"一輪のコスモス"
恩師が定年退職なさるということで、記念の集まりに顔を出した際。
取り巻きを連れた、なんとなく見覚えがあるような人に絡まれた。
"同期とはいえ、俺たちが桜だとしたらお前は秋桜だな。同じ桜と名のつくものでも、全然違う"
同期の桜(同級生)として一括りに扱われてるけどお前だけ異質なんだよ、平気な顔して混ざってんじゃねえよ、て感じのことを言いたかったんだと思う。
内容自体はどうでも良かったけど、オシャレな言い方をするなぁと感心した。
詩人になったら?と返したら、顔を真っ赤にして怒っていたっけ。
名前を聞いたら更に怒って、結局名乗らず去ってしまった。
背後で笑い転げていた恩師はもちろん教えてくれなかったし。元々参加を断っていた僕を無理に呼びつけたのは貴方でしょうに、フォローくらいして下さいよ。
"秋恋"
fallとfall in loveか。
fallの"秋"という意味は fall of the leaf(落葉)からきているらしいから、どっちも落ちるというニュアンス。
秋をあらわす言葉はいくつかあり、一般的にfallはアメリカ英語、autumnはイギリス英語といわれている。
個人的にはfallは茶系、autumnはこっくりした赤やオレンジ、ついでにharvestは麦や銀杏の黄色のイメージだなぁ。
"愛する、それ故に"
一番幸せなときに全てを終わらせたかったんです、と彼は言った。
変わっていく姿を、離れていく姿を見たくなかったから。耐えられないから。
だから、壊れてしまう前に自分から壊したのだと。
自分を消す。これは分かる。
相手と自分、その両方を消す。
これも分からないでもない。
相手を殺して自分だけ生きている状態……ってなに?
透明な仕切りの向こう側で満足気に微笑む彼を見て、自分だったらその選択はしないだろうな、と思った。
大事な人を失って、自分だけ残るのは嫌じゃんか。
それこそ耐え難い苦痛だと思う。
その思いは今も昔も変わらない。
なのに。
死を選ぶ理由にわたしを使わないで、と。
貴女はそう言い残した。
馬鹿だなぁと自分でも思うけど。
僕はね、貴女との約束は破ったことがないんだよ。
それがどれほど苦痛を伴うものであったとしてもね。
"静寂の中心で"
静寂の中心で、
祈ることを諦めた永訣の朝。
"燃える葉"
燃える葉……。
よもぎの葉裏の繊毛を精製したものをもぐさといい、お灸に使用されるんだけど、
一説では"よく燃える草"から"善燃草(よもぎ)"、
"燃え草"から"もぐさ"と呼ばれるようになったらしい。
もぐさのことを"指燃草(さしもぐさ)"とも言い、これは有名な和歌にも詠まれているから知っている人は多いんじゃないかなぁ。
『かくとだに えやは伊吹の さしもぐさ
さしも知らじな 燃ゆるおもひを』てやつね。
他には、『契りおきし させもが露を 命にて
あはれ今年の 秋も去ぬめり』とか。
"させもが露"で"よもぎの露みたいなありがたい言葉"と訳しているものが多いのかな。
維摩講の名誉ある講師役としてどうぞ息子を選んで下さいとお願いして、その際に貰った言葉が
"しめぢが原"。
これは、『なほ頼め しめぢが原の さしも草
われ世の中に あらむ限りは』という歌を下敷きにした言葉で、"大丈夫、任せておけ"と言われた感じ。
でも実際には選ばれてなくて、それを恨みに思って詠まれたのがこの歌。
親馬鹿というか、息子おもいというか。
憖っか歌が良かったばかりに根回ししようとした事実が後世に残ってしまったんだから、なんだかなぁと思ってしまう。
ちなみに、よもぎと聞くとよもぎ餅のイメージで春って感じがするけど、花は秋に咲くし、環境によっては紅葉もするらしいね。