"手を繋いで"
遠い昔、手を繋ぐあの人を見上げて。
なんでこの人は僕を殺してくれないのかな、と
ずっとそう思っていた。
時折向けられる視線の中には、確かに息を呑むほど鮮烈な憎悪が宿っていたのに。
あの人は僕に何を望んでいたんだろう。
今になっても分からないや。
"どこ?"
いつだって、自分を捨てられる場所を探している。
どうして此処なのだろう。
どうして此処でなければならなかったのだろう。
時々、息が詰まりそうになる。
自分はどうして、この水槽のような場所からどこにも行けないのだろうか。
望んでいたわけじゃない。
けれど、どうしても。
どうしようもなく、生きていることが息苦しかった。
救いはあるのかもしれない。
でもそれは、明るい光の下では決してない。
深く、昏い、水の底だ。
"大好き"
大好き、ねぇ…。
人によっては呪いの言葉だな。
"叶わぬ夢"
何も見たくない。
何も話したくない。
何も考えず、ただ静かに眠りたい。
生きている限り、叶わぬ夢だ。
"花の香りと共に"
貴女が花束をいくつも抱えて会いに来たのは、貴女の学校の卒業式が終わって間も無くしてからだった。
せっかく沢山貰ったけど、家に持って帰ってもどうせ捨てられるだけだから君にあげる、と。
腕いっぱいの花束をぐいぐい押し付けてくるから、勢いに押されて倒れそうになった。
受け取った花束はどれもこれも中々の立派さで。
きっと僕が持ち帰ったら祖母が喜ぶだろうな、と思った。
でも、貴女がなんだか諦めたような、それでいてどこか満足したような顔をしているのが気に入らなくて。
花束を形作る花々から花弁をちぎり取り、思い切り上へと放り投げた。
ひらひらと、花の香りと共に様々な色・形をした花びらが貴女のもとへ降り注ぐ。
きっとね。貴女を想って贈られた花なんだから、貴女の為に、貴女を祝福するために使われるのが正解だと思ったんだ。
目を丸くする貴女に笑って、卒業おめでとう、と言葉をかける。
茫然としていた貴女は、僕と視線があった途端に顔をクシャリと歪めて、なんて事するんだ、と掠れた声で呟いた。