"記憶"
人は目で見た色を実際よりも鮮やかに強調して記憶する傾向があり、イメージとして刻まれた色を記憶色と呼ぶらしい。
撮った写真の色に違和感を覚えるのはこれが原因なんだそうな。
基本自分の感覚を信用していないから、記憶の中の色が違っていたとしても、まぁそうだろうな、て感じだなぁ。
CMYKやRGBを厳密に指定する必要があるわけでもあるまいし、大雑把でいいんだよ、記憶なんてものは。美化されているならそれはそれで良いんじゃないかな。いや、むしろその方が良いと思う。
"もう二度と"
どうか、もう二度と目が覚めませんように。
そう思いながら眠りにつく。
明日なんていらない。
何も無い闇の底で、ただ静かに眠りたい。
それなのに、夜は明けて朝が来てしまうから。
なんでもない顔をしてまた現実を始めなければならない。
それってすごく残酷だ。
"雲り"
雲の切れ間から光の帯が放射状に降り注ぐ。
光芒、天使の梯子と呼ばれる現象だ。
海辺の街に行った際、辺りがまだ薄暗い早朝に見た事がある。
黒い海面に光が真っ直ぐ落ちる様は、その場所だけに舞台のスポットライトが当たっているようで。
あの光の下にはなにか不思議で特別なものがあって、今まさに物語が始まっているんじゃないか、と。
柄にも無くそう思ったのは、きっと、幻想的な光景を前にして浮かれていたからだろうな。
"bye bye…"
"bye bye…"とお別れする筈だったのに。
やっぱり駄目だ、手放すなんて出来ない。
棚からあぶれた本の山を、いい加減どうにかするつもりだった。
断腸の思いで、もう読まなくなった本を売りに出す為に段ボール箱に入れていこうと決意したはずなのに。
不思議なことに、一向に箱が埋まらない。
本を手に取って、タイトルを見て、表紙を見て。
本の内容は勿論、購入した当時の状況まで思い出せるものだって沢山あるんだ。
初めて自分で選んで購入したものだったり。
時間潰しで入った本屋でたまたま手に取り、思いがけず面白くてシリーズで揃えてしまったものだったり。
商業デビューからずっと追っている作家さんの本だって、置いておきたいじゃないか。
箱に入れた僅かな本を取り出し、段ボール箱を畳む。
やはり本を売るのではなく、新しい棚を買うべきだ。
きっと部屋の床板は重みに耐えてくれるさ。
"君と見た景色"
しんしんと積もる雪だったり。
ぱたぱた、ざあざあと降る雨だったり。
あるいは、雲ひとつなくカラッと晴れ渡った青空だったり。
同じ場所、何気ない景色でも、その時々によって色が変わる。
外を眺めて、飲み物片手に、貴女とちょっとした事を報告し合うのが日課だった。
貴女と見た景色は、今も変わらずここにある。