願うことは苦手だ。
この苦手を因数分解すると、願うこと自体が苦手
というよりは、
「願ったのに叶えてくれなかった」と、
不幸の責任を願った先に負わせようとする
自分の他責気質が掘り起こされるのが、バツが悪くて
苦手だ。
「お金持ちになれますように」とずいぶん前に
願ったけれど、平凡にOLをしているし
「イケメンと結婚」を願っても好みの人と出会うのは
至難の業だし
「身の回りの人たちが健康に生きますように」
と毎年神様にお願いしたのに友人は亡くなった。
したのに、って誰かを責められるほど
自分が相手を見てきたかと言われると全く自信がない。
願いは叶えてもらうものではなく、
自分から叶えにいくものなのだ。
叶わなかったなら、それは
誰のせいでもないときだってあるのだから
自分のなかで気持ちに折り合いをつけて
うまく付き合っていくしかないものなのだ。
そう分かっていながらも責めてしまう
自分の心と向き合うことから逃げてしまう
自分のことが、苦手だ。
けれども願い事というのはしてしまうもので
例えば流星群のお知らせがあったときは夜空を見つめ
流れ星に願いを届けようとする。
叶わないと分かっていても縋るように願う。
「もう一度、会えますように」
今日の心模様。
起きてから仕事に行きたくなくて
なんとなく休みたかったけれど、仕事が終わった今、
わたしは気分がいい。
それはいつもより人と喋った後に反省することが少なかったからかもしれないし、好きなものを食べた後コンビニでイートインしてまた好きなものを食べているからかもしれない。
もしかしたら、会いたかった人に久しぶりに会えるからかもしれない。
現時点の気分に左右されている気がするけど
それも結果良ければ全て良しなので。
何はともあれ、今わたしの心は晴れている。
人生には分かれ道があると思う。
それは時には2本だったり、もっと多かったり、
進んでみたら行き止まりだったりもするのだろう。
僕が立たされていたのは、まさしく
人生を大きく左右する分かれ道の手前だったのだと
今となってはそう思う。
***
「最近裏でテロ集団が動いているらしい」
クラスで一番影響力のある、いわゆる"一軍"、
カースト上位のオオノがそう言った。
声が素で大きく、授業中ともなると一層目立ったため
教師に名指しされ、おどけながらオオノは謝る。
しかしそれで話すことをやめるわけではなく、
こそこそと、友人と話の続きをし、僕は興味本位で
耳を立てる。
どうやらビル破壊など物理的な破壊を目的とした
テロ集団ではなく、インターネットの隙間をかいくぐり悪さをする方の、テロ集団だそうだ。
さらに聞き耳を立てていると、そのテロ集団のうちの
1人が昨日捕まり、情報が漏れたことによって瞬く間にインターネット上でテロ集団の存在が知らされてしまったらしい。
どんな情報が漏れたのかまでは分からないにしろ、インターネットを使って悪さをする人たちが、インターネットによってその存在を最高速度で知らされてしまう羽目になるなんて、皮肉だな。
そう思っていると、話すうちに声が大きくなってしまったオオノがまた教師に叱られ、問題を解かされていた。
***
その夜、興味本位で僕は自宅のPCで例の件を調べた。
ネットの住民は仕事が早く、もうまとめサイトまで作られている。
サイトの項目は大きく4つに分かれていた。
今回のことの発端。テロ集団の規模。その集団が目的としていると思われること。また構成員の年齢層。
どうやら今回情報が漏れた原因は仲間割れらしい。
それも報酬額などではなく、目的に対する意見の不一致。
物理的なテロ集団においてはそういった思想の違いによる不一致は起こり得るのだろうが、
このようなインターネット犯罪においては皆、データを人質とした身代金目的だとばかり思っていたため、意外だと感じた。
読み進めると、集団の規模は小さく、
また目的は歪んだ世の中に罰を与えることらしい。
こういった犯罪集団の思考は自分たち=正義であり、それをかざせば何をしても許されるのだと思っている節があるように思う。
大層な目的だなと思いながらスクロールし、手を止めた。
この集団の構成員は、ほとんどが高校生らしい。
自分と変わらない年齢の子たちが世を罰しようと
集まって、計画を立てている。
そのことが僕にとっては驚くべきことだった。
***
サイトの内容はここで終わりだが、ページはまだあり
なんとなくスクロールすると、ポインターが変わり、
クリックできる位置があることに気付いた。
あまりにも怪しい匂いを醸し出しているそのボタンを
僕は押すか押さないか、迷っている。
ネットに関する知識は最低限のものだが、それでもこういったサイトのボタンを無闇に押さないことは今どき小学生にだって分かる。
分かっていても、もう止められなかった。
【それが、間違いだったとしても】
辺りはもう暗くなっていた。
現在の時刻は夜中の2時だから、一般的な感覚で言えば
それは当たり前のことである。
だが、夜の9時から布団に入り目を閉じていたミヤに言わせると、辺りは暗かった。
「変な時間に起きちゃった。」
家族はもう寝ているので声に出すわけでもなく
ミヤは心の中でそう呟く。
いや夜中なのだから、もう、というのはお門違いなのだろうか。
そんなハテナを1人で浮かべては自ら回答し、うやむやのまま思考を手放す。
経験上、眠れそうにないことは分かっていたため、
ミヤは今日あった出来事を意味もなく思い浮かべていた。
例えば、恋人に放たれた「別れよう」の一言だとか。
思い出すと、心臓のあたりが締め付けられた。
心が嫌な音をたてている。
目の辺りがじんわりと熱を帯び始めると、
どこからか音が聞こえた。
雫だ。
蛇口がきちんと締まってないんだ。
誰が雑に締めたのだと考えながら、台所へ向かい
蛇口を締める。
だが不思議なことに、水は滴り続けていた。
ピチャン、とまた音を立てながら一滴、落ちる。
排水溝に流れるほどにも満たない量の雫は
いつまでもシンクに留まったままだった。
【雫】