君からのLINE
ポコン、と音を立ててスマートフォンの画面上部にメッセージが届いた旨の通知が表示される。バーをタップしメッセージを確認すると【明日会える?相談したいことがある】とのことだった。
相談とはどんなことだろうな。金遣いの荒い付き合っている相手のことか、それとも今働いているブラック会社をようやく転職する気になったのか、はたまた別問題か。予想はできないがとりあえず返事を返さなくては。僕はオッケーとスタンプを送信し画面を切る。
君からのLINEだったらどれだけ忙しくても返事はするよ、とは向かい合って言ったことはないが本当のことだ。
けれどそれは君は知らないことで知らなくて良いことなのだ。
君は大切な友人で唯一無二で、君が困っているならどれだけでも力になるしどんなことでも解決してやりたくなる。そんな不思議な魅力をもった存在が君なのだ。
僕は急遽決まった明日の予定に思いを馳せながら布団に包まるのだった。
命が燃え尽きるまで
「今度こそお前の息の根を止める」
そう言って血を吐きながら倒れ命を終わらせたのは何度目だろうか。玉座の間を汚した勇者をヒョイと持ち上げ窓から放り投げながらそんなことを考える。なぜかは分からないが何度殺しても生き返り妾を倒しにくる。今回は女だったが性別も容姿もその時によって違う。なんとも摩訶不思議な話だ。
勇者一族に伝わる不可思議な能力の一つなのだろうか。
パチンと指を鳴らし血痕と刻まれた絨毯を修復し玉座に座る。
そもそも、待つ必要はないのだ。生まれた瞬間に殺してしまえばいい。ただ、それをするのは古の呪いを受けることになる。はるか昔に初代勇者と呪いで縛りあった約束。勇者、魔王どちらかが生まれてもすぐにその命を奪ってはならない。単純だが中々煩わしい約束を交わしてしまったものだ。ふう、とため息を吐き側に控えていた側近を呼ぶ。
「はい魔王様」
「初代はまっこと面倒な約束を取り付けたものだな?」
初代の魔王の時代から側近を務める彼にそう言えばにこりと微笑む。
「それが世界のバランスを保つことですから」
「勇者が魔物を殺し、魔王が人間を殺す、か……」
「はい」
「神とやらも面倒な役割を与えたものだ」
この世界の神が与えた役目はなんとも面倒でつまらないものだ。だが、そう決められてしまっている以上その役割をやるしかないのだ。まあ勿論、そう易々と殺されるわけにはいかぬわけだが。
「少し眠る」
「はい、当代様」
また何十年後かに勇者が現れどちらかの命が燃え尽きるまで戦うことになるのだろう。ふふ、と笑いながら瞼を下すのだった。
自転車に乗って
どこまでもどこまでも進んでいけると思っていた。
しかし押し寄せる歳にはかなわないのだ。
目の前に広がる長い上り坂を見て諦めの境地で自転車を下りる。ヒィヒィと息を切らしながら自転車を押し坂を上る。
もうちょっと、あと少し。
足にはだんだんと疲労が溜まってきている。
あと少し、だ!
ぐん、と一歩を踏み出し坂の頂上に立つ。
目の前に広がるのは絶景だった。
広がる街並み、森林、飛び交う鳥たち。そして綺麗な青空。
これが見られるから自転車の旅はやめられないのだ。
心の健康
心の健康が大事とはよく言ったものだ。
ベッドの上、掛け布団にくるまりながらそんなことを考える。
夜だというのに電気はつかず真っ暗闇のままだ。時折、カーテン越しに道路を走る車の光が差し込んでくる。
「どうしてこうなっちゃったかなぁ」
何度も考えたことだ。
それでも答えは出ないし誰も与えてくれない。自分で見つけるしかないのだろう。
それか、答えなんか見つけずに前に進むしか方法はないのかもしれない。
でも、だ。でも、なのだ。
それが出来ればこんな風にはなっていないし、こんなことを考えていないかもしれない。
外を車が走る。親子の楽しそうな声が聞こえる。
全部、全部煩わしい。
でもそれが普通なのだ。おかしいのは自分でおかしくないのはあちらなのだ。ああ、くそ。本当に嫌になる。
「明日はもう少しいい日にしたいな」
ポツリと呟きながら効き始めた睡眠薬に誘われて眠りにつくのだった。
目が覚めるまでに
愛だと思った。
掛け布団の上で眠る猫を見ながら朝を迎えた。
愛しい存在であるこの子はいつか私より先に死んでしまう。
それまで健康で、いろんなことを遊ばせてあげられるだろうか。
もうすでに病気のこの子には何を与えてあげられるのだろうか。
そんな傲慢なことを考えてしまう。
二匹でくっついて眠る猫たちを見ながらそんなことを考えるのだった。