【Red,Green,Blue】
RGBの光が
テレビ画面の色を表現している
実はスマホやパソコンの画面もだ
赤と緑と青
あるのはこの3色だけなのに
美しい景色やあの芸能人の姿や色を
詳細に伝えてくれているのだ
たった3色の光が
鮮やかな色彩を生んでいるという事実は
私たちを驚かせる
その技術を生み出した方々に
感謝と称賛の言葉を送りたい
【フィルター】
隣のクラスに転校してきたあの子は、前の学校で大人しい子を執拗にいじめていたという。それが先生や周りの生徒にバレて居づらくなり、逃げるように転校してきたらしい。
私はあの子を一瞬見かけただけで話もしていないけれど、そんな噂を聞いて、嫌なやつだなと思った。
その後は体育の授業や集会などで、ときどきその子を見かけることがあった。
見かけるたび、噂の内容を思い出して、なんでこの学校に来たんだ、早くこの学校からも転校すればいいのにと思った。
私も大人しい方だから、万が一いじめられたりしたら嫌だし、同じクラスになる前にいなくなってほしかった。
そのうち、私のクラスメイトたちも、
「あの子、暗そうな感じがして気持ち悪い」
「前の学校で他の子をいじめてたんでしょ? 最悪だよね」
「ここでは猫かぶって目立たないようにしてるみたいだけど、騙されない」
とあの子のことを話題にするようになった。
どれも悪い印象ばかりだったが、あの子の前の学校での行いのせいだから自業自得だ。だから私もそれらの意見には毎回同意していた。
転校したからといって、いじめをしていた事実は変わらないし、今までにやってきたことが簡単に許されるわけがないのだ。
けれどある日、あの子は自宅マンションから飛び降りて帰らぬ人となった。
学校では集会が開かれたが、亡くなった事実のみが伝えられ、先生たちの口から詳細が語られることはなかった。
私は、あの子が前の学校でいじめをしていたことで陰口を叩かれ、それを苦に命を絶ったのだと思った。
亡くなったのはもちろん悲しいことだが、自分が蒔いた種でもある。
そもそもいじめをしなければよかったんじゃないか、とも思った。
だが、私は友達からまた噂を聞いたのだ。
あの子の母親が、先生たちに話していたという内容を。
「あの子は前の学校でいじめに遭っていたのですが、いじめている子から離れられるよう、転校させました。
前の学校では毎日辛そうにしていましたが、転校して環境が変わると、いじめに遭う前のような笑顔を取り戻しました。
でも、そんな明るい顔を見せてくれたのも、この学校に転校してほんの数日だけのことでした。またあの子は辛そうな顔をして学校に通っていて……。
話を聞いてみると、自分が前の学校で他の子をいじめて、逃げるように転校してきたのだという噂が広がっているということでした。
否定しても、噂が広まりすぎていて全く信用してもらえないのだとも言っていました。
そしてどうやら、その噂をこちらの学校の生徒さんに流したのも、あの子をいじめていた子だったようです。
私はあの子を励ましたり、学校を休んでも構わないと言ったりしましたが、本人はどうしても他の子たちに自分がいじめなどしていないと分かってほしかったようで……友達も作りたいのだと言っていました。でも、やはりうまくいかなかったようです。それで、最後にはこんな結果に――」
友達から聞いたこの噂だって、本当かどうかは分からない。
隣の隣のクラスの子が、あの子の母親と先生たちが会議室で話しているのを聞いたという、そしてそれを私は友達から聞いているだけという、本当かどうかも怪しい噂だ。
だけど、もしこれが本当なら。
あの子が亡くなったのは、もしかしたら私たちのせいなんじゃないか。
私たちは、あの子とロクに話をするわけでもなく、本人の意見を聞くわけでもなく、噂という誰が作ったかも分からないフィルター越しにしかあの子を見ていなかった。
そのフィルターを意図的に作り、私たちの学校に広めたのも、前の学校であの子をいじめていた人。
私たちにとってはどこの誰かもはっきりしない、悪意だけしか感じられない人。
そんな人の作った噂に踊らされ、あの子を、もしかしたら何の罪もなかったかもしれないあの子を、追い詰めて殺してしまった。
私ははじめから、先入観というフィルターがかかった状態でしかあの子を見ることができていなかった。きっと私の周りの子たちも同じだっただろう。それがどれほどあの子を苦しめただろうか。分かってもらえない辛さは、あの子の生きる気力を削り取っていったはずだ。
これを読んでいる方も、知らず知らずのうちに私のようにフィルターに踊らされていないだろうか。
現実世界はもちろん、ネットの世界にも多くのフィルターがある。噂話、口コミ、インフルエンサーの投稿、広告……。
「このリップの色、優勝!」
「異動してきた今井さんって、不倫したらしいよ」
「絶対に後悔しない! 買ってよかったもの5選」
誰かが自分の思う通りになることを望み、事実とは異なる情報を流しているかもしれない。
騙されたり惑わされたりして、自分や誰かが傷つかないように。そして傷つけないように。フィルターの存在を意識してほしい。
【仲間になれなくて】
勇者さま
あのときは私を救ってくれてありがとうございました
あなたがいなければ
今ごろ私は魔物に食べられていたでしょう
助け出されたあと
あなたとその仲間に
一緒に戦おうと誘われて
魔法使いの私は言われるがままに
あなたたちと行動を共にしました
それからの旅は大変だったけれど楽しかった
山の中では少ない食料を分け合って
夜はお互いの体温で温まりながら眠りました
スライムは弱いモンスターだと油断していたら
たくさん集まってきて苦戦したこともありました
みんなで協力して
強敵のドラゴンを倒したこともありましたね
あのあとに飲んだぶどうジュースは
いつもと同じものなのにすごく美味しく感じました
勇者さまは旅の途中
私に「お前がいてくれてよかった」と言ってくれました
私の魔法や知恵に助けられていると
「とても信頼している仲間だ」とも言ってくれましたね
けれど私はそれらの言葉が嬉しいのに
心から喜ぶことができなかった
私は勇者さまと敵対する魔王軍の魔法使いなのです
今まで黙っていてごめんなさい
だからあなたが私を信頼してくれるほどに
罪悪感と苦悩が生まれ、私を追い詰めていきました
仲間だと言われるたび
仲間にはなれないと思っていました
だから本当は
勇者さまを始末するために探していたところ
魔物に襲われて
そこを勇者さまに救われたのです
あのとき、あなたが
見ず知らずの私のことなんて見捨ててしまえば
こうして勇者さまの前に立ちはだかることもなかった
あなたを多くの意味で苦しめることもなかったのです
過去の勇者さまの優しさが
今のあなたを辛い目に遭わせている
なんと悲しいことでしょう
優しさをもって人と接するよう学ばされる私たちなのに
それが人間として正しいはずなのに
私たちの立場が違うばかりにこんなことになってしまうなんて
勇者さま
私の魔法は痛いですか?
モンスターと戦っているとき
よく褒めてくれましたよね
「お前の強力な魔法があれば、どんな敵も怖くない」って
私も勇者さまの強さを知っています
意志の強そうな瞳と
それに負けないくらいの真っ直ぐな心
悪を許さず自分の進む道を信じて突き進む姿
どれも大好きでした
けれど、ごめんなさい
それでも私は
魔王軍の魔法使いでしかないのです
あんなに大事な仲間だと言って接してくれたのに
信頼してくれたのに
仲間になれなくて、ごめんなさい
【雨と君】
学校帰りに雨宿りをする場所は
いつも決まっていた
高校と家のちょうど真ん中くらい
ぽつんと建っている古いお店の屋根の下
いつ見てもシャッターが閉まっているから
もうやっていないのかもしれない
雨が止むのを待っていると
屋根の下に君が駆け込んできた
僕と同じ高校の制服
雨宿りしているときに
ここに僕以外の人が来るのは初めてだった
三ヶ月前に入学してきた一年生か、と思った
君は濡れた長い髪を拭いているけど
使っているのが小さなハンカチだから
水気はあまり取りきれていないようだった
屋根の下
一番右端と左端で
なにも話さず雨が通り過ぎるのを待つ
僕は君にタオルを貸そうか迷ったけど
知らない男子のタオルなんて
渡されても気持ち悪いかなと思ったし
話しかける勇気もなかったから
そのままでいた
やがて雨は止んで
君は笑顔で屋根の下から出ていった
その横顔にドキッとしてしまい
僕は一人恥ずかしく思いながら帰宅した
それから
学校の日に雨が降るたび
僕と君は同じ店の屋根の下で
なにも話さないまま雨宿りをした
僕は五回目に君と会ったとき
やっと挨拶ができたけれど
僕以上に大人しい性格の君は
なにも言わずにお辞儀だけを返してきた
六回目には小さな声だったけど
君の方から挨拶をしてくれた
僕は嬉しくて普段よりハキハキした声で挨拶して
あとから自分らしくなくて気色悪い、だなんて
反省会をしたんだったな
僕が君への気持ちに気づいて
少しずつ距離を縮めるために頑張ろうと決意したのも
このころだった
だけど八回目
僕と君が雨宿りをしていると
傘を持った男子が君を迎えにきた
君は僕にぺこりとお辞儀をして
その男子と仲良く相合傘で帰っていく
大きめの傘だから
二人入っても少しは余裕があるはずなのに
肩がぶつかるくらいの近い距離で歩いている
途中からは君が男子の制服の裾まで掴みはじめて
ああ、僕が知らないところで
君は別の人と距離を縮めていたんだなって思った
あの大人しい君が
僕の前では笑うことも少なかった君が
本当に嬉しそうに
僕ではない男の肩に頭を寄せて微笑んでいる
いや、もしかすると
大人しかったんじゃなくて
あまり話さなかったのは
相手が僕だったから?
九回目になるはずの雨の日
君は来なかった
僕はまた一人
いつもと同じ店の前で雨宿りをしていた
空から降る無数の滴に自分の気持ちを重ねながら
【信号】
夕方、森にキノコをとりにきた。しばらくキノコを探し、粗方集まったところで帰ろうとすると、森の奥から聞いたことのない言語のアナウンスが聞こえてきた。
気になって近づいてみると、金属製の壊れた乗り物のようなものがあった。その乗り物からはアンテナのようなものが伸びており、先端で黄色い光が点滅している。
……まさか、宇宙船?
このアンテナの光は、事故が起きたことを外部に知らせる信号でも送っているのだろうか。
アナウンスは「ロース」なのか「ソオルス」なのか「エンオウ」なのか、少なくとも日本語ではない単語を繰り返していた。音質が悪く、ノイズも混じっている。乗り物が壊れているということはなんらかの衝撃があったはずだから、アナウンスの聞こえにも影響が出たのかもしれない。
それにしても。乗り物らしきものは車でも飛行機でもないようだ。金色とも銀色ともつかない金属のような素材でできている。階段のように凹凸のある独特のシルエットが特徴的だ。ところどころにヒビが入ったり割れたりしていて、乗り物の頂点からは細く煙が上がっている。
俺はキノコの入った籠を投げ出し、乗り物を調べることにした。金属の不思議な色に惹かれ、右手で乗り物の表面に触れると、ジュオッ! という音が短く響いた。
「……え?」
気がつけば自分の右手がなくなっていた。残った手首からは、わずかに黒い炭のようなものがボロボロと地面に崩れ落ちていく。
「ひ、いぃぃ!?」
今さらながら熱さと痛みを感じて悲鳴を上げる。するとその声に驚いたのか、乗り物の中からゾンビのような見た目をした得体の知れない生物が這い出てきた。
「く、来るな!」
痛みや驚き、恐怖心から怒鳴るが、ゾンビは想像以上のスピードで俺の元へとやってきた。
俺は森で迷ったときのためにと持っていたホイッスルを吹いたが、そんなに早く誰かが助けに来られるわけもなく。ゾンビは当たり前のように俺を食らった。
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俺は任務のため、ザン号に乗ってタキュー星に向かっていたが、その途中で隕石にぶつかってしまい、見知らぬ星に不時着した。
幸い俺に怪我はなかったものの、ザン号は落下の衝撃のせいで使い物にならなくなってしまった。
ザン号の機能を修理し、なんとか救援信号を出してみたが、自分の故郷であるドンプランズ星からの応答がないため、ちゃんと届いているかも分からない。仕方がないので、周囲にも信号を出した。もし同じ星の仲間も任務に来ているなら、これに気がついて助けてくれるかもしれない。だが、音質が最悪なので、うまく伝わるかどうかは怪しいところだ。
それからだいぶ時間が経ったが、応答も救援も一向にやってこない。ザン号についている機能で調べたところ、ここは地球という星のようだった。落ちたところが「森」と呼ばれる場所なのが悪かったのか、ろくな生命体が通りかからない。見かけたのは「獣」「虫」「鳥」など、会話も困難な生き物だけだった。
ドンプランズ星から持ってきた非常食も、すでに食べ尽くしてしまっている。かと言って、このザン号から自分が呼吸できるかも分からない地球に降り立っていいのだろうか。地球の空気は、俺にとっては猛毒になるかもしれない。計りしれない重力に押し潰される危険性もある。肌が焼け爛れる可能性も……心配と不安は尽きなかったが、体力と空腹の限界も感じていた。
そこに、ようやく通りかかったのだ。
頭の悪そうな、しかし背ばかりは高く、食べ応えのありそうな生き物が。
その生き物は、ザン号の前で大きな声を上げていた。そうでなければ、俺はそいつの存在には気が付かなかっただろう。
俺は地球への不安を忘れてザン号から飛び出すと、生き物に夢中で齧り付いた。なにかを言っているようだったが、言葉はひとつも分からなかった。
食べ尽くしてしまってから、ザン号の修理の手伝いや地球についての情報を教えてもらうなど、なにか協力を願うべきだったと思った。
まあ、ドンプランズ星人の俺たちは、なによりも食べることに執着しているのだから仕方あるまい。
腹を満たした俺は、ザン号の中に戻った。地球に対する危険性は薄れたが、まだ安心はできない。もう少し調べてみなければ……。
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救援信号の光は、森の奥でなおも点滅している。
誰とも分からない人骨と、キノコの入った籠の近くで。