"夜空を駆ける"
空一面の星を見た。
パチリと瞬くたびに景色が入れ替わる。
春夏秋冬。
赤く、青く、白く燃える、昔々の星の光。
冷たく冴え冴えとした音がドーム型の会場を幾度も跳ね返り、それ自体が意思を持って夜空を駆け回っているようだった。
やがて公演時間が終わり、明るくなったプラネタリウムはただただ無機質で。
あの静かで騒がしい、不思議な時間が終わってしまったことが惜しく思えた。
"ひそかな想い"
目の前で泣くのを我慢している人を見て思う。
とっても可哀想だね。
悲しいね。
でも、僕にはいらないや。
誰か他の優しい人に慰めてもらえたらいいね。
"あなたは誰"
車窓に映る自分を見て、すぐに視線を逸らす。
押し込めた色が溢れて無様に顔を塗り潰す、のっぺらぼうの自分。
あぁ、本当に気持ち悪い。
こんな自分になりたかったわけじゃない。
けれど、こんな自分にしかなれなかった。
物語の主人公だとか、英雄だとか、そんな大層なものじゃなくていい。
それでも
自らを削り落とす過酷の中で、
誰かのために微笑えるような
誰かのしあわせを願えるような
そんな誰かさんになってみたかったなぁ。
"手紙の行方"
学校の授業で、絵はがきを書いたことがある。
和紙を千切って貼ったり、色鉛筆で絵を描いたり。
課題として提出した後は、クラスでまとめて郵送する手筈になっていた。
でも、手紙を送りたい人なんて思い付かなくて。
以前住んでいた場所の住所を書いたら、あて所に尋ねあたりません、と返ってきた。
祖父母か、もしくは自分宛にしておいたら良かったのにね。そうすれば、郵便屋から手紙を受け取った祖母に困った顔をさせずに済んだのに。本当、昔から考えが足りないんだよなぁ。
戻ってきた絵はがきは細かく破いて捨ててしまった。
せっかく牛乳パックから葉書に再生したのに、こんな奴の手元に来てしまったせいで残念だったね。
"輝き"
一番初めの記憶は、ゆらゆら揺れる音の波。
透き通る青に満たされた空間は、とても美しく。
新たな一音が刻まれる度に、きらきらと、何もかもが輝いて見えた。
ゆったりと沈むように。
時には軽く弾むように。
柔らかな音で紡がれる歌によって、見える世界全てにあらゆる色が溢れ返っていた。
朧げな記憶の中で、その音色だけが鮮明に焼き付いている。