春小豆

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1/22/2023, 10:22:01 AM


10年振りに故郷に帰ってきた。
家族と、近所の昔馴染みたちと
楽しく過ごし、日も暮れてそろそろ帰ろうとした時のこと。

「そういや、お前の好きだった
たい焼き屋潰れたんだ」

な、なんだって!?
正直何よりも楽しみにしていたのは故郷の
たい焼き。

1年前に店主が高齢になりもう店じまいを
してしまったそうだ。
あと1年早く戻ってくれば…

仕方がないと、帰路につくため
電車に乗った。
母ちゃんに電車の運行も減ったから時間には気をつけて帰るんだよと
言われた。この街もどんどん衰退して
いくんだな…なんて寂しさを覚えた。

出発した電車は、がんばれよー
なんて言ってるみたいに揺さぶってくる。
うん、落ち込んでる場合じゃない。

その時だった、
目の前が急に明るく光りだす。
あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑る。
光が収まり目を開けた。
事故かなにかか…そう思ったが
様子はなにも変わらなかった。

「ご乗車ありがとうございます
こちらは終点平成元年行電車。
次は令和4年、令和4年でございます」

耳を疑った。そんな電車があるか。
車内の路線図を確認すると
確かに、今聞いた内容の通りだった。夢…?たい焼き屋のショックでとんでもない夢を
見たか?

そんなこんな思考をめぐらせていると、
令和4年駅に到着した。
1年前だ、今ならたい焼き屋が
あるかもしれない!とっさに電車を降り
たい焼き屋に走る。


あった…!

昔から大好きだったたい焼き屋が
そこにはまだあった。

あたりまえのようにあったそのお店をなくしてから有り難さに気づくなんて…。
店主には不思議な顔をされたが泣きながらたい焼きを買った。
いつもありがとう、ここのたい焼きが大好きなんです…とお礼を言って。
店主は早めに食べてくれよとだけ言っていたっけ、高ぶる気持ちを抑えられずすぐに店を出てしまった。


嬉しさを抑えられずスキップしながら、
駅に向かい電車に乗る。
家に帰ったら大事に大事に食べよう。


家に帰れたんだ、これは夢じゃない。
しかも、時も戻っている。
そして手の中には大好きなたい焼き!
これが最後かもしれない!

ありがたく食べよう。


ひとくち目、
あまりにも嫌な味が口に広がる。


“1年前”に買ったたい焼きは、

腐っていた。


__タイムマシーン

1/21/2023, 11:24:27 AM


時計の針は午前2時をさしていた。

やっと終わったな…
明日までの締切をなんとか
終わらせたところだ。

これから寝ても数時間しか
眠れないし…
もうダメな日かな…

街灯に照らされた窓を見て
ハッとする。
そういえば、洗濯物を入れてなかった!

本当に今日はダメな日だ…!
洗濯物を急いで取り込みに行く。

あ……

まっしろな息と共に零れた声。

夜空に星が流れた。

一瞬だったけれどたしかに見えた流れ星。
洗濯物を抱え寒さを忘れて空を見た。

ひとつ、ふたつ…みっつと
流れ星をとらえた。

こんな時間まで頑張らなければ、
洗濯物を取り込み忘れなければ
この流れ星を見ることは
なかったかもしれない。

そう思うときっとこの夜は

__特別な夜

1/20/2023, 2:54:19 PM


人魚姫は広い海の泡に
なってしまったけれど

きっと愛する王子様を生かして
海の泡になった慈悲深い人魚姫は
海の底でひとりのあなたにも
陽の光を届けてくれるように
微笑んでくれるでしょう


__海の底

1/19/2023, 3:59:58 PM


だいすきな君とのデートは
何度目だって心がおどる。

だから、ひつじたちを数える
時間なのに、ベッドの上では
ファッションショーが開催中。

悩ましいけどこれで決まり!
君の好きな色…だと思うワンピース。
だいすきな君の前では
世界一カワイイ私でありたいから。

さぁ、ひつじを数えよう。

…とはいえ!遅刻しそうなのは
ちょっと違う!!
ひつじたちもそりゃそうだって
笑ってるかな。

待ち合わせ場所に小走りで向かう。
だいすきな君のもとへ。

「走ったら危ないよ」

君はわたしを見つけるなり優しくそういうけれど、しかたないじゃん、
だってこの気持ちでいっぱいだから


__君に会いたくて

1/18/2023, 3:50:52 PM

「片思い日記」
と、ピンクの文字で書かれたノート。

それはわたしがおさげとリボンを
丁寧に結ってた年頃。
ひょんなことから
クラスメイトに恋をし、
始まった日記だ。

毎日、毎日、彼のことを想って書いた日記。

今日は、おはようを言って貰えた!
さいこーについてる日!
なんて些細なことでも
大喜びをしていたわたし。
思い返せばとても幸せだったと思う。


しかし、ある日からその日記を
開くことはなくなった。

彼が遠くに引っ越すことになったから。
わたしは日記とともに気持ちを
閉じこめてしまったんだと思う。
だれにも見せることなく。

いつの日か、その日記が開けたなら…
と心のどこかで
ぼんやり日記のつづきの夢を見る。


__閉ざされた日記

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