(あ……今、線ひかれたな)
柔らかな夕日の差し込む教室の中
さらりと笑って目を伏せる先生
少し手を伸ばせば触れられそうなくらい
近くにいるというのに
間に横たわるたった3歩程度の距離が
泣きたくなるくらいに遠かった
「お前なら大丈夫だよ」
頑張りな、とポンと頭に手を置かれる
「はい、先生」
滲む目元を誤魔化すように
にこりと微笑み返事をした
はい
はい、先生
いい子でいるから
絶対に間違えたりしないから
だからお願い
もう少しだけ
『距離』
/そばにいさせて
このまま全部全部放り出して
あの青に溶けてしまえたらいいのにね
『どこまでも続く青い空』
/軽く、軽く、何も残さないまま
好きです、大好きですと
叫んで、叫んで
届かなくて
もう声も、涙も枯れ果ててしまった
震える足を叱咤して
なんでもない昨日の続きの顔をして
今日も貴方の元へと駆けてゆく
なんでもない昨日の続き
今日も全力で愛を叫んで
明るく笑ってまた明日を言おう
大丈夫、大丈夫
いつも通り
これで最後と振り絞る声は
きっと掠れているけれど
『声が枯れるまで』
/今までごめんね
ーー俺と踊りませんか?
カッコつけて誘ってくれているが盆踊り会場である。
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平日の夕方、世のお子様の視線を捉えて離さない、某・愛と勇気だけが友達と謳う国民的ヒーローを模したお面をクイと少しだけ上げ、彼は私に向かって大仰に一礼してみせた。
へ?と呆気に取られていると、返事を返す前にツイと恭しく手を取られ輪の中へ誘われる。
浴衣の裾と、カラコロと涼しげな音を響かせる下駄を気にしつつ、手を引かれるまま彼の後ろに続き、踊りの輪へと加わることになってしまった。
やぐらからはお腹の底に響き轟く太鼓の音と、滑るように風に乗り吹き渡る笛の音色。
体に染みついた旋律。
自然と手が、足が、視線が音に乗る。
周りでは、幼子達が笑いながら見よう見まねで手足をばたつかせ、老人達が余裕といった表情で力強さと優美さを纏い、踊りの輪を粋に華やがせる。
連綿と続く変わらない祭りの夜。
目の前には私同様、やはり完璧に踊りこなせている昔馴染みの背中。
幼い頃から親しんだ私達の故郷の踊り。
二人とも地元を離れて久しいが、きっと私達は、一生この旋律を忘れることはできないんだろうと思った。
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目の前で真剣に踊っていた彼が、前触れなく顔だけこちらへ向けた。
彼の背中をぼんやりと見つめながら、そんなとりとめのない考えに耽っていた私は、その強い視線に不意を突かれて軽く目を見張る。
バチリ、と目が合って数秒、私はなんだか大声で笑い出したくなった。
お城じゃなくて地元のやぐらで、
管弦楽じゃなくてお腹に響く太鼓で、
手を引いてくれる王子様じゃなくてこっちみて爆笑してる某アンパンのお面かぶった幼馴染だけど。
全然まったくロマンチックじゃないけど。
なんか嬉しいなって思って。
『踊りませんか?』
/ロンド(盆踊り)
小さな前足で首元の掛け布団をかしかしと掻き
こちらを見つめてにゃあと鳴く
少しだけ隙間を開けてどうぞ?と待つと
するりと布団に潜り込んで
お腹のあたりでくるりとまるく収まる
ふわふわで温かな、小さな幸せのかたまり
寒くなってきたもんね
『秋』
/季節を告げる妖精さんだった…?