勿忘草
好きな人が出来たのに声を掛けることすら出来ない私は、今日も同じクラスの彼を目で追い、放課後になると外でサッカーの練習に励む彼をフェンス越しからではなく、三階の教室の窓から眺めるのが日課となっていた。
私はと言うと、毎日ずっと暇な訳ではく、一応茶道部兼生け花の部活に入部しているので、月に数回は活動があって彼を見つめることが出来無くなる。
「あのさ、|可憐《かれん》は可愛いんだし、そろそろ|幸人《ゆきと》に告白しちゃえばイイのに」
「そ、それは無理だから……」
「何言ってんの? 幸人はカッコイイからモテるじゃん……そのうち取られちゃうよ!!」
親友の|美波《みなみ》に、はっきり言われてしまったけど、正直取られてしまうかもしれないという不安が常にあって、そろそろこんな風に追いかけしている場合では無いなとは思っていたけど、同じクラスだと言うのにまだ挨拶すらしたことが無かった。
「で、彼に挨拶でもしたの?」
「それが……まだ出来て無くて……」
「はっ……マジで言ってんのそれ、この一週間の間に挨拶するって約束したじゃん!! イイ、このままだと可憐はストーカーよ、ストーカー」
「えええっ……」
「明日が金曜日だから、今週中に挨拶するなら明日迄よ、でなきゃ、来週は毎日お昼奢って貰う約束だからね」
「えええっ、美波ちゃんそれは困るよ」
「なら、頑張って! 可憐なら大丈夫出来るわよ」
「……うん」
こうして次の日、ドキドキしながらとりあえず何時もより早く学校に向かうと、クラスには未だ誰も来ていなくて珍しく一番目になってしまった。
暫くすると次に来たのが何と私の好きな人……幸人。
「えっと……お、おはようございます」
「ふふっ、可憐だっけおはよう!」
「ちょっと、何が可笑しいんですか?」
「嫌々、だって同じクラスメイトなのに敬語って……」
「は、話したこと一度も無かったので……」
「クスッ、そういえば、そうだったね! そういえば何時も僕のこと見てるでしょ……知ってたよ」
――カァーッ!!
「何でそんなに僕のこと見てたの? もしかして僕のストーカー!?」
「ち、違います、えっと、その……幸人くんのことが好きで……ご、ごめんなさい! ストーカーしてるつもりじゃ無かったんです」
「クスッ! 慌てちゃって、可憐は可愛い女の子だね。 イイよ。僕達付き合おうか?」
「は、はい、お願いします」
挨拶するだけでも緊張したのに、どういう訳か嬉しいことに二人は付き合うことになった。
「おめでとう! 良かったね」
「えへへ、ありがとう」
お昼休み、親友の美波が祝福してくれて、購買にある期間限定のスイーツを奢ってくれた。
「そういえばさ、彼の何処に惚れたの? やっぱりイケメンだから?」
「イケメンだからって思うかもしれないけど、それだけじゃ魅かれないかな」
「えっ、じゃぁどんなとこに魅かれたのか教えてよ!」
「何か恥ずかしいなぁ」
「イイじゃん、親友の仲なんだし」
「う、うん、えっとね、涼しげで澄んだ瞳でしょ、それから、スッと高く美しい鼻梁、程よい厚みのある唇に引き締まった口角、それと顎から首にかけての流れるようなラインが綺麗で……それと」
「えっ、未だあんの?」
「うん……それと、時折見せる無邪気な笑顔と清らかで繊細な佇まいとかかな……えへ」
気付いたら、思ったこと全てペラペラ話していて、ちょっと美波に引かれてる感があった。
「あ、その……これは……」
「良く眺めてきただけのことは有るわね、一流のストーカーって言うの、プロよプロ……」
「や、辞めてよ! ストーカーじゃないんだから」
「そうね、愛でたく付き合うことになったもんね!」
その後、可憐は幸人と順調に恋が続き、一年後の可憐の誕生日には、
続き後で書きます(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
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続きです
花束をプレゼントしてくれた。
その花束は真っ白なかすみ草にパステルブルーの勿忘草が散りばめられてい、ふわっと優しくてとても可愛い。
白いネット仕様のラッピングが使われており、ピンクのリボンでふわっと結ばれ、シンプルだけどとてもキュートで包みまでもが可愛かった。
「幸人ありがとう、すっごく可愛い花束だね」
「うん、勿忘草の花言葉は真の愛、私を忘れないでだよ。お誕生日おめでとう! これからも喜しくね」
「素敵な花言葉があるのね、うん、これから宜しくね。 えへへ!!」
――七年後――
高校一年で付き合い、高校二年のお誕生日で花束を貰ってから、毎年幸人は必ずお誕生日にはこの花束をプレゼントしてくれた。
そして、七年目に大学を卒業後就職して晴れて社会人になってからは、二人は同棲を始め……そして、七年目からは、花束プラスお金に余裕ができるようになったので、幸人は他にもアクセサリーをプレゼントしてくれるようになり、それから半年後に愛でたく結ばれたのだった。
それから一年経過してからの結婚記念日のこと、幸人はお誕生日だけでなく、結婚記念日にもこの花束も必ずプレゼントしてくれたので、毎年二回は家の中が白とブルーの可愛らしい花束で彩られるように。
――十年後――
娘が生まれてからの結婚記念日!
「わぁー、ありがとう。 幸人花束ありがとうね、私勿忘草もかすみ草も大好き……もちろん幸人も……出産も終わったし、もう少し痩せなきゃだね」
「あんまり無理すんなよ! 可憐はこのままでとっても可愛いんだから、これからも家族三人宜しくな」
「うん……無理せずダイエットする……えへへ……ありがとう」
こうして、幸人はそれからも毎年二度花束をプレゼントしてくれている……この幸せが一生続きますように!
――三日月――
街へ
親友の|仁奈かっ
ミッドナイト
真夜中になる時間帯には、毎晩繰り広げられる夫婦喧嘩も静まり、体力を使い切ってしまうからだろうか、夫婦別々の部屋に行った後は朝まで起きては来なかった。
私は何時も真夜中まで続く夫婦喧嘩を聞いているわけにもいかず、だからと言ってすぐ自分の部屋として与えられた空間に引きこもると、自分達が与えたはずなのに引きこもったとすぐ騒ぐので、私のことで無駄に喧嘩を大きくさせない為に、賢い私はある程度リビングで静かに傍観者としていることに……。
だけれど、高校生になった私はある程度遅い時間帯迄静かに傍観者として耐えると、明日も学校があるからと言って自分の部屋に逃げるように移動した。
ところが部屋に行くと直ぐに寝ることはせず、寂しさからなのか、居場所が欲しかったからなのか、人恋しさからなのか、駄目だと分かりつつも出会いを求めて持っている携帯電話から出会いを求める日々を過ごす。
そして、その日、当日会える人を見つけ出すと、家族が寝静まっているであろう真夜中に、こっそり自分の部屋の窓から用意周到に用意していた靴を持ってそっと抜け出した。
抜け出すことに対して、見つかったら凄くヤバいことになるというかなりの危機感と、緊張感……そしてドキドキ感があったものの、何なく抜け出すことには成功し、抜け出した後も庭で飼っている犬は気づいていた筈なのに見守ってくれていたのだろうか、姿を見られても家族だからなのか吠えることは一度も無かったので、そのお陰も相まってそんな生活が続けられることに……。
私はというと、出会いを求める男性がどんな人なのか初めから知ってはいた、自分から求めていたのは最初からHがしたい……という安易なものでは無かったものの、結局はホテルに連れてかれる……そして皆私の体目当てであり、その目的を果たすために出会う人は皆優しかった。
ところが、自分の体目的なのに、必要とされていると感じられてしまうからなのだろうか、イケナイ行為に及んでいるのに、心が満たされ、幸せを感じ、凄くそれが嬉しかったのは、自分は此処にいる、いてもイイんだと生きてることに対する実感があったからなのかもしれない。
「初めてなの?」
「はい……」
「大丈夫、優しくするから」
「お願いします」
初めての時、あまりよく考えていなかったので、避妊はしなかったけど、運が良かったのか妊娠することは無くて……そのせいか、それ以降も出会った人とは避妊なんかせずに行為に及んだ。
そして、朝、日が昇る前には家路に帰り、両親にバレないように自室に戻る生活を毎日のように繰り返す生活が続けられることになる。
出会った人とは一度きり、それ以降はお願いされても会うことはしなかったからだろうか、依存性のようにHする度にその一瞬、一時だけ幸せを感じるものの、日が昇った朝、自分の部屋で孤独に襲われた。
寂しくて、胸が締め付けられるように苦しくて……。
どんな時も笑って過ごしたいのに、泣いてばかりの自分は部屋で一人……静かに声を殺すように泣いた。
未来に期待が持てない私は、よく大丈夫だったなと思える程……学生という身分でこれを当たり前の日常として過ごしたのに、何事も無く、大人にさえバレることも無く卒業式を迎えることが出来たのは、本当に奇跡に近いともいえるだろう。
真夜中……それは居場所を求める時間だった。
真夜中……それは自分が幸せになる時間帯。
真夜中……終わってしまうと、孤独に襲われた。
そんな私は、今は実家を抜け出し、王子様と結婚することが出来た……それは、愛してくれる男性に出会えたから。
もう真夜中に寂しくなることは無くなった……それは、二人の間に子供を授かったからでもある。
真夜中……私には居場所がある。
真夜中……私には君がいる。
真夜中……隣には娘が寝ている。
真夜中……もう寂しくない、怖くない、幸せです。
――三日月――
タイムマシーン
あの頃、親は話を聞いてはくれなかった。
あの頃、学校に友達が居なかった。
ユキメは毎日をただ生きてるだけの日々を過ごしながら、寂しさと葛藤していたのだろう。
何時しか自分の居場所が欲しくて、優しくされたくて、気が付けば誰でも構わず大人の男の人にひょいひょいとついて行くようになっていたけど、それが悪い事だとは思わなかった
「ほら、早くこっちおいで、ユキメちゃん可愛いね」
「ありがとう……ございます」
嘘でも良かったし、身体目的の優しい言葉と知っててもユキメには嬉しかった。
ベットで 抱きしめられると、舌を絡ませながらのキスをされる⋯⋯でも、それは嫌じゃなかった。
「は、……ん、やぁ」
「ほら逃げんなって……こっち寄って」
舌を絡ませ唾液と唾液が混ざり合っているので舌を抜くと糸を引く⋯⋯。
それを見た瞬間一瞬怖くなって身体が離れると、手が伸びてしなやかな体をキュッときつく抱きしめられてしまい、女の子のユキメにはその力には勝てなくて⋯⋯。
抱きしめられると同時に諦めがつくと、もうどうでも良くなっているからだろうか、また口腔内に舌を捩じ込まれると、しなやかな体から力が抜けて、舌を絡ませるキスをすんなり受け入れるユキメがそこにいた。
暫くすると、学生のユキメは、半袖ワイシャツのボタンを外され、しなやかな首筋に、綺麗な鎖骨から肩のラインが露出する姿に。
そして、後ろのホックに手を回すと片手で器用にブラを外され、ほわんと甘い香りの谷間が露出する。
「やめる?」
「……やめないで、下さい」
「じゃぁ、優しくするからね」
ユキメが答えると、豊満な乳房の周囲をゆっくり舐められると、乳首を口にほうばり強く吸われた。
「あっ……ひっ……っ、ん」
愛のあるセックスじゃないのに、声を抑えられず、声を漏らしながら感じてしまうユキメ。
優しくすると言っときながら、乱暴に扱われる。
そしてことが終わると、捨てられるかのよう目の前から立ち去りいなくなった。
それでも、生きていることを実感出来たからなのか、その行為を繰り返していたのだけど、ある日、心からユキメを愛してくれ人と出会い結婚することに。
(タイムマシーンがあったら、もっと早く出会えたかもしれない)
買い物の帰り途中、青空を見上げながら、ふと、そんなことを思うユキメがいたけれど、もし早く出会っていたら二人は結婚なんかしていなかったかもしれないのだから。
君に会いたくて
高校生の時付き合っていた彼女の|愛由《あゆ》とは、もう別れてから十年が経つけど忘れたことなんか一度もなかった。
十年の間に新しく彼女が出来て別れて⋯⋯そんな日々を繰り返しながら過ごしてきたけど、まだ結婚はしていないし、今はフリーだ。
別れたのは何方一方が浮気をしたでもなく、ただなんというか⋯⋯気づいたら別れていた感じで、卒業と同時にお互い忙しくなり、何時しか連絡が途絶えて自然消滅的になった感じだと思う。
機会があればまた君に会いたいと思っているけど、だからと言って同窓会なんてものがある訳でも無いから、会う機会なんてものは存在しないので、自分から連絡すればイイだけの事かもしれないけれど、それをしないのはただの意気地無しだからである。
絵に描いたような結婚生活を夢見ていても、相手がいなければ始まらないわけで⋯⋯だから、もし、愛由がフリーならまた付き合えないだろうかと思っているのだけど、|遥人《はると》は電話番号を知ってる癖に連絡するのを今日も躊躇った。
ところが、会社で外回りの最中、偶然にも愛由とバッタリ街中で会うことに⋯⋯。
「あの、もしかして愛由?」
「えっと⋯⋯?」
「遥人です⋯⋯山崎遥人」
「あっ、思い出した、遥人じゃん⋯⋯元気してた?」
「うん、まぁね⋯⋯そっちは?」
「うん、元気してたよ⋯⋯あっ、今日暇なら夜一緒に飲み行かない? 久しぶりだから話したいこともあるし⋯⋯ね?」
「うん、イイよ! 夜なら空いてるから、じゃぁ駅に待ち合わせで良い?」
「それでイイよ! 了解!!」
こうして偶然出会った愛由と飲みに行くことになったのだけど、久しぶりに会った彼女は随分大人びていて⋯⋯遥人は会話してる最中ずっとドキドキしていた。
待ち合わせの時間、遥人はなんだかデートに行くようだな⋯⋯とか思いながら、夜になると約束した駅まで足取り軽やかに向かう。
「遥人くんとの再開に乾杯!」
「うん、乾杯」
飲み屋に入ると先ずはビールで乾杯をする。
それから今の近況報告というのだろうか、お互い勤め先など話していたはずなのに、気づいたら高校時代付き合っていた頃の話題に戻っていた。
「卒業してからずっと遥人連絡無かったじゃん⋯⋯あのまま私達自然消滅したけど、ずっと好きだったんだからね」
「そうだったんだ⋯⋯愛由から連絡来ないからてっきり忙しくなったんだと思っていて⋯⋯それでこっちから連絡出来ずにいたんだよ⋯⋯ずっと連絡無いままだったけど、好きな気持ちはずっと変わらずあった」
「そうだったんだ!! 私達どちらからも連絡しないとか⋯⋯ほんと似たもの同士だね えへへ」
それから昔の話題で盛り上がったりなんかして、気づいたらもう二時間も経過していた。
お店を後にした帰り道、遥人はお店では伝えられなかった愛由への気持ちを伝えることに。
「あの、あ、愛由⋯⋯」
「ご、ごめん⋯⋯もう⋯⋯ね!」
そういうと、愛由静かに遥人の目の前で左手の甲を見せる。
「ほら⋯⋯ね!! だからごめん、今日は楽しかったよ! 今日はお友達と飲むってことで会ったけど、もう二人きりなんかで会わないと思う、じゃぁまたね⋯⋯元気でね」
「う、うん、またね⋯⋯」
「ずっと⋯⋯遥人のこと大好きだよ」
「うん、ずっと結愛のこと大好き!! またね」
背を向け先にゆっくり歩き出した結愛は、少し寂しげに見えた。
もし、もう少し早く君に会いたいと伝えていたら⋯⋯そしたら、未来は違っていたのかな⋯⋯。
そんなことを思ったら、連絡し無かったあの時の自分を悔やんだけど、もう前を見て進まなくてはいけないとハッキリわかったので、今日君と会えて良かったのだろう。
「ありがとう結愛、ありがとうございました」
結愛の背中に向かって静かに言うと、遥斗も背を向けその場を立ち去った。
――三日月――