題目:『ココロオドル』
天鐘、響き渡るチャイム。鳴り響いたその音を背に一人先走り、駆け出した。
段差がさもそこにないかのように蹴り降りて、伸ばした右手で引き出す二足。窮屈な白青を滑らせ脱ぎ捨て、ものの数秒で下駄箱を去る。
すぐさま背の後ろから掛けられる声々、それらを無視して胸の鳴る方へ。
駆け出し、駆け下り、駆け跳ね、赤で止まり。
再開の後に、交差をくぐる。
巡る街道、裏方の路地。一癖見せるは猫の道か、はてさてそれとも白線の通りか。
途切れた通りを飛び越し、駆ける。
手頃な石を蹴飛ばして、転がるそれを機に進む。
結論、辿り着いたのは、変哲も何もない民家。
代わり映えのない扉を開き、その杜撰さに顰めっ面を経る。
さりとて心はここに在らず。
顰めた面も一面に過ぎず。
背の黒色を定位置に帰し、再び扉を掴み開く。
一時の苦心も放り捨て、青色に跨り風を漕いだ。
題目:『束の間の休息』
白黒の視点で見下ろしたデスク。
外からの光が乱反射して、黒を白に染め上げた。
打たれたはずの文字は見えず、手をかざしてみれば如何様にも受け取れる言葉の繰り返し。
繰り返し。パターンを変え、態度を変え、されど打ち綴る言葉の意味は何一つ変わらない。
自ら打ったのだから意味が分かる。当然の如く意図が分かる。自分が何を伝えたいのか。
ではどうしよう、これは酷い。
人様に見せれた物ではない。
ひとまずこれから目を離す。
頭は回し、されど腕から先には別の役を。
時代遅れの鉛筆を持ち、滑りやすい材質の上を塗り潰すかのように巡らせる。
それで何が起きるのか、何が出来上がるのか。
自らやり始めたことなのに、然程興味は感じられないが、さりとて腕を止めようとはしない。
ならば出来たのは人か、物か、幻か。
重なった黒鉛と見慣れた体躯。
けれど人では無いのだろう。
それは自らの二足で立ち、胴から連なる片方の腕を振り上げていた。そこに見慣れた頭蓋は無い。
自ら描いたのだから意味が分かる。当然の如く意図が分かる。自分が何を伝えたいのか。
ではどうしよう、これは酷い。
人様に見せれた物ではない。
ひとまずこれから目を離す。
頭は回し、されど腕から先には別の役を。
題目:『力を込めて』
二年の放棄に亀の歩み、取り繕われた人の面。
暗がりは大して好きでもなくて、ネオンの光に身を惹かれる。
そんな無謀な思惑も、臆病風に吹かれてしまえばまるで砂山のよう。
計画を立てる。その瞬間が好きで。
実行に移す。その瞬間が嫌いで。
やってみれば案外大したことない。そんなことも多々あれば、悲惨すぎて何も言えないこともある。
自分のことが分からない。
自分の程度が測れない。
私は立派にやれてますか?
それとも駄目な人ですか?
誰も私を見ていない。
測ってくれる相手は居ない。
故に未だにわからずじまい。
途方も無いのだ二年とは。
布団に潜り、人を知り、音の摩擦に擦り切れる。
部屋のカーテンを開こうともせず、電子の光を好んで浴びた。
浪費に嘆き、寄生に呻く胸には栓をした。
さりとて、寝たれば終わるのだ。
この悩みも、あの憂いも、その反省も。
ならば今日の終わりにさあ一度、と気持ちを膨らませて叫ぶ。
言葉にならない、音の羅列を一声に。
力を込める。音は出ない。