"bye bye…"
"bye bye…"とお別れする筈だったのに。
やっぱり駄目だ、手放すなんて出来ない。
棚からあぶれた本の山を、いい加減どうにかするつもりだった。
断腸の思いで、もう読まなくなった本を売りに出す為に段ボール箱に入れていこうと決意したはずなのに。
不思議なことに、一向に箱が埋まらない。
本を手に取って、タイトルを見て、表紙を見て。
本の内容は勿論、購入した当時の状況まで思い出せるものだって沢山あるんだ。
初めて自分で選んで購入したものだったり。
時間潰しで入った本屋でたまたま手に取り、思いがけず面白くてシリーズで揃えてしまったものだったり。
商業デビューからずっと追っている作家さんの本だって、置いておきたいじゃないか。
箱に入れた僅かな本を取り出し、段ボール箱を畳む。
やはり本を売るのではなく、新しい棚を買うべきだ。
きっと部屋の床板は重みに耐えてくれるさ。
"君と見た景色"
しんしんと積もる雪だったり。
ぱたぱた、ざあざあと降る雨だったり。
あるいは、雲ひとつなくカラッと晴れ渡った青空だったり。
同じ場所、何気ない景色でも、その時々によって色が変わる。
外を眺めて、飲み物片手に、貴女とちょっとした事を報告し合うのが日課だった。
貴女と見た景色は、今も変わらずここにある。
"手を繋いで"
遠い昔、手を繋ぐあの人を見上げて。
なんでこの人は僕を殺してくれないのかな、と
ずっとそう思っていた。
時折向けられる視線の中には、確かに息を呑むほど鮮烈な憎悪が宿っていたのに。
あの人は僕に何を望んでいたんだろう。
今になっても分からないや。
"どこ?"
いつだって、自分を捨てられる場所を探している。
どうして此処なのだろう。
どうして此処でなければならなかったのだろう。
時々、息が詰まりそうになる。
自分はどうして、この水槽のような場所からどこにも行けないのだろうか。
望んでいたわけじゃない。
けれど、どうしても。
どうしようもなく、生きていることが息苦しかった。
救いはあるのかもしれない。
でもそれは、明るい光の下では決してない。
深く、昏い、水の底だ。
"大好き"
大好き、ねぇ…。
人によっては呪いの言葉だな。