阿ヶ野川ゆうすけ

Open App
10/13/2024, 9:38:40 AM

「この放課後という絵はどういった意味を持って描かれたのでしょうか?」

個展に取材に来た雑誌の記者は、一枚の絵を指さして私に問いかけた。
美術室の壁一面をマリーゴールドで埋め尽くしたその絵は、オレンジや赤が主張して、まるで燃え盛るようだった。

「あぁ、この絵ですか。1番の思い出なんですよね」

コンクールに出るという理由で借りていた美術室。
当時高校生の私は、高校生活の放課後を1人で過ごしていた。
大きな窓から入る夕日が綺麗で、グラウンドにはサッカー部と野球部。
そして手を繋いで帰るカップル。様々な青春の形を見て来たのだ。

「卒業前日ももちろんそこで過ごしてました。そしたら今まで見たことないくらいのオレンジのような赤のような綺麗な夕日が差し込んできたんです。
私にはそれが、一面のマリーゴールドの花畑に見えて」


ポジティブもネガティブも持ち合わせた、特別な「放課後」

10/6/2024, 12:56:34 PM

「オリオンは本当に夜空が好きだね」

城の小窓から眺める夜空はどこか特別な感じがしていた。
涼しい夜風が頬を撫でて、眩く煌めいた星たちはまるで宝石のようだ。

「ベテルギウス、久しぶりだね」

視線の先にいたのは大きい木の枝に座る真っ白な人物だ。
小窓を開けるたびに遭遇し、最早当たり前かのようにそこにいた。
しかし、元々病弱なオリオンは体調が良くない日々が続き、生活のほとんどがベッドの上だった。
窓を開けて大好きな夜空を楽しむこともできず、ベテルギウスに会うのも久しぶりなのである。

「会えてよかったよ、顔色がいいみたいだ」

「僕も会いたかったよ」

静かに夜空を眺める。
この時間が何よりの幸せで、癒しとなっていた。
暗闇の中にいるというのに、どこかほのかに光って見えるベテルギウスは、いつからか僕にしか見えない存在なのではないかと思うようになった。
幻覚でも、たとえ幽霊でもそれでもいい。
それと、確信はないけれど最近感じるものがある

「ねぇベテルギウス」

「ん?」

「僕、もうすぐ星になれるかも」

ベテルギウスはそれが何かをすでに感じ取っていた。
大きい反応を見せるでもなく、ただオリオンに微笑みを見せた。
それは彼にとって、大丈夫と安心を与えるようなそんな暖かさだった。

「でもね、本当はやりたいことたくさんある」

「…もし、君の危機が近付くなら僕が力になってあげる
そのために、僕は君のそばにいるんだ」



この先も共に見よう。この満天の星たちを。



10/4/2024, 12:38:54 PM

「踊りませんか?」

君にそう声をかけたあのダンスパーティーの夜

そこで出会ってから共に生活を送り続け、月日が経つのはやかった。

年老いた後にこんなにもまた君が恋しくなる日がくるなんて。

「君と出会った記念日がまたやってきたよ」

あの日の懐かしい曲と共に、目を瞑って君を感じる。

暖かい手、優美な香り、そして愛おしい声。

全ての幻想をまとって踊る。踊る。

君の元へ行ったら、また一緒に踊ってくれますか?