ーー俺と踊りませんか?
カッコつけて誘ってくれているが盆踊り会場である。
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平日の夕方、世のお子様の視線を捉えて離さない、某・愛と勇気だけが友達と謳う国民的ヒーローを模したお面をクイと少しだけ上げ、彼は私に向かって大仰に一礼してみせた。
へ?と呆気に取られていると、返事を返す前にツイと恭しく手を取られ輪の中へ誘われる。
浴衣の裾と、カラコロと涼しげな音を響かせる下駄を気にしつつ、手を引かれるまま彼の後ろに続き、踊りの輪へと加わることになってしまった。
やぐらからはお腹の底に響き轟く太鼓の音と、滑るように風に乗り吹き渡る笛の音色。
体に染みついた旋律。
自然と手が、足が、視線が音に乗る。
周りでは、幼子達が笑いながら見よう見まねで手足をばたつかせ、老人達が余裕といった表情で力強さと優美さを纏い、踊りの輪を粋に華やがせる。
連綿と続く変わらない祭りの夜。
目の前には私同様、やはり完璧に踊りこなせている昔馴染みの背中。
幼い頃から親しんだ私達の故郷の踊り。
二人とも地元を離れて久しいが、きっと私達は、一生この旋律を忘れることはできないんだろうと思った。
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目の前で真剣に踊っていた彼が、前触れなく顔だけこちらへ向けた。
彼の背中をぼんやりと見つめながら、そんなとりとめのない考えに耽っていた私は、その強い視線に不意を突かれて軽く目を見張る。
バチリ、と目が合って数秒、私はなんだか大声で笑い出したくなった。
お城じゃなくて地元のやぐらで、
管弦楽じゃなくてお腹に響く太鼓で、
手を引いてくれる王子様じゃなくてこっちみて爆笑してる某アンパンのお面かぶった幼馴染だけど。
全然まったくロマンチックじゃないけど。
なんか嬉しいなって思って。
『踊りませんか?』
/ロンド(盆踊り)
10/4/2023, 5:52:29 PM