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11/27/2023, 10:29:03 AM

【愛情】

当たり前のように注がれていて、その温かさにも有り難さにもつい最近まで気付けなかった。
就職すると同時に一人暮らしを始めて、働いてお金を稼ぎ養ってくれたのも家事をしてくれたのも、愛情だったのだと知った。
落ち込んでいれば明るく励ましてくれて、テストで良い点を取れば自分のことのように喜び、褒めてくれた。
熱を出して寝込めば夜中でも看病してくれて、悩みがあれば解決するまで相談に乗ってくれた。

どれも当たり前ではなく、私のために与えて包んでくれていた。一人になって、初めて気付いた。

でも、一人で居る私の元には今日もメッセージが届く。
「ちゃんとご飯食べた?」
愛情は今も、確かに注がれている。

お父さん、お母さん、沢山の愛情をありがとう。

11/26/2023, 10:49:38 AM

【微熱】

仕事中、怠くて頭が痛くて、家に帰ってすぐに体温を測ったら37度2分。
微熱が出ていた。
スーツ姿のまま、ソファに横になる。
熱が上がってしまうから、ちゃんと着替えてベッドで寝ないと。
分かってはいるけど、体調が悪い時はどうしても動きたくなくなってしまう。
仕事の疲れも加わって、しばらくソファに横になったままでいた。

……そういえば今日、頭が痛くて額を押さえていたら、同僚の佐々木さんが声をかけてくれたっけ。
「大丈夫? 顔色悪いよ?」って。
笑って大丈夫ですと答えたけど、佐々木さんは微笑みながら「無理しないでね」と言ってくれた。
優しくてカッコよくて、仕事もできる佐々木さんは、私の片思いの相手だ。私にだけ見せてくれた、あの穏やかな笑顔……あー、思い出しただけでドキドキする!

自分の頬に触れてみると、さっきよりも明らかに熱い。もしかしたら、もう微熱とは呼べないくらいに熱が上がってたりして。もしそうなら、絶対に佐々木さんのせいだ。

試しにもう一度体温を測ってみたけれど、37度4分だった。少しだけ上がっていたとはいえ、まだ微熱の範囲だろう。

早く体調を治して、仕事に行って。また佐々木さんと話せるといいな。そのためには、温かくして寝なきゃ。
私は怠い体を引きずりソファから降りて、のそのそと部屋着に着替え始めた。

11/25/2023, 11:05:42 AM

【太陽の下へ】

眩しくて眩しくて、目を開けていられなかった。
地下とは比べものにならない明るさが怖くも感じた。
あんなに外に出ることを望んでいたのに、いざ出てみたら恐怖心の方が大きいだなんて思わなかった。

外では煩いほどに蝉が鳴いていた。少しずつ目を開けて、ゆっくりと周りを見渡す。そこには、およそ十年ほど地下に居たせいだろう、若い頃に見たのとは違う景色が広がっていた。昔は木々が生い茂っていたが、今は真新しい家ばかりが立ち並んでいる。けれど、真っ青な空だけは変わりなかった。

「先生」

数年ぶりに聞いた声に振り返る。昔の教え子だった。

「ご無沙汰しております。ようやく研究していた薬が完成したそうですね。おめでとうございます」
「ああ。十年ぶりに地上に出てこれたよ」
「長かったですね。きっと先生のお陰で、沢山の人が救われるでしょう」

夏の太陽の下。強い日差しに頭がくらりとする。暑さのせいか、体も妙に重い。あまりに久しぶりに外に出たため、少々疲れたのかも知れない。やはり十年も地下に篭って研究するなんて、無茶だったということか。
けれどこの太陽の日差しのように、人々の未来が明るく照らされるのならば安いものだ。

11/24/2023, 10:49:58 AM

【セーター】

お母さんが夜なべして編んでくれたとか、好きな人に渡したくて頑張って編んだとか。
そんな話を聞いたことがあるけど、自分にとってはどれも一昔前の話だ。

そんな僕が思うセーターと言えば、冬にゲームを買おうとショッピングアプリを開くと、トップページに並んでいる……といったものである。
寒い時期、アプリを起動してすぐ目に入るトップページに、『おすすめ商品』としてセーターが並んでいるのだ。

無地のものもあれば、縦にラインが入っているものもあり、ノルディック柄のものなんかもある。色もカラフルだ。

普段はあまりファッションに興味がない僕も、一度目に入ってしまえばしばらく眺めてしまう。
どれを着たって自分の顔や体型が変わるわけではない。自分の印象が大きく変わるってこともないだろう。

だけど、本当に何となく、これを着たら少しは気持ちが明るくなるかな、などと考える。
それこそ僕が密かに好きなあの子が、「似合ってるね」「暖かそうだね」なんて言ってくれて、そこから仲良くなれたらいいな……とか。

だから僕は、一年に一度、一枚だけセーターを買う。
まんまと『おすすめ商品』を勧められたままに買ってしまっているわけだが、誰か、或いは何かに勧められでもしなければ、服など手持ちのものや貰いもので済ませて、自分では一生買わないかも知れない。
だから、これはこれでいい機会だと思うのだ。

今年はクリーム色のセーターを注文した。正面のケーブル編みが、どこかレトロでお洒落だ。
大体3日後には、家に届くらしい。自分に似合うといいなと思いながら、僕は去年買った青いセーターを脱いで風呂に入った。

11/23/2023, 1:11:24 PM

【落ちていく】

雫がぽたり、ぽたりと落ちていく。
と言っても、音は聞こえないのだけれど。
毎日毎日、この雫が落ちるのを眺めていた。
途中で飽きて目を閉じてみても、何故かうまく眠れなくて。

毎日、一時間半。
怠い体を横たえたまま、ぼうっと雫を見つめている。
今の私は、この雫に生かされているようなものだ。
この心が深く沈んで、さらに暗いところへ落ちてしまう前に。
どうか私を元気にしておくれ。

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