君だけが大事だったのにそれを失ったわたしのちっぽけな世界はモノクロに染まっちゃった。
君だけが大事だったのにそれを忘れちゃったわたしの冷たい人生はそっぽを向いちゃった。
君だけが大事だったのにそれを思い出したわたしを拾い上げる人達の手はどこまでも暖かい。
君だけが大事だったけどそれを乗り越えたわたしの足取りは軽い。
君だけが大事だったけどそれを思い出にしたわたしには、大事なものがいっぱいあるよ。
もう大丈夫だから、わたしの世界は君以外でも色付くようになったから、心配しないで、ね。
もう大丈夫だよ。
モノクロ
「 」
あなただけは知っている。
空白
あたしはひとひらの花弁だった。
無数の花弁とともに陽光に会うために生まれた。
充実していた。あたし達を咲かせた太陽はやっぱり暑くて、眩しくて、ずっと見ていたいと思った。
いつかあたし達は枯れて落ちて土になって花ではなくなってしまうけれど、それでいい。それがいい。
あたし達はずっとなんて居られないからこそ美しくて尊いの。
ひとひら
「家に帰ったらアイツが笑顔で出迎えてくれるとかぁ、朝適当にベッドに投げてた寝間着が綺麗に畳まれてらりとかぁ、そういう、生活の中の、小さな幸せお、ぼかぁ大事にしてーわけよぉ!」
酒に酔った頭はひどく浮ついていて、友人の長々とした語りがようやく終わったことくらいしか分からなかったが。
俺はレモンサワーのジョッキを空にして喉を湿らせた後、友人に冷えた目を向けた。
「おまえさあ、それはねぇわ。」
「なにがぁ?」
「おまえのそれ、全然小さくねーじゃん。俺なんか出迎えてくれる彼女もさぁ、寝間着畳んでくれる母ちゃんもいねぇよ? それはさぁ、ちょっとさぁ〜」
友人は俺のモゴモゴとした説教が続いている間にそうだよなぁそうだよなぁやっぱ日頃の感謝はなぁと、独り言を呟いている。卓に酔っぱらいしかいないと話が一方通行になるのはよくあることだ。
すっかり冷えてしまったとん平焼きを箸で取りながら、あぁ俺酔ってるなぁとぼんやり考える。だってこんなにするりと本音が出てきたのは久しぶりだ。
「俺もそんなことしてくれる彼女が欲しいわ」
「ぼくがやろうかぁ」
「いやそれはいいや、ちょっと小さすぎる」
「シバくぞ!」
小さな幸せ
ああ、ああ。
どこにいるんだろう。
私の可愛い可愛い愛おしい子
私の大切な大切な愛おしい子
あの日私が、出かけたりなんてしなければ。
みんなは仕方がなかったなんて言うけれど、違うわ。私が悪いの。私がとても軽率だった。もっと責任を持つべきだったの。神様にだって取らせてやらないって、そのくらいの覚悟を持たなきゃならなかった。
私のせいなのに、私のせいだったのに、どうして居なくなったのは私の泣きたいくらい愛おしい子なの? 私が居なくなればよかった。そう言ったら、夫は私を見たまま静かに泣いた。
どこにいるんだろう、私のいつまでも愛おしい子。
あの子がいなくなった今でも私は軽くなった腹を撫でている。
どこ?