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 「家に帰ったらアイツが笑顔で出迎えてくれるとかぁ、朝適当にベッドに投げてた寝間着が綺麗に畳まれてらりとかぁ、そういう、生活の中の、小さな幸せお、ぼかぁ大事にしてーわけよぉ!」
 酒に酔った頭はひどく浮ついていて、友人の長々とした語りがようやく終わったことくらいしか分からなかったが。
 俺はレモンサワーのジョッキを空にして喉を湿らせた後、友人に冷えた目を向けた。
 「おまえさあ、それはねぇわ。」
 「なにがぁ?」
 「おまえのそれ、全然小さくねーじゃん。俺なんか出迎えてくれる彼女もさぁ、寝間着畳んでくれる母ちゃんもいねぇよ? それはさぁ、ちょっとさぁ〜」
 友人は俺のモゴモゴとした説教が続いている間にそうだよなぁそうだよなぁやっぱ日頃の感謝はなぁと、独り言を呟いている。卓に酔っぱらいしかいないと話が一方通行になるのはよくあることだ。
 すっかり冷えてしまったとん平焼きを箸で取りながら、あぁ俺酔ってるなぁとぼんやり考える。だってこんなにするりと本音が出てきたのは久しぶりだ。
 「俺もそんなことしてくれる彼女が欲しいわ」
 「ぼくがやろうかぁ」
 「いやそれはいいや、ちょっと小さすぎる」
 「シバくぞ!」



 小さな幸せ

3/28/2025, 5:05:03 PM