ミヤ

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1/28/2025, 2:43:16 PM

"帽子かぶって"

以前、近くの空き地にタンポポの群生地があり、
時期になると一斉に綿帽子をかぶって揺れていた。
強い風が吹くと空高く舞い上がって、ふわりふわりと流れていく。
どこまでも流れていく綿帽子を目で追っていると、
青空は手を伸ばしたら届きそうなほど近く、遥か彼方まで広がっている気がした。

あの空き地は、今はもうない。
丁寧に整地され、黒いアスファルト舗装を施された後、白いフェンスで囲われた駐車場になった。
便利で綺麗になったと多くの人は喜んでいたけど、
ほんの少し、空が遠く、狭くなった気がした。

1/27/2025, 12:33:59 PM

"小さな勇気"

よく道に迷う人間だ。
案内図を確認しても、携帯でマップを検索しても、
進む方向を矢印で示してくれるアプリを表示していても、何故か迷う。

進んでいる時は、この道でいいという確信があるのだ。根拠はないが、絶大な確信が。
時間が経ち、いつまで経っても辿り着けない事に不安を感じてマップを確認すると、いつの間にかとんでもない場所に居たりする。
分岐にさしかかる度に地図を確認するような殊勝な人間だったら良かったのだが、生憎とそんなマメさは持ち合わせていない。
一時間以上も彷徨う前に、誰かに聞く勇気が持てたら良かったんだけどなぁ。

間違った道を行こうとする僕に苦笑して、いつも手を引っ張ってくれた貴女はもういないのだから。

1/26/2025, 2:39:00 PM

"わぁ!"

自分が写っている写真が嫌いだ。
原因は分からない。
引き取られた先で祖父母に延々とあの子に似ていると言われ続けたからかもしれないし、単純に自分が嫌いだからかもしれない。写っている姿が得体の知れないナニカに見えて、気持ち悪い。
作り笑いでも無表情でも、自分が写っていると思うと、"わぁ!"と叫び出したくなる。
学生時代の卒業アルバムは貰ったその日に捨ててしまった。
でも、自分のいない写真は好きだし、写真を撮るのも好きだ。だから手持ちのアルバムは、ほぼ貴女の写真集と化している。

本棚の整理をしていると、昔のアルバムを見つけた。懐かしくなってパラパラめくっていると、最後のページに撮った覚えのない写真が挟まっていた。
以前貴女を待っている時に、いきなり写真を撮られたことがあった。僕に見せないなら、という条件で、渋々残すことを了承したやつだと思う。
手を伸ばした状態で、悪戯っぽく笑ってカメラ目線の貴女と。驚いた顔をして画面に納まる僕が、一緒に写っていた。

どうしようか迷って、結局そのままにしてアルバムを閉じる。
ずるい。
貴女との写真を、僕が捨てられるはずがないじゃないか。

1/25/2025, 12:04:42 PM

"終わらない物語"

"終わらない物語"という言葉を考えていたら、
"一条(ひとくだり)の物語"という言葉が浮かんできた。
あまり使わない言い回しだから古典か近代文学辺りだと思うんだけど、読んだか聞いたかした話のタイトルが思い出せない。
いつしか自分自身がひとくだりの物語になっていた、みたいな感じの文章だった気がする。
今は凝った文章を書く人も多いから、意外と最近の作品なのかも。漫画や朗読の可能性も否定できない。
検索しても出てこないし、何だったかなぁ。

たまにこういう事がある。
なにかの拍子にふと言葉や音が浮かんできて、ひたすら頭の中をぐるぐる巡って占拠するから堪らない。
思い出すか、もう一度忘れるまでひたすらもどかしい思いをすることになる。
まぁこうやって考える機会があるなら、読み終えた物語であっても自分の中では終わらない物語と言えるのかもしれないな。

追記
思い出した。
泉鏡花『夜叉ヶ池』だ。
晃の台詞で、「ところが、自身…僕、そのものが一条の物語になった訳だ。(中略)…君もここへ来たばかりで、もの語の中の人になったろう…僕はもう一層、その上を、物語、そのものになったんだ。」
という文章があった。
文豪の作品は印象的な台詞回しが多くて、部分的にでも記憶に残るんだよな。

1/24/2025, 11:56:25 AM

"やさしい嘘"

いつかの貴女は冗談っぽく、
もしわたしが先に逝ったらあの世からずっと君を見守ってあげる、と言っていた。
だから浮気は駄目だし、あんまり早く逢いに来ようとしたら追い返すからね、と笑っていたっけ。

ごめんね。
天国も地獄も信じていないけど。
もう少しだけ、貴女のやさしい嘘に溺れていたいんだ。

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