"今日だけ許して"
今日に限った話じゃないだろう?
色を失ったその顔に、薄く笑いかける。
鬼?悪魔?
どうぞ、お好きなように。
何と言われようが許さないよ?
"誰か"
溺れるような苦しみに、手を伸ばす。
誰か、誰か。
伸ばした指先がカツンと硝子に当たった。
あ、そっか。
誰か、なんて、いないのか。
そこで、目を覚ました。
明けても醒めても薄青く染まった悪夢の中で、
どこにも行けずにひとりきり。
ただじっと息を殺して。
苦しみが、悲しみが、やがては諦念へと変わっていくまで、ぼんやり天井を眺めていた。
"秋の訪れ"
街中で金木犀の香りが流れてきたら、時間があったらつい花を探して歩き回ってしまう。
昔、扉を開けるなり、"良い香りがする"と貴女が至近距離まで寄ってきてびっくりしたことがあったっけ。
結局、上着のフードに紛れていた金木犀の花が原因だったんだけど。
真剣な顔でふんふんと鼻を近づける様子は猫みたいで、物凄く癒された記憶がある。
"旅は続く"
デスマーチはまだまだ続く……。
今の仕事がひと段落したら、闇に消えていくばかりの有給休暇をもぎ取って旅に出るんだ、僕……。
ああでも状況的に多分無理そうだなぁ……。
知ってる?有給休暇はね、付与されて二年間で時効をむかえて消滅するんだよ……。
今までどれほどの有休が人知れず葬られていったことか……。
"涙の理由"
涙の理由?
そんなの、心が耐えられないと叫んでいるからだろ。
正しく人間って感じがするよな。
みんな、泣いてた。
その様を、ただ、ぼんやり眺めていた。
あの夜、零れ落ちた言葉を覚えている。
僕を見ながら、僕じゃない誰かを見ていたその瞳を覚えている。
悲痛を、悲嘆を、絶望を浮かべたその色を忘れられない。
ねぇ、なんで
必要とされていた彼女が死んで、
要らない僕が生きてるの。
声ひとつ、涙一粒さえ落とせず、ただ周りの人達の嘆きを聞くばかりの何も無い自分が心底呪わしかった。