怪々夢

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10/3/2024, 4:05:27 AM


10/3 唐揚げ
 ドアが閉じる寸前に、何とか電車に滑り込む事ができた俺は、座席に腰を下ろす。
 今日はいつになく空いていて、目の前に座っているのは一人だけだった。大学生にしては幼く見えるその男の子は、買ったばかりの唐揚げをビニール袋に顔を突っ込んで食べている。油を垂らしながら、むしゃぶりついているが、一口食べる度に顔を捻っている。
 それはまずい時のジェスチャーなのか?それとも美味しいもの食べる時の癖なのか?俺と目が合うと気まずそうに、袋を閉じた。ただまだ未練があるのだろう。数秒置きに、ビニール袋をいじるし、割り箸で唐揚げの位置を直していた。

9/22/2024, 4:02:34 AM

 このバーは純粋無雑で黒をテーマにしていた。

「マスター、やってる?」
「ようこそ、ご来光頂きました。閉店の時間なのですが少しだけなら構いませんよ」
「よっ、磊落だね」
 そのお客は揺蕩いながら椅子に腰掛けた。
店のマスターはそれを見て、すでに聞こし召しているなと看取した。
 
その男は、「ビール、ビ、ビール」と注文を一再繰り返した。マスターは仕事に徹し、グラスにビールを鷹揚な動作で注いだ。

「マスター聞いてくれよ、俺の娘はさぁ、明眸だし、
頭もいいし、俺には勿体無いくらいの子供なんだよ。
だけど、頑固な所もあってさぁ、一旦こうと決めたら絶対に曲げないんだ。それは子供らしい、がんぜない行為じゃなくて、峻烈なまでの決意を持っていたんだ」男は涙ぐみながら話す。
 
男の背後には赤いリボンで髪を結んだ幼い女の子がいた。少女はその男の娘であった。そして椿事であるが少女は幽霊であった。少女は酔い潰れる男が心配で、成仏できないでいたのだ。男はそんな事も知らず、娘の話頭を続ける。

「体操の選手になるって言って、頑張ってたんだ。それが聞いた事もないような病気にかかって死んじゃった」と言いながら、懐から備忘録を取り出し、読み上げた。

「マスター、プロジェリアなんて病名知ってる?」
「存じ上げないです」
「もう生きてる意味なんてねぇんだ。暗闇をそぞろ歩いてるみたいなもんだ。マスター、強い酒をくれよ」
「それくらいにしといた方が、体に悪いですよ」
「おためごかしを言うんじゃねぇよ。俺みたいな客が面倒くさいんだろ?俺はさぁ、俺はさぁ」そう言ったまま男は慨嘆して泣き崩れてしまったので、マスターは接ぎ穂をなくした。
 
 少女は父に話し掛けたかったが、霊体には金科玉条のルールがあって、例え肉親でも話しかける事は許されていない。もしそんな事をしたら、死神による宰領によって、話しかけられた者の魂が取られる。
 少女は父に近づこうとし、霊力を強めてしまった。その力がテーブルに立て掛けてあったホウキを倒してしまう。
「ニャア」少女は思わず猫の声マネをしてしまい、そして後悔した。こんな所に猫がいるはずもない。
「何だ猫か」男は振り向きもせず、そう呟いた。
「ええ、赤いリボンをした可愛いらしい猫です。お客様にお酒をやめる様にと鳴いたのですよ」
 マスターは優しい目を少女に方に向けた。少女は驚いた表情を浮かべた後、マスターに一揖する。

 ここはバー「奇矯」不思議なことが起こる場所。

7/27/2024, 5:45:08 AM


7/27 俺の意思はどこに行った?

「2,000円のハンバーガーか、やめておくか」
 店の外のメニュー表を見ながら呟いていると、背後に迫る女子高生達。私は拒否権を失って、するすると店内へ。
「只今、ダブルチーズバーガーがお得です」女性スタッフの説明にそのまま注文をする。

 ダブルチーズバーガーは嫌いな玉ねぎが特大でダブルで入っていた。玉ねぎを飲み込む様にして口に入れる。ハンバーガーを味わっている余裕はない。口の周りをソースまみれにしながら、あっという間の完食。でも肉は美味しかったな。

 会計時に次回用のクーポンを貰いながらまた来ようかなと思う。

 俺の意思はどこに行った?

7/13/2024, 2:23:31 PM


7/13 祭り
今日は地元のお祭りの日だ。
俺は本屋で用事を済ませ、冷やかしで祭りに参加する。
祭りに冷やかしもクソもないが、その証拠に何も買わずに帰ってきた。
祭りの主役は光るおもちゃを振り回す子供達と、浴衣を着た女子だ。子供達はこの日ばかりは夜更かしを許され、女子は写真をSNSに上げる義務を果たせる。それ以外は只々長い行列を作るだけのエキストラだ。
しかし客の顔を見ると笑顔が見て取れる。何がそんなに楽しいのか?
トマトを投げ合う訳でもない、牛を追い回す訳でもない。ただ歩き回るだけ。しかし祭りには狂気が存在し、そのために人々を惹きつける。500円の焼きそばを買うために長蛇の列を作る、まさに狂気だ。焼そばを食べないと、祭りに参加したことを証明するスタンプは押してもらえないのか。
ふと思う。それを書き残すためだけに祭りに参加する俺こそ狂っているのか?
大通りの中央で和太鼓の演奏が行われている。これが俺の最終目的と決め、力強いバチ捌きに身を委ねる。
いつもは大通りの主役であるはずの自動車は締め出され、太鼓の演奏を楽しむ人の輪で埋め尽くされている。一際明るく輝くコンビニの前を沢山の人影が右往左往する。
さぁ、帰ろう。祭りは冷やかしでは楽しめない。

7/4/2024, 8:38:31 AM


7/4 デ・ケケム
町内の放送では熱中症対策のために外出を控えるよう警告が流れている。
バカヤロウ!そんな事で人生謳歌できるか。
Tシャツの上から更に1枚シャツを羽織って、12時前の強い日差しの中に繰り出す。

今日はデ・キリコ展を見に上野へ。
危ない。ホームページを見たら9日から16日まで休館するらしい。今日と言う日を選んで良かった。
さて、なぜデ・キリコ展かと言うと山田五郎のYouTubeチャンネルで紹介されていたから。すみません、デキリコさん知りませんでした。
同チャンネルでは国立西洋美術館の常設展も見ろとのことなので、今日はハシゴだ。

上野駅に着いたら駅構内にあるT'sたんたんさんで腹ごしらえ。ゆず野菜ラーメンを注文する。担々麺じゃないんかい!ですが、この暑さにはさっぱり塩味のゆず風味はちょうどいい。

デ・キリコやるやん、天才やん。
俺はデキリコの作品達を見ながら、ついついグッズを買うならどの作品がいいのかを選んでしまっていた。残念ながら俺が妄想していた彫刻のフィギュアや、デキリコがデザインしたバレエの衣装を模したTシャツは売ってなかった。主催側のさらなる努力に期待します。

作品を見る俺の前にオレンジ色の髪の女が立っていた。背中がぱっくりと空いたデザインの服を着ている。そしてぱっくりとあいて剥き出しになった肌の中央にハサミのタトゥーがしてあった。デキリコ展に相応しい神秘的な女であった。

国立西洋美術館。

美術館は1人で回る派の俺ですが、考える人の前で考えるポーズをして写真を撮ることに関しては羨ましいと思う。
常設展だけでも充分楽しめるボリュームがありました。
壁沿いにグルグルと作品を見ていくと迷子になって1度見た絵に遭遇する。
そして気をつけなければいけないのは作品だけでなく、有名建築家による建物自体も吟味しなければならないと言うこと。
今回はグッズは買うことは無いであろう私の関心ごとは、作品が松方コレクションかどうかと言うこと。展示品の中心は松方さん(どんな方かは存じ上げませんが)が所有していた作品と言うことで、こんなに沢山の美術品を持っていて、飾る所あったのかしらと心配になっちゃう。作品毎に松方か、not松方かをチェックして行く。

しかし美術館巡りは楽しい。脳に心地よい刺激がある。もっと若い頃からやっておけば良かったと思いつつ。今の自分が1番好きなので後悔はすまい。

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