三日月

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君に会いたくて

 高校生の時付き合っていた彼女の|愛由《あゆ》とは、もう別れてから十年が経つけど忘れたことなんか一度もなかった。

 十年の間に新しく彼女が出来て別れて⋯⋯そんな日々を繰り返しながら過ごしてきたけど、まだ結婚はしていないし、今はフリーだ。

 別れたのは何方一方が浮気をしたでもなく、ただなんというか⋯⋯気づいたら別れていた感じで、卒業と同時にお互い忙しくなり、何時しか連絡が途絶えて自然消滅的になった感じだと思う。

 機会があればまた君に会いたいと思っているけど、だからと言って同窓会なんてものがある訳でも無いから、会う機会なんてものは存在しないので、自分から連絡すればイイだけの事かもしれないけれど、それをしないのはただの意気地無しだからである。

 絵に描いたような結婚生活を夢見ていても、相手がいなければ始まらないわけで⋯⋯だから、もし、愛由がフリーならまた付き合えないだろうかと思っているのだけど、|遥人《はると》は電話番号を知ってる癖に連絡するのを今日も躊躇った。

 ところが、会社で外回りの最中、偶然にも愛由とバッタリ街中で会うことに⋯⋯。

「あの、もしかして愛由?」
「えっと⋯⋯?」
「遥人です⋯⋯山崎遥人」
「あっ、思い出した、遥人じゃん⋯⋯元気してた?」
「うん、まぁね⋯⋯そっちは?」
「うん、元気してたよ⋯⋯あっ、今日暇なら夜一緒に飲み行かない?  久しぶりだから話したいこともあるし⋯⋯ね?」
「うん、イイよ!  夜なら空いてるから、じゃぁ駅に待ち合わせで良い?」
「それでイイよ!  了解!!」

 こうして偶然出会った愛由と飲みに行くことになったのだけど、久しぶりに会った彼女は随分大人びていて⋯⋯遥人は会話してる最中ずっとドキドキしていた。

 待ち合わせの時間、遥人はなんだかデートに行くようだな⋯⋯とか思いながら、夜になると約束した駅まで足取り軽やかに向かう。

「遥人くんとの再開に乾杯!」
「うん、乾杯」

 飲み屋に入ると先ずはビールで乾杯をする。

 それから今の近況報告というのだろうか、お互い勤め先など話していたはずなのに、気づいたら高校時代付き合っていた頃の話題に戻っていた。

「卒業してからずっと遥人連絡無かったじゃん⋯⋯あのまま私達自然消滅したけど、ずっと好きだったんだからね」
「そうだったんだ⋯⋯愛由から連絡来ないからてっきり忙しくなったんだと思っていて⋯⋯それでこっちから連絡出来ずにいたんだよ⋯⋯ずっと連絡無いままだったけど、好きな気持ちはずっと変わらずあった」
「そうだったんだ!!  私達どちらからも連絡しないとか⋯⋯ほんと似たもの同士だね  えへへ」
 

 それから昔の話題で盛り上がったりなんかして、気づいたらもう二時間も経過していた。

 お店を後にした帰り道、遥人はお店では伝えられなかった愛由への気持ちを伝えることに。

「あの、あ、愛由⋯⋯」
「ご、ごめん⋯⋯もう⋯⋯ね!」
 
 そういうと、愛由静かに遥人の目の前で左手の甲を見せる。

「ほら⋯⋯ね!!  だからごめん、今日は楽しかったよ!  今日はお友達と飲むってことで会ったけど、もう二人きりなんかで会わないと思う、じゃぁまたね⋯⋯元気でね」
「う、うん、またね⋯⋯」
「ずっと⋯⋯遥人のこと大好きだよ」
「うん、ずっと結愛のこと大好き!!  またね」

 背を向け先にゆっくり歩き出した結愛は、少し寂しげに見えた。

 もし、もう少し早く君に会いたいと伝えていたら⋯⋯そしたら、未来は違っていたのかな⋯⋯。

 そんなことを思ったら、連絡し無かったあの時の自分を悔やんだけど、もう前を見て進まなくてはいけないとハッキリわかったので、今日君と会えて良かったのだろう。

「ありがとう結愛、ありがとうございました」

 結愛の背中に向かって静かに言うと、遥斗も背を向けその場を立ち去った。

――三日月――



 

 

1/20/2023, 4:12:12 AM