怪々夢

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4/17/2024, 5:45:31 AM


4/17 映画鑑賞。
寝不足の朝。もしくは寝過ぎた昼。目を開けると軽い頭痛を感じた。初めてミニシアターに来た。つまりマニアックな映画を見に行った訳だ。しかしチケット売場では来る客来る客同じ映画のタイトルを告げている。有名人が初監督をしたと言う事で期待されているのだ。予告編でピアノ・レッスンが流れていた。流石はミニシアターだ。高校の頃に見て何このつまらん映画と結論付けたその映画を、今なら楽しめるだろうか?さぁ、本編が始まった。内容が入ってこない。故に寝る。おかげで頭痛を覚えた俺はこうして喫茶店で休んでいる。Lサイズのアイスティが半分以下に減ってしまった。これを飲み干す前に元気になっているのだろうか?

4/13/2024, 9:13:35 AM


4/13 ラーメン
近所にあるのに何故か入り辛い飲食店、そんなお店ってありませんか?美味いとも不味いとも評判がない。こっちはいつ潰れるかと心配するけど、いつまでも残っているお店。俺にとってはそれがラーメン◯◯◯だ。その昔、歩いて5分の位置に新しいラーメン屋さんが出来た。俺の住む街は寂れている。飲食店はできては消え、できては消えを繰り返した。だがラーメン◯◯◯は、しっかり街に溶け込んだ。1回くらいは行ってみるかと思いつつ、10数年間そのチャンスは訪れなかった。しかし、今日、等々そのチャンスが訪れたのだ。いつもは選択肢の最後の方にランキングしているラーメン◯◯◯だが、普段行っていないお店に行きたいと言う好奇心と兎に角腹が減ったから適当に済ませるかと言う打算の力の融合によってランキング1位に躍り出たのだ。少し緊張しながら店の前に自転車を停める。店内に入ると常連らしい客2人と、気弱そうなおじさんの店主がいた。テレビではメジャーリーグのドジャース対パドレス戦をやっている。カウンターは学校の机の様に落書きが彫られている。これどうやってやったの?店主の目の前だよね?メニューを見てラーメン◯◯◯の生存戦略を理解した。ラーメン500円。安い。俺は550円の味噌ラーメンを注文した。運ばれてきた味噌ラーメンは実にシンプル。メンマとコーンとチャーシューがまばらに盛ってある。そしてなんと言う正直な味。そうだ。500円のラーメンに隠し味なんか必要ない。とにかく口に放り込め。常連らしい客は相次いで帰って行った。店主と過ごす2人きりの時間。その時チャンスが訪れた。大谷翔平が打席に立ったのだ。ホームランを放とうものなら盛り上がる事間違いない。俺はラーメンを平らげ、大谷翔平の打席に集中した。大谷のバットがボールを捉えた。ホームラン。とはいかなかったがライト線に運ぶ2塁打を放った。ありがとう大谷、それで十分だ。俺は会計に向かうと店主に話しかけた。
「それにしてもよく打ちますねぇ。」
「あ、ああ、そうですね、チャンスですから良かったらゆっくり見て行って下さい。」
「いや、良いもの見せて貰ったんで大丈夫です。」
店主との束の間の交流。もう2度と来ることはないが。

3/19/2024, 10:47:34 AM

勿忘草(わすれなぐさ)

 語り部登場。

 それは償い 
 それは語り継がれる記憶
 それは新しい生き方

語り部 ここは動物自然保護区内にある勿忘草動物王国。小さな国ならスッポリ入る程の広大な草原に大小様々な動物が暮らす自然の楽園。所々に群生する勿忘草はこの国のシンボルとなっております。
動物王国に対立する二つの名家があり。肉食動物を代表するライオン家と、草食動物を代表するシマウマ家。ライオン家にはレオと言う一人の若者がおり、十六才になる美少年は立派なたてがみ、力強い爪、逞しい身体を持ち、ライオンだけでなく肉食動物全体から愛されていた。
シマウマ家にはサラレットと言う十四才の娘がおり、長く美しいたてがみ、大きな瞳は光輝き、声はヒバリに例えられる。草食動物全体から宝の様に扱われていた。この物語は二人の若者が真実の愛を求める所から始まるのであります。
                      (退場) 

 
第一場

 ライオン家の屋敷(幕前での芝居)

ライオネル レオ、どうした浮かない顔をして? 

レオ なんだライオネルか?放っておいてくれ、今の僕を慰める術はない。

ライオネル なんだ?恋煩いか?ライオン族一番の美男子を腑抜けにしたのはどこのご令嬢だい?

レオ 僕は胸を焦がす様な恋愛をしたことがない。それが悩みでね。

ライオネル なんだぁ?モテる男の悩みは複雑だなぁ。なぁ、水飲み場に行かないか?あそこなら色んな肉食動物がいる。お前の悩みを満たしてくれる女の子がいるかもしれないぞ。

レオ 友人の頼みだ。行くとしよう。しかし女性を知れば知るほど真実の愛は遠ざかる。運命の女神は当たりのないクジを回させるぼったくり屋に違いない。      (退場)

 シマウマの集落(幕前)

ウマーシオ どうしたサラレット?もうすぐ婚約だと言うのに浮かない顔をして?

サラレット お兄様、私、あの方との結婚なんてごめんです。

ウマーシオ ホース殿は立派な方じゃないか。

サラレット だって酷い馬面なんですもの。

ウマーシオ 仕方がないじゃないか、シマウマなんだから。

サラレット それに鼻息が荒いんですもの。顔に鼻息がかかったとき、身の毛がよだつ思いだったわ。

ウマーシオ 仕方がないじゃないか、シマウマなんだから。そうだ、この兄と水飲み場に行こう。色んな草食動物がいるし、鳥たちの合唱も聞けて楽しいぞ。

サラレット 行きましょう。あの方がいない所ならどこであっても、インドにあると言うシャングリラよりも素晴らしい所に違いないわ。               (退場)


第二場

 水飲み場
    (オアシスの上手側にライオネルとレオが板付き)

ライオネル 相変わらず水飲み場は賑やかだなぁ。おい、見ろよ、あそこにゾウ博士がいるぞ。ここの管理者のゾウ博士は水飲み場での争いを禁じ、禁を破った者は水飲み場どころか、勿忘草動物王国から追放されるらしいぞ。

レオ ゾウ博士は賢い方だ。安全に水を飲める環境を作ることが動物王国に住む全ての動物にとって有益だと言うことを理解されてるのさ。

ライオネル ふーん、そんなことよりさ、あそこの豹柄のメヒョウがこっちに流し目を送ってるのに気付いているか?お前はどっちの子が好みだ?俺は右側のお嬢さんがいいと思うんだけど。

レオ ライオネル、女の子を誘いたいなら行ってきたらいいよ。俺はここで待っているから。

ライオネル そうか?じゃあ、ちょっくら行ってくるな。
                       (退場)

レオ 全くライオネルの女好きは相変わらずだな。

 チーターのキヨコ登場。

キヨコ レオ様ではありませんか?私、チーター族のキヨコといいます。もしよろしければご一緒させて頂いても構いませんか?

レオ すみません。連れがいますので。

キヨコ では、その連れの方もご一緒すると言うのはいかがですか?

レオ キヨコさん、お誘いは嬉しいのですが、今日は日が悪いので、また改めてお誘い頂けませんか?

キヨコ 分かりました。ではいずれまた、必ずですよ。
                       (退場)

レオ やれやれ、目立ってしょうがないな。念の為に持ってきたヌーの被り物を取りに行ってくるか。    (退場)

 サラレットとウマーシオ下手側に登場。

ウマーシオ サラレット、ここで待っていなさい。私が水を汲んで来よう。ただし、肉食動物に見つからない様にヌーの被り物を身につけておくんだぞ。 

サラレット はいお兄様。食事をした後の牛の様にだらしなく横になっておきますわ。
                  (ウマーシオ退場)

 レオ登場。

レオ ヌーのお嬢さん、大丈夫ですか?そんな所で寝ていたら風邪をひきますよ。  

サラレット お気になさらないで、ヌーはヌーらしく怠惰に寝ているだけですから

レオ それは失礼致しました。てっきり月の女神が夜の世界に戻れず取り残され、太陽の王子の助けを待っているかのように思えたので。

サラレット あら?まるで自分が太陽の王子であるかのような仰りよう。確かにヌーにしては逞しい身体。さぞや沢山の乙女の心を、その炎で焚き付けて来たのでしょうね。だけど私の氷の心は太陽の火でも溶かすことはできなくてよ。

レオ 月の女神かと思ったら氷の女王でしたか?だけど太陽と月は決して交わることがない、しかし氷の女王ならば寄り添うことができる。お願いです、あなたの側に行く許可を頂けませんか?

サラレット いいでしょう。そのヌーの長い舌で私のひづめにキスをしなさい。

レオ あいにく私の舌は短いのですが、その短い舌もあなたの美しさを讃えるには差し支えありません。      
        (レオはサラレットのヒヅメを手に取る)

レオ その輝く瞳。まるで宝石を盗んできて埋め込んだかのよう。いや、北の夜空に一際強く輝く星。その北の明星があなたの美しさにほだされ、輝きの一部を分け与えたのかもしれない。そしてこのヒヅメのついた前足は水鳥の羽毛の様に軽く、柔らかく、その肌触りを知ったものは頬を寄せずにはいられるない。 (レオはサラレットに口付けをする。口付けは長い)

サラレット 随分と情熱的なキスをするのね?まさか、その情熱的なキスの力で私の氷の心を溶かそうとでもするつもり?

レオ お望みならば溶かして見せましょう。

サラレット せいぜい頑張ってみることね。あなたが骨抜きになって崩れ落ちる未来が見えるわ。
(レオとサラレットは口付けをするためにヌーの被り物を脱ぐ)

レオ 君はまさかサラレット?

サラレット あなたはまさかレオ?

 ウマーシオ登場。

ウマーシオ おいそこの肉食獣、サラレットから離れろ。
この卑しいケダモノめ、サラレットに何をした?

レオ 待ってくれウマーシオ、僕は君と争うつもりはない。誓ってサラレットを辱めるようなことはしていない。

ウマーシオ 気安く妹の名を呼ぶな!腰抜けめが!積年の恨み、今こそ晴らしてくれる。

サラレット 兄さんやめて、ここは水飲み場よ。

 ライオネル登場。

ライオネル レオ?どうした?そこにいるのか?やや、貴様はシマウマ家一番の暴れん坊ウマーシオ。我々ライオン家に喧嘩を売るとは、力はサイの様に強くてもおつむはダチョウの様に悪いらしい。お前の首をへし折って、鈴の様に小さな脳みそを楽器代わりに演奏してやろう。

ウマーシオ お前はライオネルか?レオの腰巾着。お前では俺には役不足。俺の相手になるのはレオだけだ。ただしお前が無謀にも、俺に挑むというなら止めはせぬ。お前の皮をひん剥いて我が家の敷物にしてやろう。

レオ やめてくれ、ライオネル。

サラレット やめて兄さん。

ゾウ博士 やめんか愚か者。

 ゾウ博士と従者二名登場。

ゾウ博士 ここを水飲み場だと知っての狼藉か?ことはお前たちの責任に留まらないぞ。おい、ライオン家とシマウマ家の当主を呼んでこい。         (従者達は退場)

 シシーセク、ゼブラル登場。

シシーセク ライオン家の当主、シシーセクでございます。

ゼブラル シマウマ家当主のゼブラルでございます。

ゾウ博士 お前たち、この度のライオネルとウマーシオが起こした騒ぎの責任をどう取るつもりか?この様な騒ぎが起こるのもお前たちが普段から歪み合っているからではないのか?

シシーセク この度の水飲み場での騒ぎの責任は全て私にございます。しかし一歩外に出れば、シマウマは所詮ライオンのエサ。黙って食べられていればいいものを、生意気に不平不満を漏らします。これでは仲良くしたくても仲良くしようがございません。

ゼブラル この度の水飲み場での騒ぎの責任は全て私にございます。しかし一歩外に出れば、シマウマは追われる物でライオンは追う物。我々シマウマがいなければ、ライオンなど飢えて直ぐにでも滅びの道を行くはず。言うなれば我々に生かされているも同然。我々を見る度に感謝の言葉を述べるのが筋なのに、あろうことか傲慢の態度を示します。これでは仲良くしたくても仲良くしようがありません。

ゾウ博士 私は動物王国最強のゾウ家の当主。同じ草を喰むシマウマをこの世から根絶やしにすることも可能だろう。子像を危険に晒すライオンにも同じことが言えよう。子像を守るためならばいつでも滅ぼす準備はできているぞ。

シシーセク どうかお気持ちを沈めてくだされ。長針と短針が協力して時を進めるようにシマウマ家と協力して動物王国の平和を守ります。

ゼブラル 体があっても心が無ければ動かないように、心があっても体がなければ思いを表す事はできない様に、心と体は常に同体。シマウマ家とライオン家も同体となって動物王国の平和を守ります。

ゾウ博士 今の言葉、しかと忘れるでないぞ。  (退場)

シシーセク レオ、お前はライオン家の次期当主、つまらない事に巻き込まれるでないぞ。(シシーセクとレオ退場)

ゼブラル サラレット、お前は婚約を控える身、つまらない事に巻き込まれるでないぞ。(ゼブラルとサラレット退場)  

第三場

 夜。シマウマ家の邸宅。バルコニーに立つサラレット。

サラレット ああ、憎たらしい、あのレオと言う男。忌むべきライオン家の分際で私を誘惑しようとするなんて、ちょっとばかり顔がいいからって許せない。身体付きも最高だったわね、声なんかハチミツかけたマシュマロより甘ったるくって、ああ、レオ様、私の運命の人、私を照らしだす太陽。早く迎えに来て、さもなくばペガサスの翼をむしり取って、私とあなたの間にある障害を全て飛び越え、抱きしめに行くわ。

 レオ登場。

レオ その声はサラレットかい?

サラレット その声はレオ様?どうしてここに?

レオ 君と言う月の光を辿っていたらこんな所まで来てしまったよ。僕は光に集まる哀れな虫。命の限り羽ばたいても月はまだ遠い。サラレットと言う月は手を伸ばせば届きそうなのに、種族の壁に阻まれて恐ろしいほど遠い。

サラレット あなたの牙がいけないの。魅力的な唇に隠されたその牙が、我々シマウマを怯えさせる。

レオ サラレットの求めならば私は牙を捨てよう。
                (レオは牙を捨て去る)

レオ さぁ、どうだい?これでもう怖くないだろ?

サラレット ダメよ、ダメ、まだ爪があるじゃない。その恐ろしい爪を私から遠ざけて。

レオ ほらこれでいいだろ?私の胸に飛び込んでおいで。
                  (レオは爪を外す)

     (サラレットはバルコニーから庭に降りてくる)

サラレット 私、この人と結婚するのね。でもこの蹄では結婚指輪をはめることもできない。

レオ だったら蹄を取り除けばいい。

              (サラレットは蹄を取る)

         (レオとサラレットは手を握り合う)

レオ 明日、夜が明けたらすぐにゾウ博士の所に行こう、そして永遠の婚約を誓おう。

サラレット 夜明けが待ち遠しいわ。夜泣きのフクロウは早く寝床に帰って、朝を知らせるキジバトがやってきやすいように。

レオ 夜の帷が開ける。そろそろ戻らないと。朝になったらゾウ博士の下へ待ち合わせだ、いいね?

サラレット もう行ってしまうの?いつまでもこうしていたい。眠りの神ヒュプノスよ、朝日に眠りの魔法をかけて下さい。太陽だってたまには寝坊したっていいでしょう?ほんの一時間でいいから。

レオ 夜が明けるのが遅れたら僕らの婚約もその分伸びる。

サラレット ああ、そうだわ。若い恋人達には、愛し合う時間は足りないのに、離れている時間は永遠のように感じる。時間を司る神が私たちに嫉妬して、いたずらしているのね。

レオ サラレット、僕の美しい妻、嫉妬しているのは美の女神ヴィーナスの方さ。美しい物を神が作りし造形などと賛美する場合があるが、神に嫉妬されるサラレットの美しさはいかようにして生まれたのか?最高の美とは神の力を逃れた所にあるのか。
 
サラレット レオはアポロンの化身。その美貌と詩で私を包み込む。結婚の誓いをせずとも私の全てはあなたの物。私達の婚約は決して皆から祝福されないかもしれない。天に住む神々だけが私達の味方。だから伝えましょう私達の思いを神々へ。

レオ 神々へ。        (レオとサラレット退場)

第四場

 水飲み場

                  (ゾウ博士がいる)
 
 レオとサラレットは手を繋いで登場。

ゾウ博士 こりゃ驚いた。ライオンとシマウマが手を取り合ってやってくる。こりゃ雨になるな。いや、雪か?

レオ ゾウ博士、今日はお願いがあってやって参りました。僕たちの結婚の承認になって下さい。

ゾウ博士 レオとサラレットが結婚?動物王国始まって以来の大事件だ。お前たち、種を超えての結婚にどれ程の困難が待っているのか理解しているのか?

レオ 分かっています。

ゾウ博士 ましてや、お前たちの家はお互い犬猿の仲。家族からは猛反対を受けるぞ、それも分かっているのか?

サラレット 分かっています。

ゾウ博士 うーむ。若者たちはいつの時代も無鉄砲で恐れを知らぬ、ましてや恋は盲目、そびえ立つ障害を甘いチョコレートの様に、二人の仲を引き裂こうとする物を、長年の親友の様に感じるもの。婚約を止めた所で、愛を燃え上がらせるだけ、いっそ認めてしまうのが吉か。

レオ では早速、私はサラレットを一生愛すると誓います。

サラレット 私はレオを一生愛すると誓います。

ゾウ博士 待て待て、ムードもへったくれもありゃしない。勿忘草の洞窟に行こう。先祖の眠るあの美しい遺跡ならお前たちの婚姻にぴったりだ。

レオ それは素晴らしいアイディアです。ゾウ博士様素敵な場所を選んでいただきありがとうございます。

サラレット そうと決まれば早く参りましょう。勿忘草のバージンロードを通って。
          (サラレットはゾウ博士と腕を組む)

ゾウ博士 おいおい、急かすな急かすな。本当に困った奴らじゃ。ワッハッハ。
          (ゾウ博士、レオ、サラレット退場)

 ライオネル登場。

ライオネル 忌々しいシマウマどもめ、根絶やしにしてやりたいが、ゾウ博士に誓った手前、それもできない。おや?今日は博士はいないのか?ゾウもシマウマこの世からいなくなればライオンの天下がやってくるのに、ままならないものだなぁ。

 ウマーシオ登場。

ウマーシオ おやおや、ライオネルさんじゃありませんか?
どうしました?お一人で?メス漁りが上手く行っていないんですか?いけませんね、ご主人のレオさんと一緒に行動しないと。腰巾着には腰巾着の習いと言うものがありますよ。

ライオネル 安っぽい挑発には乗らんぞウマーシオ。不戦の誓いを忘れたか?それとも俺が誓いを守って大人しくしていると油断しているのか?あいにくゾウ博士はいない。貴様を八つ裂きにしてドブ川に放り込むことだってできるんだ。

ウマーシオ お前こそいいのか?狩られる物の気持ちを味わう事になるぞ。積年の恨み、忘れろと言われて忘れられるものか!

  (ライオネルとウマーシオは激しい戦いを繰り広げる)

  (ウマーシオの前足がライオネルの腹に突き刺さり、突き刺さった蹄が体を貫通して血に染まっている)

ライオネル 見事だ、ウマーシオ。シマウマがライオンを倒すとはな。だが次はないぞ。レオがきっと仇を取ってくれる。                  (崩れ落ちる)

ウマーシオ さすが肉食獣、死に際にも誇りを忘れんか。ライオネルをやったら次はレオだ。手強いやつだ。だがここまで来たらやるしかない。俺はシマウマ誕生以来の英雄になるか、それとも禁を破った不届者として蔑まれるか、運命よ、どうか味方してくれ。挫けそうになる心を奮い立たせてくれ。                     (退場)

ライオネル 畜生、痛ぇよ。死にたくない。レオどこだ?仇を取ってくれ。お前ならできる。ドジで、短気で、間抜けの俺と親友になってくれてありがとう。お前はみんなの憧れで、それが俺には誇らしかった。死ぬ前にもう一度伝えたい。俺がどんなに感謝しているかを。

第五場

 勿忘草の洞窟

ゾウ博士 さぁ、若き恋人達よ、手を取り合って神々に結婚の誓いを行うのだ。自らの愛の深さを証明しなさい。

レオ この大地が裂けようとも、私、レオは、サラレットの手を離さないことを誓います。サラレットの前に壁が現れたら愛を剣にして戦い。サラレットに槍が降ってきたら愛を盾にして守ることを誓います。

サラレット 私、サラレットは呼吸をする度にレオを愛せる様に、心臓にレオの名を刻みます。朝起きてから陽が沈むまでレオを愛で満たし、愛で喉を潤し、愛の芽を出し、愛の花を咲かせ、愛の果実で飢えさせません。

ゾウ博士 神の代弁者として、二人の宣誓が誠の魂から発せられ、偽りのない口を用いて語られた物であると認めよう。
さぁ、二人とも婚礼は成された。これからはレオはサラレットの夫を名乗り、サラレットはレオの妻と名乗るがよい。

レオ・サラレット ありがとうございます。

ゾウ博士 しかし、これからどうするのだ?お前たちの結婚を発表したら大騒ぎになると思うが?

レオ 今、ライオンとシマウマは戦うことを禁じられてどちらも手を出すことができません。偽りの平和かも知れませんが、僕らの結婚が二つの種族に真実の平和をもたらす事が出来たらと思います。

ゾウ博士 いい志だ。私も協力させて貰うよ。

サラレット ありがとうございます。

 ウマーシオ登場。

ウマーシオ レオ、そこで何をしている?おやおや、これはビックリだ。キバはどうした?あの全ての動物を恐れさせ、狩られる側の草食動物さえも憧れたあの美しい牙は?さらには爪はどうしたのだ?あらゆる物を切断した、あの鋭利な爪は?ハッハッハ、これは笑いが止まらん、今なら貴様のことを簡単に倒せそうだ。

レオ 牙と爪は取ったんだ。草食動物と仲良くしたくて、これなら怖くないだろ?

ウマーシオ ハッハッハ、仲良くしたいだと?これだからお前らライオンの脳みそは小さいと言うのだ。やい、糞虫、石ころ、乞食野郎。お前が仲良くするのは、ウジの涌いた死体だ。俺が引き合わせてやる。

レオ 何という暴言の数々、貴様こそあの世に連れてってやろうかぁ、ぁぁぁ、と言うのは冗談で、俺が仲良くしたいのは、ウマーシオ、君だ。君は君に引き合わせてくれればそれでいい。

ウマーシオ これがライオン家の希望の星と言われたレオなのか?お前の父親シシーセクも今じゃ老いぼれだ。一族諸共この俺が滅ぼしてやる。

レオ 俺への侮辱までならまだしも、家族を愚弄することは許さんぞぉ、ぉぉぉ、と言うのは誤解で、君も家族みたいなもんだな?お兄様と呼んでもいいかい?
 
ウマーシオ 穢らわしい。お前に兄などと呼ばれたくはない。二度と口を聞けない様にしてやる。

サラレット やめてお兄様。

ウマーシオ サラレット、何故その様な所にいる?

サラレット 私はレオと結婚したの。

ウマーシオ お前まで気が触れたか?

ゾウ博士 サラレットの言葉は真実だ。私が保証しよう。それを聞いてどうする?ウマーシオ?

ウマーシオ ぶっ殺してやる。ライオネルの様に。

レオ 今なんと言った?

 ライオネルが這いつくばって登場。

ライオネル レオ、そこにいるか?俺はもう駄目だ。最後に一言伝えたい事があるんだ、こちらに来てくれるかい?

レオ ライオネル!    (ライオネルの下に駆け寄る)

ライオネル ゾウ博士の命令を無視した結果がこれだ。情けねぇよなシマウマにやられちまうなんて。俺はさ、落ちこぼれだし、狩りも下手だし、俺の唯一の取り柄はお前と仲良くできた事だと思ってんだ。レオ、一人であの世に行くのは寂しいよ。仇を取ってくれ、やっくれるか?レオ?
            
レオ ああ、約束する。

ライオネル ありがとう。          (絶命)

レオ ウマーシオ、ライオネルの仇を打たせてもらうぞ。

ウマーシオ 牙と爪のないお前にできるか?

レオ うおー。
 
 (レオはウマーシオに突進する。拳を出すウマーシオ、しかしレオの後ろ足がウマーシオの腹に先に届く)

ウマーシオ 後ろ足には爪が残っていたか。
                 (ウマーシオ倒れる)

サラレット 兄さん!

レオ ああ、俺はサラレットの兄弟になんてことをしてしまったんだ。

サラレット これが私たちに立ち塞がる種の壁。だけど二人なら乗り越えられるでしょ?

 シシーセクとゼブラル登場。

シシーセク なんの騒ぎだ?おや、ライオネルが倒れている。なんて事だ、ライオネルが死んでいる。誰だ?我が甥を殺したのは?

ゼブラル ウマーシオも倒れている。どうしてこんな事になった?我が愛しい息子に手をかけた者は誰だ?

ゾウ博士 ライオネルをウマーシオが殺し、ウマーシオをレオが殺した。

ゼブラル なんですと、それは本当ですか?

ゾウ博士 本当だ。先にライオネルがレオを挑発し、レオは友人を殺された復讐のためにウマーシオを殺した。

ゼブラル 例え事情があろうとも、約束を違えたのは事実、シシーセク殿、どの様にケジメをつけるつもりか?

サラレット お父様、シマウマ家はウマーシオを失い、ライオン家はライオネルを失った。お互い痛み分けで水に流せばいいではないですか?

ゼブラル サラレットは黙っていなさい。お前は兄を殺されても平気なのか?いったい誰に似たのか。さぁ、シシーセク殿、返答は如何に?

シシーセク レオよ、ウマーシオを殺したのは真実か?

レオ 誓って真実です。

シシーセク 友人の仇を討ったお前の行動、実に男気がある。百獣の王としての誇りを守ったな。だが、約束を反故にした以上、お前を罰せねば肉食動物を率いる者としての示しが付かない。レオ、お前は追放だ。

レオ 父上、今まで育てて頂きありがとうございました。恩を仇で返す様な真似をして申し訳ありません。くれぐれもお体にお気を付けて、母によろしくお伝えください。
                     (レオ退場)

シシーセク レオよ、我が宝。達者に生きろよ。
                  (シシーセク退場)

サラレット レオー、行かないで、レオー。

ゼブラル 敵の名を呼ぶとはなんたる痴れ者。自由に育て過ぎてしまったか。サラレット、ホース殿との結婚を命じる。そのつもりで支度しなさい。

サラレット いやよ、あんな馬面。

ゼブラル 言うことを聞きなさい。

サラレット 離して、私はレオの元に向かう。

ゼブラル さぁ、来なさい。花嫁衣装を見繕ってやる。
     (ゼブラルはサラレットの手を引っ張って退場)

ゾウ博士 私が課したルールのせいでこの様な悲劇が生まれてしまった。私は守らなくてはならない、愛し合う二人の若者を。                (ゾウ博士退場)

 語り部登場

サラレット レオー、置いてかないでー。

語り部 今の悲痛な叫びをお聞きになりましたか?しかし悲劇は終幕に向かってどんどん加速して行きます。この悲劇で、喜劇な物語。最後までお楽しみ頂きますよう。

第六場

 水飲み場 ゾウ博士がいる。
           
 サラレット登場。

サラレット 博士様、助けて下さい、お父様が、結婚の日取りを明後日と決めてしまいました。しかしホース様との結婚は神がお許しにならないでしょう。私には神に誓ったレオと言う人がいるのだから。

ゾウ博士 真実を話されたらどうかね?私が証人になるが。

サラレット ダメよダメ。今、お父様はウマーシオを殺された恨みでライオンのラの字を聞いただけで怒り狂う。私がレオと結ばれたことを知ったら何をするか分からないわ。

ゾウ博士 そうでしょうなぁ。

サラレット もうダメ。全てを投げ出してレオを追いかけるわ。もしくは自らの喉元にナイフを突き立て、若い命を儚く散らしやる。

ゾウ博士 今のサラレットならやりかねないな。しかし、本当に死をも恐れぬ覚悟があるのなら私に案が無いわけでは無いぞ。

サラレット 博士さま、レオと再び会えるなら、私どんなことでもできます。

ゾウ博士 それでは一度シマウマ家に戻り、条件付きで結婚の承諾をするのだ。その条件とは式の前日に勿忘草の洞窟で一泊すること。勿忘草の洞窟は、元来、身を清めるための聖地。度重なる不幸に蝕まれた体を、聖地の力で洗い流し、一から出直したいと要求するのだ。そうして勿忘草の洞窟に一泊することになったなら、石棺の中で眠るのだ。あの石棺には不思議な力があって、人を仮死状態にする。翌朝、仮死状態となったお前を見つけたゼブラルは悲しみに襲われる。そして傍に置かれた遺書を見つけて読み上げる。遺書にはこうある。お父様、先立つ不幸をお許し下さい。私はホース殿と結婚できない理由があるのです。何故なら三日前、私はレオと生涯夫婦であることを誓い合ったのです。お父様の希望に沿えなくて申し訳ございません。その怒りを私の死を以てお収め頂けたら嬉しいです。私はレオを命をかけて愛しています。レオのいない人生なんて死んだほうがまし、私たちは天国で幸せに暮らします。もしも叶うならお父様とシシーセク様がわだかまりを捨て、動物王国の未来のため、手を取り合って欲しいのです。

サラレット なんて美しい。なんて悲劇。若く美しい新妻が運命に翻弄されて命を絶つ。この話を聞いた者は、例え怒り狂う猛獣であっても、その身を震わせて頬を濡らすでしょう。博士様、そのシナリオ気に入りましたわ。

ゾウ博士 手順は覚えたな?レオに手紙を出すのも忘れるなよ。妻が自殺したと勘違いしたら大変だからな。

サラレット 任せて博士様。(退場)

ゾウ博士 もう行ってしまった。先代のゾウ博士達よ、若い二人の行く末を見守りたまえ。

第七幕 

 辺境の地

レオ 追放され、彷徨う内、この様な辺境の地に来てしまった。縁もゆかりも無いこの土地で、草食動物達は大人しく私に狩られてくれるだろうか?

      (影芝居によるハイエナ達のセリフ、レオは姿なき者に対して怯える)
ハイエナA あいつレオじゃないか?動物王国を追放されたと言う。

ハイエナB 本当だ。なんて見窄らしい姿だ。服もボロボロ、牙や爪も無くしちゃって、あれで本当にライオンか?

ハイエナA 今まで威張り散らして来たツケが回って来たんだ。おい、やっちまおうぜ。

ハイエナB やっちまおう。
      
       (ベールを巻いたチーター家のキヨコ登場)

キヨコ レオ様、こちらです。

レオ あなたは?キヨコさんですか?

キヨコ ここはチーター家の隠れ家の一つ。ここまで来ればもう安心。ゆっくりくつろいで下さい。

レオ まさかこんな所でキヨコさんに助けられるとは。

キヨコ レオ様が我が領地の近くに落ち延びたと言う噂を聞きつけて、駆け足でやって来ましたの。足には自信があるんです。

レオ なんとお礼を言ったらいいか。

キヨコ 礼など結構です。ただ水飲み場での約束を果たして頂けたら。

レオ キヨコさん、あの時の約束なのですが・・

キヨコ 分かっていますわ。意中の方がいらっしゃるのね。やつれた顔をしているのに、その目に宿る恋の炎は燃え上がっていらっしゃいますよ。

レオ キヨコさんには敵わないな。

キヨコ レオ様、もちろん私も他のメス同様、あなたをお慕いしておりました。でもそれだけじゃないんです。実はまだ私が幼少だった頃、ハイエナの群れに囲まれた事がありました。その時、助けに入って下さったのがレオさまだったのです。私はそれ以来、あなたに恩返しをしなければと思って生きてきました。

レオ あの時の子チーターはキヨコさんでしたか。

キヨコ レオ様だって、子ライオンでしたわ。でも小さいのに勇ましくて、神々しくて、その輝きはますます増すばかり。今回のことも訳があってのことだと分かっております。私は何があってもレオ様のことを信じておりますわ。

レオ ありがとうキヨコさん。僕は無二の親友を亡くしてしまった。でもまた親友を見つける事が出来たよ。

キヨコ レオ様と親友だなんて誇らしいですわ。さぁ、お疲れでしょう。布団を用意してあります。どうかお眠りになって。

レオ お言葉に甘えさせて貰うよ。流石の僕も疲れたよ。
                       (退場)

キヨコ 今、レオ様は頼れる人がいない。私がお守りしなくては。

 ダチョウのダーヨ登場。

ダーヨ ごめんくださいだーよ。こちらにレオ様がいると聞いたんですけーど、いらっしゃいますかだーよ?

キヨコ 何者です?ここはチーター家の屋敷ですよ。

ダーヨ ダーヨはダチョウのダーヨだよ。シマウマ家のサラレット様に頼まれた伝言があるんだーよ。

キヨコ シマウマ家?ライオン家とは仇敵じゃないの?その様な物が何様ですか?

ダーヨ サラレット様からの伝言だと伝えて貰えばきっと分かるだーよ。

キヨコ レオ様はお疲れで寝てらっしゃる。また日を改めなさい。

 レオ登場。

レオ キヨコさん、どうしました?

キヨコ レオ様にサラレットからの伝言を届けに来た者が。

レオ サラレットから?会おう。

キヨコ お会いになりますか?そこの者、入ってきなさい。

ダーヨ お初によ、お目に掛かりますだーよ。ダチョウのダーヨと言いますだーよ。レオ様に申しあげる事がありますだよ。サラレット様はホース卿との結婚を無理強いされたよ。サラレット様は思い悩んで、自殺を図る事にしたんだよ。確か伝言は、私は死ぬけど心は常にあなたと共にある。だった様な気がするだーよ。

レオ こうしてはいられない。急いで止めなければ。
                       (退場)

ダーヨ もう行ってしまったよ。伝言には続きがあったんだーよ。

キヨコ 大変じゃない。早く追いかけて続きを伝えてきなさい。

ダーヨ だけど、内容を忘れてしまったんだーよ。

キヨコ 馬鹿なダチョウね。何とか思い出せませんか?

ダーヨ 思い出せないよ。好物のほうれん草のソテーを食べれば思い出せるかもしれないよ。

キヨコ 図々しいダチョウね。ちょっと待ってなさい。
                       (退場)

ダーヨ ご迷惑をおかけするだーよ。

 キヨコはほうれん草のソテーを持って登場。

ダーヨ 美味そうな匂いがするだーよ。食べていいでしょ?

キヨコ さっさと食べて思い出しなさい。

ダーヨ いやぁ、美味しいだーよ。おっ、思い出したよ。ダーヨが頭が悪くて間違った事ばかり言うから、手紙を預かって来たんだーよ。

キヨコ さっさと手紙を渡しなさい。
  (キヨコはダーヨから手紙を受け取り内容を確認する)

キヨコ 全然話がちがうじゃない。ゼブラル卿とホース卿に結婚を諦めさせるため、サラレットが仮死状態になって死んだフリをする。サラレットが死んだと思ってゼブラル卿とホース卿が結婚を諦めた所で生き返るから、その時は私を連れて一緒に逃げて。

ダーヨ そうそう、そんな内容だったよう。

キヨコ 嫌な予感がするわ。レオ様が勘違いして早まった行動に出なければいいのだけど。

第八場  

 勿忘草の洞窟

 ゼブラル登場。

ゼブラル サラレット、いつまで寝ているんだ?迎えに来たぞ。サラレット?なんて事だ、氷の様に冷たい。あの太陽の様な笑顔を持っていた我が娘が。誰がサラレットの命を奪ったのだ?悪魔がその小さな命の蕾を摘み取ったのか?それとも天使が、その徳の高さ故に早めに天に導いてしまったのか?何故だ神よ、二人にあらん限りの才能を与え、天使の様な二人を作り上げたのに、なにゆえにそれを散らしてしまったのだ?酒だ、酒はどこだ?この悲しみに耐えられる強い酒を、この苦しさを紛らわせるくれる強い酒を。今すぐに持って来てくれ!                     (退場)

 レオ登場。

レオ サラレットどこだ?ああ、サラレット、まさか、本当に死んでしまったのか?何故死を選んだ?何故、俺を待てなかった?そして何故俺はサラレットを奪い去らなかった?あの時、父からの追放を言い渡された時、俺はただ一人絶望の淵に立っていると感じた。サラレットの事を考えていなかった。君を野蛮な辺境の地へ連れ出すことはできないと思っていた。俺の独りよがりが君を殺してしまったのだ。どんな障害があっても君を愛し続けると誓ったのに。勇気がなかった。意気地がなかった。だけどもう迷いはしない。サラレット、僕らはいついかなる時でも一緒だよ。最後に口付けを。
(レオはサラレットに口付けをする。遺書を見つける。)

レオ こんな所に手紙が。(遺書を読む)

レオ サラレット、君はこんなにも小さい体で、こんなにも愛に溢れていたんだね。自分の幸せよりも、僕や、動物王国の未来の事を考えていたんだね。僕もその思いに習おう。
      (レオ遺書を書く。そして足の爪を引き抜くと自分の胸に突き刺す。)

 レオ これで僕らは永遠に一緒だよ。誰も僕らの愛を妨げる者はいない。寿命さえも、病さえも僕らを阻むことはできない。
     (レオはサラレットに覆い被さる様にして死ぬ)

サラレット 重たーい。何が乗っかってるの?重いんだけど。レオ?レオなの?どうして何もおっしゃって下さらないの?どうしてこんなにも血を流しているの?私はあなた無しには生きていけないと言うのに。そうだわ、この石棺の中で永遠に共に過ごしましょう。私はまだ十四才、レオとの長く幸せな人生を送るはずだった。だけど今世での私の人生はここで終わり、天国に行ってレオと家庭を築きます。子供は五人は欲しいわ。私たちに似た美男美女。レオの分身である我が子を全身全霊で愛します。だけど、一番の愛はレオに捧げましょう。なんて言う幸せな人生。レオに出会う事ができた。そのおかげで来世まで続く真実の愛を育む事ができるんだわ。さようなら、お父様、さようなら動物王国の住人達。私は本当に幸せでした。
         (サラレットはレオと共に石棺に入る)
 
 ゾウ博士登場。

ゾウ博士 サラレット?うまくいったか?
             (石棺を覗き込むゾウ博士)

ゾウ博士 何故だ、何故ここにレオがいる。しかも二人とも永遠の眠りについてしまっているではないか。

 キヨコ登場

キヨコ ゾウ博士様、間に合いませんでしたか?

ゾウ博士 キヨコか?どうしてここに?

キヨコ 実は手違いでサラレットの手紙がレオ様の手に渡ることはなくて。

ゾウ博士 なんだと?ではレオは?サラレットが本当に死んだと勘違いして?幸せを届ける手紙は届かず、死を知らせる遺書に変わってしまった。    
                 (レオの遺書を読む)

ゾウ博士 何と言う神のイタズラ、何と言う悲劇。サラレットが死んだと勘違いしたレオは自らの命を断ち、それを知ったサラレットも追いかける様に自殺してしまった。十六才と十四才。まだ若い二人は運命に翻弄されながらも自分達の愛を貫いた。それに比べて私達大人の何とも情けない事よ、小っぽけなエゴの張り合い。それを止める者はなく、不毛な争いを繰り返すのみ、その負の連鎖を若い二人が体を張って止めようとした。誰か?誰かいないか?ゼブラルとシシーセクをここに連れて参れ。          (キヨコ退場)

 シシーセク登場、ゼブラルふらつきながら登場。

シシーセク お呼びでしょうか、ゾウ博士様。

ゾウ博士 気を確かになシシーセク、お前の息子レオはこの棺で眠っておる。
         (シシーセクは石棺のレオを見つける)

シシーセク ああ、レオ、なぜこんな事に?追放されていたレオがこんな所で息絶えている。しかもサラレットと一緒に。

ゾウ博士 理由ならこの遺書に書いてある。
            (シシーセクは遺書を受け取る)

ゾウ博士 ゼブラルもいつまでも酔っ払っていないで、娘の死の真相をしっかりと見つめ直せ。
            (ゼブラルにも遺書を受け取る)

ゾウ博士 レオとサラレットは結婚していたのだ。私がその証人だ。二人は自分達の行く末に困難が待ち構えているにも関わらず、信念に従う事にした。だが、二人を待ち構えていた運命はお前達も知っての通りだ。私は二人を守ると誓ったのに何も出来なかった。私は無力だ。二人が最後に願ったこと、お前達が手を取り合って動物王国の平和を守るという思いを叶えてやる力はない。(ゾウ博士跪く)だからこうして懇願させてくれ、どうか、どうか二人の願いを叶えてやってはくれんか?この通りだ。

シシーセク ゼブラル殿、今までの事を許してくれ、我々ライオン家はシマウマ家の繁栄と動物王国の平和のために全てを捧げるつもりだ。

ゼブラル シシーセク殿、我らはお互い大切な宝を失った。まして我らは親戚になったばかり、これからはお互いを知り、喜びも悲しみも共有して生きていきましょう。

ゾウ博士 ありがとう、本当にありがとう。レオとサラレットも喜んでいるだろう。もしよければ両家の繁栄に私も力添えをしても構わないか?

シシーセク こちらこそよろしくお願い致します。この悲劇は決して忘れてはならない語り継ぐべき物、私はレオとサラレットの銅像を平和の象徴たる水飲み場に建立しようと思います。

ゼブラル 素晴らしいアイディアです。私も一口乗りますぞ。ここは勿忘草の洞窟、銅像には勿忘草もあつらえましょう。
  
シシーセク レオ、それにサラレットさん、安らかに眠りたまえ。(シシーセクは勿忘草を摘んで石棺にお供えする)

ゼブラル サラレット、レオ殿、天国でも幸せにな。
           (ゼブラルは勿忘草をお供えする)

 キヨコとダーヨ登場。勿忘草を供える。すると、勿忘草から煙が立ち込めて辺りを包む。

シシーセク 何だこの煙は?勿忘草から出ているのか?

ゼブラル 意識が遠のく、この煙を吸ってはダメだ。
                  (ゼブラル倒れる)

キヨコ ゼブラル様、大丈夫ですか?ああ、ダメ、私もどうにかなっちゃう。          (キヨコ倒れる)
                 (シシーセク倒れる)

ダーヨ ダーヨ以外、みんな倒れてしまっただーよ、ダーヨは何故か平気だーよ。            (倒れる)

 煙が晴れる。皆ゆっくりと立ち上がる。

シシーセク 何もかも思い出した。私はライオンなどではなかった。人間だ。     (ライオンの仮面を外し、爪も取る)

ゼブラル 私も思い出した。私も人間だ。
          (シマウマの仮面を外し、蹄を取る)
           (キヨコもダーヨも外す)

ダーヨ 驚いた、私が人間だったとは、馬鹿なダチョウじゃなかったんだな。

キヨコ 私達人間は環境破壊を繰り返し、あまつさえ核兵器を使用し、地上の生物を全て滅ぼしてしまった。残った人類はことの重大性に気付き、滅ぼしてしまった動物として生きることで償いとした。

ダーヨ 人として生きることは滅びの道を行くということ、だから動物の生き方に学ぶ事にしたのか?それとも孤独さ故かな?

シシーセク 我々はまだ人として生きて行ける程、罪を許されてはいない様に思う。ライオンがシマウマと仲良くする事は辞めておこう思う。ライオンはライオンらしく、シマウマはシマウマらしく生きていこう。

ゼブラル 了解した。今日のことは忘れてしまおう。自然の摂理に従うのが野生動物の生き方だな。
      (シシーセク達は再び動物の姿に戻り、退場)

ゾウ博士 やはり私の代でも人間の罪は許されなかったか。
レオにサラレット、お前達はそのまま眠りなさい。いつか人が犯した罪が許される時、お前達は人としてやり直せる。それまでは私が開発した冷凍カプセルの中で冷凍保存しておくとしよう。最後の最後で運が良かったな。冷凍カプセルの中で死を迎えるとは。その中では決して死は終わりではない。復活の時を待つのだ。私はもう疲れた。私の代はここまでとして、次のクローンにゾウ博士を任せるとしよう。





















2/28/2024, 3:29:13 AM

現実逃避 

「まさかお前が最初に卒業することになるとはなぁ。」
「いいじゃねぇかよ。何が不満なんだよ?」
「嬉しいんだよ、1番の問題児が立派になってさ。」

今日はイカリの卒業式。みんなでイカリとの思い出を振り返っているのだ。イカリはこの世界で初めての卒業者になる。
集まったのはネタミ、コイ、オモイヤリ、プライド、そしてイカリを合わせた5人だった。

「瞳ちゃんは繊細で気が小さい。なのにイカリが最初に卒業するなんて私のプライドはズタズタだよぉ。」
「バカ言うな。瞳ちゃんが怒りの感情を取り戻せば自ずとプライドもついてくるさ。周りの人間に遠慮せずに感情を出せると言うことがどんなに大事なことか。」
「そしたら私もコイできるかな?」
「できるさ、俺みたいに勇ましい男を好きになるよ。」

瞳ちゃんは両親が離婚して以来、情緒が不安定になり、何か嫌なことがある度にその感情を封じ込め新しい人格を作って行った。現実逃避だ。だけど瞳ちゃんは偉かった。自分の問題に立ち向かい怒りの感情を取り戻そうとしているのだ。
だけど瞳ちゃんの成長は私達の誰かがこの世界から消えることを意味している。

「サヨナラは言わないよ。次に卒業するのは私だからね。本当はイカリなんかより先に私が卒業するべきなんだ。」
「その通りだよ、人間にはネタミの感情も必要なんだ。あっちの世界で待ってるからな。」
「瞳ちゃんが周囲のプレッシャーに負けて、怒りの感情を出せない時、イカリが助けてやってくれよ。」
「分かってるよ。じゃあなオモイヤリ、それに皆んなもさようなら。もう行かないと。」
「イカリ、さようなら。」

                    終わり


という訳で、書く習慣での毎日投稿は今日で一区切りを付けたいと思います。今後は小説を書く勉強をしたり、長編に取り掛かったりしたいと思っています。
後は過去作を加筆修正とかですかね。過去作はXにも投稿してますのでよろしくどうぞ。

それではさようなら。

2/27/2024, 10:07:59 AM

君は今

第一章 あんた

「あんた、俺のことを一度でもいいから愛してくれたことがあったのか?」

俺は生まれて初めて母のことをあんたと呼んだ。
俺がこの世に生を受けると、程なくして父親は女を作って行方をくらましたらしい。母は仕事や家事に忙しく、俺のことに構っている余裕はなかった。家にいる母はため息ばかり、あれで接客が出来るのかなと子供ながらに思ったものだ。

そんな母に新しい男ができると、俺は疎まれ出した。
「あんたさえ生まれてこなければねぇ」などと、俺に聞こえるように独り言を言うのだ。そして男になけなしの生活費を持ち逃げされた時、母の気は触れた。
母は強引に睡眠薬を俺の口に押し込もうとしたので払い除けると、俺は冒頭の台詞を言った。

「タクミお願い。私と一緒にあの世に行ってよ!」

そう叫びながら、母は包丁を俺の横腹に突き刺した。
俺は横腹に包丁をぶら下げたまま、母の首を絞めた。

「自分一人で死ぬのが怖いからって俺を巻き添えにすんじゃねぇよ、いいか?何度生まれ変わってもあんたのことをこうやって殺してやる。殺してやるからな。」

第二章 貴様

私は、ユーバンクス王国、紫騎士団の団長、オイラー・パルコラム。我が軍団はヒーガント国との戦も優位に進め、ブルーノ砦も簡単に陥落させられるだろうと思われていた。
しかし、青い甲冑に身を包んだ一騎の兵士に手こずり、損害を拡大させていた。私は戦況を打開すべく現地に赴いた。

「あれが青の騎士か?遠目に見ても手練だと分かる。」

馬を操る見事な手綱捌き、相手の力を利用して反撃する受けの剣は、初撃の強さを拠り所とする我が紫騎士団との相性が悪い。

「我こそは、紫騎士団団長オイラー・パルコラム。貴殿との一騎打ちを所望する。」

「我が名は、サイファ・ブルーノス。その申し出を受けよう。」

私は、青の騎士の銅を目掛けて剣で薙ぎ払った。
青の騎士は背中を逸らせて距離を取りつつ、そのままの勢いでヒラリと着地した。私は剣を振り下ろしたが、軽々と躱すと馬の足元に潜り混んで死角から突きを繰り出してきた。
私はもんどり打って落馬すると、素早く体勢を立て直し、相手の突きに備えた。

ヒュン。

風を切って突きが飛んでくる。一番装甲の厚い胸で攻撃を受け止めると牽制のためにコンパクトに剣を振るった。
そこからは、お互いに必殺の一撃を加えるための先の取り合いが続いた。
僅かに軌道を変えた私の剣が青の騎士の兜を掠めた。
金属の衝突音が響いて兜の下の顔が顕になる。

「貴様、女だったのか?」

そして蘇る前世からの因縁。

「貴様の様な女には子を成すことなど未分不相応だな。そうやって剣を振るっているのがお似合いだよ。」

青の騎士は最速の突きを繰り出して来た。見事に甲冑の継ぎ目に突き刺さる。私はそれに構わず前に出た。ズブズブと剣が肉体を貫通していく、と同時に青騎士の首を刎ねる事に成功していた。首は五メートル程宙を舞い、コロコロと転がってこちら向きに止まった。見開いた目はこちらを睨んでいる様だった。

「貴様とは今世でも相打ちだったか、決着は来世で着けようぞ。」

第三章 あなた

あなたは僕の太陽です。その歌声、その踊り、その見た目、全てが僕の心を明るく照らしてくれます。あなたがまだ誰にも注目されていない蕾だった頃から、トップアイドルの仲間入りを果たした今に至るまで、僕は一貫して全てを捧げて来ました。
だからこの前の握手会、あなたの一言にはビックリしました。

「お前、気持ち悪いんだよ、近づかないで。」

最初何を言われたのか分からなかった。でも冷静になるに連れあなたの口から出たのは僕への悪態なのだと実感できた。
あの時あなたは前世の記憶を取り戻していたんだね。
僕らはかつて親子だったんだ。あなたは僕の脇腹を刺し、僕はあなたの首を絞める。僕はまだあなたを愛している。だけど殺したい程の憎悪が湧き上がって来ているのも事実だった。

僕はSNSにあなたの真実をぶちまける事にした。
あなたの人生を見守って来たのだ。ストーカー紛いのこともした。あなたの男性関係、裏垢での発言、あることあること全てだ。噂はあっという間に広がり芸能活動が出来なくなりましたね?あなたが誹謗中傷を気に病んで自殺をしたと聞いた時、今世ではついに勝利した事を知った。僕はこの騒動の張本人である事を告白し収監されることとなった。

私は単調な囚人生活を送っていたが、珍しく面会人が現れた。

「あなたは?」

「驚いたか?私が自殺する様なタマだと思ったか?芝居を打ったんだよ。お前を牢獄に閉じ込めるためにね。殺せないのは残念だが、今世では私の勝利かな?」

僕は表情を変えなかった。こうなる事が分かっていたから。僕は看守にあなたの秘密を話していた。ああ、その看守はあなたの熱烈な大ファンでね、僕の話を全く信用しなかったんだけど、もしも話が本当ならぶっ殺してやるって言ってたね。ほらほら、君の首を絞めるのに全く躊躇してないよ。
僕にはあなたの首を絞めるなんて事はできないからね。
ふふふ、怒りが収まらずにあなたの次は僕の首を絞めてるよ。今世でも引き分けだね。

第四章 お前

「お前、整形しただろ?なんで余計な事をしたんだ?」

「あら、他のお客さんには評判いいのよ、可愛くなったって。」

「前の方が、母さんに似てたんだよ。」

「あら?お客さんマザコンでしたっけ?」

「今の母さんじゃないよ。前世の母さん。」

そう言うと私はホステスの腹をナイフで刺した。

「母さん、今世には転生できなかったんだね?だから母さんに似た女を殺す事にしたよ。」

第五章 君

君は高校時代みんなの憧れの的だった。だから僕の告白にOKをくれた時、僕は天登った様な気分だった。

そして僕らの交際期間も五年を超えた。そろそろ結婚を意識した時、前世の記憶が蘇ってしまった。

君は今はまだ気付いていないだろう。僕らが何世紀にも渡って殺し合いをして来た事を。あんた、貴様、あなた、君、呼び方は変わっても必ず殺し合いを繰り返して来た。
きっと君も突然理由をつけて殺意を覚えるのだ。

それまで今を楽しもう。僕らはまだ愛し合っているのだから。

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