れることがないように。
外に出て一歩、一歩と歩き出す。
風が心に空いた穴を吹き抜けていく。
私を孤独だと言うように。
夜の公園。君と2人でブランコに乗った。
君の涙を月明かりが照らす。
クラスで人気の男子。
スポーツ万能、成績優秀、誰もが羨む面の良さ、スタイルもモデル並みで面白くて優しい。
神が二物、三物を与えたような人物。そんな人に君は恋をした。
でも、君の恋は今日儚く散った。
涙を流す君をただ見つめる。
僕も泣きたいのにな。僕の方が君を好きなのに。
君がアイツを思って泣いてるのが悔しいんだ。
僕ならもっと。なんて、そんな事言っても君は僕を見てくれないんだもんね。
君を照らす月は、まるでスポットライトで、僕は君の人生の登場人物Cでしかないんだね。
体に傷を作った。お風呂場が赤く染まった。
大量の薬を飲んだ。トイレが吐瀉物で塗れた。
自分がこの世からいなくなるのが怖かった。
だから、自分の存在を確かめるように痛みや苦しみを求めた。
1人でいたくて、独りは痛くて。
寂しくて、誰かを求めて、1人を願って、気づかないで欲しくて、寄り添って欲しくて。
この世界は広くて寂しいから、
誰かを求めて1人を望む。
わがまで寂しがりやな私が、この世界で生きる術。
そんなものが、ありますか?