ミヤ

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3/27/2025, 4:20:07 PM

"春爛漫"

祖父母は町内活動に積極的な人達で、人手が要る清掃なんかには僕も駆り出された。
仲間内で楽しく喋りながらワイワイ作業する祖父母の側にはなんとなく居づらくて。
大きな竹箒を持って、少し離れた並木道の方に行って落ち葉や花びらなんかを集めるのを専ら自分の役目としていた。当時、自分の身長と同じくらいの箒は扱いに苦労したなぁ。

折しも季節は春爛漫、桜花舞い散る最盛期。
掃いても掃いても降り積もる花びらに辟易としていた時だった。

急にドサッと花びらが落ちてきて、視界が白く染まった。

ああいう時って本当に思考が止まるんだよな。
驚いて暫く固まってしまった。
ようやく硬直が解けて樹の後ろにまわり込むと、女の子が足を押さえて蹲っていた。
後から聞いた話だと、親と喧嘩して家を飛び出したものの、苛々がおさまらず、八つ当たりで思い切り樹を蹴ったらしい。罰が当たったんだ、と捻挫した足首を抱えて涙目になっていた。

顔を知っている大人が沢山集まっている所には行きたくない、どうせ嫌な噂話ばっかり広められる、と言うから、その場で簡単な手当をした。幸い清掃活動中だったから、水も布も添木になる棒も簡単に手に入ったからね。
ちゃんと医者に診てもらうように言って別れたけど、あの様子だと多分病院には行かないだろうなと薄々思っていた。

後日、意外と近くに住んでいたその子は、案の定、怪我をそのまま放置して足を腫らしていた。問答無用で病院に連れて行く、はずが物凄く抵抗されたので妥協して、通っていた学校の保健室で湿布を貼って貰った。保健医の先生が、また君か、と呆れた顔をしていたのが印象的だった。



まぁそれが貴女だったんだけどね。
確かにその時の僕より背は高かったけど、完全に病院嫌いの幼い子供ってイメージが強かったから、まさか幾つも上の先輩だとは思わなかったなぁ。

3/26/2025, 5:10:21 PM

"七色"

疲れた時は音楽を聞くに限る。
ぼうっと音楽を聞いていると、ただただ綺麗だなぁ、と思う。
様々な色が連なり、バラバラに離れ、クルクル回って弧を描く。鋭く尖り、弾けて、ふんわり柔らかく目の前を埋め尽くす。冷たさも、温かさも、全部が内包された鮮やかな色彩で表現される世界。

幼い頃は色聴が普通だと思っていたから、口に出した時に嘘吐きだと言われて困惑した覚えがある。
でもなぁ。勝手に想起されるものは仕方無いじゃん。
今は気に入っている。
音を聞いて、七色どころじゃない色に溢れた世界を感じられるのはお得感があるよね。

まぁ普段は煩わしい事も多いけど。
人が多い場所だったり騒がしい場所だったりすると、ほんと酔うから。見ているものが正しい色かどうかも分からなくなるし。だから自分の感覚は信用できないんだよな。

3/25/2025, 5:19:15 PM

"記憶"

人は目で見た色を実際よりも鮮やかに強調して記憶する傾向があり、イメージとして刻まれた色を記憶色と呼ぶらしい。
撮った写真の色に違和感を覚えるのはこれが原因なんだそうな。

基本自分の感覚を信用していないから、記憶の中の色が違っていたとしても、まぁそうだろうな、て感じだなぁ。
CMYKやRGBを厳密に指定する必要があるわけでもあるまいし、大雑把でいいんだよ、記憶なんてものは。美化されているならそれはそれで良いんじゃないかな。いや、むしろその方が良いと思う。

3/24/2025, 4:08:38 PM

"もう二度と"

どうか、もう二度と目が覚めませんように。
そう思いながら眠りにつく。

明日なんていらない。
何も無い闇の底で、ただ静かに眠りたい。

それなのに、夜は明けて朝が来てしまうから。
なんでもない顔をしてまた現実を始めなければならない。
それってすごく残酷だ。


3/23/2025, 2:53:04 PM

"雲り"

雲の切れ間から光の帯が放射状に降り注ぐ。
光芒、天使の梯子と呼ばれる現象だ。
海辺の街に行った際、辺りがまだ薄暗い早朝に見た事がある。

黒い海面に光が真っ直ぐ落ちる様は、その場所だけに舞台のスポットライトが当たっているようで。
あの光の下にはなにか不思議で特別なものがあって、今まさに物語が始まっているんじゃないか、と。
柄にも無くそう思ったのは、きっと、幻想的な光景を前にして浮かれていたからだろうな。

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