10年振りに故郷に帰ってきた。
家族と、近所の昔馴染みたちと
楽しく過ごし、日も暮れてそろそろ帰ろうとした時のこと。
「そういや、お前の好きだった
たい焼き屋潰れたんだ」
な、なんだって!?
正直何よりも楽しみにしていたのは故郷の
たい焼き。
1年前に店主が高齢になりもう店じまいを
してしまったそうだ。
あと1年早く戻ってくれば…
仕方がないと、帰路につくため
電車に乗った。
母ちゃんに電車の運行も減ったから時間には気をつけて帰るんだよと
言われた。この街もどんどん衰退して
いくんだな…なんて寂しさを覚えた。
出発した電車は、がんばれよー
なんて言ってるみたいに揺さぶってくる。
うん、落ち込んでる場合じゃない。
その時だった、
目の前が急に明るく光りだす。
あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑る。
光が収まり目を開けた。
事故かなにかか…そう思ったが
様子はなにも変わらなかった。
「ご乗車ありがとうございます
こちらは終点平成元年行電車。
次は令和4年、令和4年でございます」
耳を疑った。そんな電車があるか。
車内の路線図を確認すると
確かに、今聞いた内容の通りだった。夢…?たい焼き屋のショックでとんでもない夢を
見たか?
そんなこんな思考をめぐらせていると、
令和4年駅に到着した。
1年前だ、今ならたい焼き屋が
あるかもしれない!とっさに電車を降り
たい焼き屋に走る。
あった…!
昔から大好きだったたい焼き屋が
そこにはまだあった。
あたりまえのようにあったそのお店をなくしてから有り難さに気づくなんて…。
店主には不思議な顔をされたが泣きながらたい焼きを買った。
いつもありがとう、ここのたい焼きが大好きなんです…とお礼を言って。
店主は早めに食べてくれよとだけ言っていたっけ、高ぶる気持ちを抑えられずすぐに店を出てしまった。
嬉しさを抑えられずスキップしながら、
駅に向かい電車に乗る。
家に帰ったら大事に大事に食べよう。
家に帰れたんだ、これは夢じゃない。
しかも、時も戻っている。
そして手の中には大好きなたい焼き!
これが最後かもしれない!
ありがたく食べよう。
ひとくち目、
あまりにも嫌な味が口に広がる。
“1年前”に買ったたい焼きは、
腐っていた。
__タイムマシーン
1/22/2023, 10:22:01 AM